朗読劇「明日のナージャ〜16歳の旅立ち〜」小清水亜美インタビュー


「その世界が見えるような体験をしていただけたら嬉しい」


2003年2月から1年にわたり放送された東映アニメーション制作のオリジナル作品「明日のナージャ」。放送から20周年を記念して、9月30日・10月1日に朗読イベントが開催される。今回の朗読劇では、アニメ放送後のナージャたちを描いた小説「明日のナージャ 16歳の旅立ち」(講談社キャラクター文庫)を朗読劇用に再構築した特別編を展開。ナージャ役の小清水亜美に、キャラクターや朗読劇への思い、アニメ放送当時のアフレコ時の思い出などを聞いた。


――20年の時を経て、再びナージャを演じることになりましたね。まずは、朗読劇として上演されることへの想いを聞かせてください。

こうして皆さまの前に新しいシナリオとしてお届けする機会がいただけるとは思ってもみなかったので、とても嬉しくも思いますし、ありがたいですが、それと同時に、ものすごくプレッシャーも感じています。当時、アニメを観てくださっていたお子さんたちが、20年経って大人になっているんですよね。なので、懐かしいと思って来てくださる方も多いのかなと思います。アニメ放送当時、イベントなどには親子連れで来てくださる方が多かったんですよ。なので、当時は子どもだった方たちが今、パパやママになってお子さんを連れて来てくださるということもあるのかしらと思うと、それもまた楽しみです。皆さんに楽しんでいただけるものになればと思います。


――プレッシャーがあるというのは、何に対してのプレッシャーなんですか?

この作品のアフレコをしていた当時は、私自身は16歳で、それまで声優業を一切やったことがなかったんですよ。マイクの前に立つという経験すらなかったんです。なので、毎週、その時の自分にできる精一杯で収録に臨んでいました。今ならば「この役はこういう喉の使い方をして、こういう性格だから、このくらい幅のある表現をしよう。こうした感情表現をしよう」とプランを作れますが、当時はそうしたプランも作れないままに、ただ役に臨んでいたんですよ。しかも、10代の時の声質と今ではやっぱり違います。背格好はその頃とあまり変わらないと思いますが、声質は20歳を超えると変わっていくんです。当時、私が子どもだったから出せていた音もある。なので、それを今の私が、狙ってやっていかなければいけない。もちろん同じことはできないですし、かといってモノマネみたいにならないようにもしなければいけないなとも思っていますが、16歳の女の子に聞こえるように、今の私が演じられるのだろうかという、大きなハードルがあります。楽しみにして来てくださる皆さんの期待にそえるものが私に出せるのかどうかというところでのプレッシャーですね。

 


――なるほど。アフレコと朗読劇では、演じる上での違いを感じることはありますか?

アフレコは、絵があるんですよ。キャラクターが動いて、表情がついているので、最悪、声でうまく表現できなくても、絵で表現することができます。もちろん、声優陣はそうならないように演じようとしていますが、そのキャラクターがどこを見て、どんな表情をしていて、どんな距離感があるのかは、全て絵が表現してくれているんです。ですが、朗読劇は音だけ。今、このキャラクターたちはどういう距離感で会話をしているのか、どういう感情なのか、どういう表情なのかを全て、私たちの芝居から想像してもらう必要があります。それを想像させられなければ、失敗だと思います。そういう意味で、朗読劇はサポートがない状態でやらなければいけないというのは大きいです。ただ、絵がないからこそ選べる表現というものも時にあります。絵で描かれている表情は変えられないので、もしかしたら、同じセリフでも別の表情でこの言葉を言うこともあり得るのかもしれない。それがきちんと成立していれば、違う表現にチャレンジすることができる。それが朗読劇のスペシャルなところかなと思います。


――今回、観客のいる前で演じることになりますが、それについてはいかがでしょうか?

これまでも何度か、朗読劇はやらせていただいていますが、同じ空間にいることで、観に来てくださっている皆さんの集中力や感情が感じ取れて一体感があります。同じ世界にいることを感じ取れるのが、朗読劇だと思います。ただ、今回、ナージャを朗読劇で演じるときに、そこまでの余裕を持ってできるのかは分からないんですが(苦笑)。実際に、お客さまの反応を見て、表現を変えることもあると思います。それはもちろん、セリフが大きく変わるということではないですが、こうしようと準備していた表現があっても、皆さま次第ではそれを変えて演じていこうと思っていますので、生き物のように楽しんでいただければと思います。

 


――では、アニメ放送当時は、ナージャというキャラクターに対して、どんな印象を持っていましたか?

とにかく、必死すぎて…どうだったかな(笑)。ただ、ナージャには、まだ知らないことが多いからこそ、真っ直ぐにぶつかっていけるのだなというのは、当時から感じていたことでした。知ってしまっているからこそ、怖くて踏み出せなくなることってあるじゃないですか。それがないんですよね、ナージャって。それは、本人のまっすぐな性格ということもありますが、それだけではなく、良くも悪くも経験値がないから、怖がらずに進んでいけるのだと思います。当時、私自身が置かれていた立場や「とにかく前向きに頑張ろう」という気持ちをシンクロできたら、うまくいくのかなと思いながら演じていました。それから、ナージャは、傷ついたり怒ったりしても、そこで終わらないんですよ。諦めない。やめてしまうこともできるのに、どんなに心が折れるようなことがあったり、苦しい思いをしても立ち止まらなかったんですよね。それが彼女の魅力であり、強さだなと思っていました。大人になると、諦めをつけようと思えばつけられてしまうことも多いので、これではいけないと改めて思い出させてくれる人物でもあります。


――当時、この作品に対して感じていたことと、今、感じていることでは、変化はありますか?

