ロ字ック第十五回本公演『剥愛』│脚本・演出・山田佳奈×主演・さとうほなみインタビュー

写真左から)さとうほなみ、山田佳奈

映画監督として『タイトル、拒絶』を手掛け、Netflixオリジナルドラマ『全裸監督』では脚本を担当するなど、各方面で活躍中の山田佳奈。自身が主宰する劇団口字ックの新作公演『剥愛』は、さとうほなみ、瀬戸さおり、山中聡、岩男海史、柿丸美智恵、吉見一豊という個性的な面々で描かれる人間ドラマ。

2020年にロ字ックが山田佳奈の単身体制になって以後、はじめてとなるオリジナル新作だけに、いったいどんな作品となるのか?主演を務めるさとうほなみと、演出・脚本を務める山田佳奈を迎えて、11月に迫る『剥愛』への意気込みを語って貰った。

「6人のバラバラ感をどう整えて、どう活かすかが凄く楽しみ」(山田)

ーーキャスト陣が剥製の動物に囲まれている『剥愛』のビジュアルが公開されました。不穏な感じでインパクトが強いですね

山田 作品のイメージが曇天が立ち込める狭い田舎町であるというのと、今まで口字ックが選択して来なかったシックさをビジュアルで出したかったので、思い切ってモノクロにしてみました。

さとう 撮影のときは6人が密着した状態になって、キメキメで撮りました。

山田 楽しかったね~。皆さん「はじめまして」という状態だったので、静かにやっても良かったんですけど、宣伝写真の撮影ってある意味で稽古に入る前のコミュニケーションの場としても大切なので、私がガヤ芸人よろしく「いいね~」とか人一倍大きな声を出して煽っていました。

さとう 言ってた!言ってた!

山田 邪魔だったよね?

さとう 邪魔じゃないけど、(立ち位置的に)私の真後ろが吉見(一豊)さんで、佳奈さんが「吉見さん、お酒が美味しい感じの表情でお願いします!」とか言ってて、「何それっ!どんな顔?」って気にはなってました。

山田 みなさんにガヤを言ってて(笑)。ほなみちゃんには「いいね、いいね、ロックスターみたいだね!」って言ってたかな。

さとう うん。スターみたいって確かに言われてた(笑)。

ーー『剥愛』は口字ックが山田佳奈さん単身体制になってから初のオリジナル作品でもあります。どのような流れで新作と向かわれていったのでしょうか?

山田 今、演劇じゃないフィールドでもいろいろアウトプットをさせて頂いていますが、自分の作家性みたいな部分を限界なく発表できる場所はやっぱり劇団だなと思っています。そのなかで自分が本当に何を書きたいんだろうと向き合って出てきたのが、“今”の時代について自分が思っていることを書きたいということでした。

ーー『剥愛』は、剥製師の工房を舞台にした人間ドラマと伺っています

山田 剥製師の話は、20代後半からずっと書きたいと思っていました。昔、剥製師さんの工房に取材に行って、鶏を剥製にする工程を見せて貰ったのですが、そのときに「死んだ身体にもう一回命を与えるために、血の色を足していかなきゃいけない」、「なのでトサカには赤いインクを載せなければいけないんです」と言われて、命をもう一度与えるという観点で仕事をするってことが新鮮で、強く印象に残っていました。いつか書きたいと思っていた題材だったのですが、今がそのタイミングかなと思いました。

ーー剥製師の父、出戻りの長女、父の面倒を見る寡黙な妹、剥製師を志願する謎の男……登場する人物たちがそれぞれ事情を抱えている

山田 社会に対して、何が白で黒かが正直わからなくなっていて、犯罪の場合は、法があるから白黒をはっきりつけられるけど、でも、その先にも人間っていうミクロな視点で見ると絶対的な理由があるわけで。他人が人の正義のあり方についてどうこう言うのがおこがましい時代だなと思っちゃったんですよね。

さとう そうかも。

山田 人間の正義のあり方も一個じゃないし、対立してしまうこともあるし。でもそれはアイデンティティの違いなので否定もできない。そうなったときに全員を導けるものって、自分の“想像の果て”を使って、どこに辿り着くのかを見せることかなと。観客は、自分のなかの想像力とか立場を通して解決してくれればいいなと思っています。

ーーキャスティングはどのように進んでいったのですか?

山田 主人公は、自分に対して納得いかない、生きづらいと感じている女性を描きたいと思いました。最終的に他者からは不幸な人に見られるかもしれないけど、それでも何か次に進む一歩を手渡せればという。

さとう うん。

山田 バッドエンドに見えても、私なりにはハッピーエンドというか。現実はそんなに甘いものではないし、その現状がすぐに変わるわけではないけれども、考え方や捉え方次第で次に進む歩み方は変わるっていうのは、作品づくりをしているときに思っていました。ただ、自分自身に納得いってない人がずっと虐げられてきた人かというと、そうじゃないとも思ったんです。きっとそれまでの人生ではちやほやされてきたんじゃないかと。そんなときに信頼しているスタッフからほなみちゃんの名前を上げて貰ったんです。

さとう 私は今回の話を頂く前から、佳奈さんが監督した映画の『タイトル、拒絶』が大好きで、好きな箇所を語れるくらいでした。

山田 ありがとうございます。

さとう 『剥愛』のプロットを読ませて貰って、この人たちの危うさをいったい山田佳奈さんはどうするんだろう? と興味も沸いたし。

山田 嬉しいですねえ。実は今回、ほなみちゃんの名前が出るずっと前から私は一方的に知っていましたけどね(笑)。それこそ10年以上前、ゲスの極み乙女がまだブレイクする前からチェックしていましたから。

さとう え?そんな前から?

山田 言ったじゃん!『ドレスを脱げ』のMVでほなみちゃんがめちゃくちゃ演技してた頃から知ってるよって。

さとう あー言われた!恥ずかしいっ(笑)。

山田 そのMVきっかけでゲスの極み乙女を好きになってCDも買ってましたからね。特典のシールとかも貰ったりして(笑)。

さとう ……ゲスくんのシールですね(笑)。

山田 なので口字ックは、ゲスの極み乙女からかなり刺激を受けていました。斜に構えてるんだけど、真面目で、ちょっと崩す感じがカッコいいなと思っていました。どこかでご一緒できればと思っていたので、今回は念願が叶ったと思っています。

さとう 改めて佳奈さんに伝えられると恥ずかしいですね。あのMVの演技、本当に恥ずかしいので……。私は山田佳奈作品に出られるんだったら、是非出してくださいって感じでした。プロットを読ませて貰ったときから(主人公である)菜月役がやれたら、自分のなかの第一章が完結するみたいな感じになるんじゃないかと思っているくらいです。

山田 自分の作品が、人に寄り添える可能性を持っているんだなというのは幸せですね。

ーーさとうさんから見て主人公の菜月はどういう女性ですか?

さとう 私がグッと来たのは、菜月が自分では関係ないところで何かが起こると思っているところ。彼女は自分では手をくださないけど、他人に対して「爆発しろ!」とか「コケて轢かれろ!」と思っちゃう人で。そういう人っているし、そういうことって思うよなって凄く身近に感じました。

山田 ああいう人っているよね……まあ、私が自分で書いたんだからそりゃあ思うんだけど(笑)。

さとう フフフ。気に食わないことがあっても、自分では手を出したくないって感情は誰しもがあると思うし、それを思うのが菜月って女性だと思うので、稽古をしながらナチュラルに落とし込めたらいいですね。

ーー6名のキャストそれぞれが口字ックの旗のもとに集まっているのが興味深いです

山田 今回は6様の信頼を置いていて、みなさんたぶん違う戦い方をしてきた人たちの集まりってところが面白いかなと。そのバラバラ感をどう整えて、どう活かすかが凄く楽しみです。

ーー『剥愛』は11月10日(金)からの東京・シアタートラムを皮切りに、11月22日(水)から愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース、11月25日(土)からの大阪・扇町ミュージアムキューブの全国3箇所での公演が決まっています

山田 めちゃくちゃ楽しみです。

ーーさとうさんはバンドでのツアー経験が豊富ですが演劇でのツアーに臨むお気持ちは?

さとう バンドのツアーってメンバーも変わらないし、ハコに直で入ってしまうからなかなか外にも出ないので、あまり違う場所にいる感覚がないんですよね。ですけど、今回は6人に加えて佳奈さんたちと回ると想像するだけで、凄く濃そうな旅になりそうだなと思っています。

山田 6人ってある意味でちょっとしたバンドの編成じゃない?なんなら管楽器もいるくらい。私、バンドに憧れがあるのでそういう意味ではとても楽しいツアーになりそう。

さとう そういえばそうですね(笑)。

山田 みなさん与えられたセクションを自分の美学とプライドを持ってめちゃくちゃ上手に演奏してくれるミュージシャンたちばかりのバンドってイメージ。

さとう ハハハ。そうかも!

山田 「とよはし芸術劇場PLAT アートスペース」と「扇町ミュージアムキューブ」は、口字ックの受け入れ態勢ばっちりなので、そこでやれるのも楽しみなんですよね。

ーー地方公演って特別なものですか?

山田 私はご褒美だと思っています。東京である程度、形ができるので、それを地方でちょっとだけ変えるんです。例えばセリフの速度感とか。

さとう そうなんですか? 

山田 前回、豊橋で経験したのは、東京でやっていた速度感でセリフを言っていたらリアクションが少なかったので、ほんの気持ちだけセリフの(間を)置いたら、ドッヒャーって沸いたんです。

さとう そんなことが!?

山田 地方によって、生活している人の受け取り方の速度の違いがあって、それはあるのかなと。地方はそういうところができるので面白いなと思っています。

ーー最後に、チケットを買おうか迷っている方に向けて声をかけるなら?

山田 今、舞台のチケットって凄く高いんですよね。生活が苦しいなかで演劇や映画にお金を出すのがツラい人とかもいらっしゃると思います。その方たちに向けて「絶対、観に来てくれよな」とは私からは言えません。だけど、人間がやってる舞台って自分と呼応するチャンスでもあると思うんです。空間芸術だから。そういう意味では、体感しに来てもらったときに何かしら高いお金を払って見てよかったって思える作品を届けられると思っています。

さとう 私からは一言だけ。「絶対、観に来てくれよな!」です。

山田 あ、言った(笑)。

ーー11月を楽しみにしております。ありがとうございました

インタビュー・文/高畠正人
写真/ローチケ演劇部