当時の自分も、分かろうと思っていましたし、分かっているつもりでもいましたし、見えている気になっていましたが、本質に気づけていなかったんだろうなと思うところはたくさんあります。それだけ私自身が、この20年間でいろいろなことを経験してきたということなんだと思います。色に例えるならば、青だと思っていたけれど、実は青にもいろんな青があることに気づいたという感じです。当時の私にとって、青は一色だったんですよ。でも、実は青にもいろいろな種類があることを知り、「この青は群青。これは水色」というように、きちんとラベルもつけられるようになった。それが今だと思います。同じものを観ていても、理解できるようになったんだなと。ただ、細かいラベリングはできていないけれども、大きく捉えていけたというのも、それはそれでスペシャルだったと思いますし、それはナージャを演じる上では必要なことだったと思います。逆に言ってしまえば、ラベリングができるようになってしまった私がナージャを演じられるのかという不安もあります(苦笑)。

 


――アフレコで印象に残っている出来事を教えてください。

20年も経ってしまっているので、もしかしたら自分の中での記憶の改ざんがあるのかもしれないですけれど…。ナージャの場合は、前もって映像を見てチェックしてから現場に行くのではなく、現場に入って初めて映像を観るというやり方でした。なので、その時に流れゆく映像を観て、自分のセリフに入っている指示をチェックしていくんです。みんなでその映像を観ているので、巻き戻しをすることはできないので、とにかく見落とさないようにチェックしながら観るのですが、皆さん、自分たちのことで大変な中で、私の分まで先輩たちがチェックしてくれていて。私も必死にやるんですが、どうしても取りこぼしてしまっていたので、そこは必ず誰かが教えてくださっていました。それから、本来、声優業には「マイクワーク」が欠かせないもので、それができて一人前のところがありますが、マイクワークもしなくていいと、私が占領していいマイクを作ってくれて、優先させてくださっていました。ナージャの現場を終えて、別の現場に入った時に「なんてスペシャルなことだったんだろう」と実感をしました。アーベル役の山崎たくみさんは、私が読めない漢字や業界の専門用語を集めたオリジナルの問題集を作ってくださり、教えていただいたこともありました。例えば、「セリフ」という漢字には「科白」と「台詞」の2つの書き方があるとか、そうした知っておいた方が今後苦労しないであろう漢字のテストを作ってくださったんです。できなかったところは一緒に答え合わせをしながら覚えていって…。本当に皆さんに育てていただいたなと思います。


――学びながらのアフレコだったんですね。

まさにそうでした。台本のチェックの仕方や、アフレコで着てはいけない衣装、現場ではどういう所作をすべきかといったことをフランシスとキース役の斎賀みつきさんに教わりました。私は、業界のルールも知らないことだらけだったので、そういったことはシルヴィー・アルテ役の折笠富美子さんに教えていただきました。それから、リテイクが重なっていくとプレッシャーで縮こまってしまって、言葉がうまく出なくなってしまった時には、皆さんが優しい言葉をかけてくださって、空気を和ませてくださり、私の緊張を解いてくださっていました。声優業でどうしていくのが正解なのかとか、何を大事にすべきなのかということを皆さんに教えていただいたことで、今の自分があると思います。だからこそ、そこで教わったことを今、若い世代に伝えたいと思っています。本当にダンデライオン一座だったなと思います。


――今回は、20年前にアフレコを一緒に行っていた斎賀みつきさん、宍戸留美さん、一条和矢さんが集結されると聞いています。皆さんと再び、この作品に携わることへの期待や楽しみも大きいのではないですか?

20年経った今も変わらず、私にとっての王子様は斎賀さんです! 別の作品で共演させていただいた時も、やはり私の演じるキャラクターの王子様役を演じてくださったんですよ。そんな斎賀さんと初めてご一緒した作品で、再び斎賀さんのフランシスとキースに出会えるのはとても嬉しいです。

ローズマリー役の宍戸さんには本当に引っ張っていただいていました。ライバル役でしたので、キャラクター同士が言い合ったり、やり合ったりしなければならないシーンがとても多くて、その中で私がうまく感情表現をしきれない、セリフを言い切れないところを、宍戸さんのローズマリーちゃんが嫌味に言ってくれることで助けてくださっていました。本来ならば、宍戸さんにはやりたい手法がもっと他にあったのだろうと思います。ですが、私ができることが限られてしまっているから、それに合わせたライバル役としてのセリフをチョイスして引っ張り上げてくださっていました。今回の朗読劇で当時のようにぶつかるセリフがあるのかどうかは分かりませんが、宍戸さんが演じたいローズマリーに、今度はしっかりとぶつかっていけたらいいなと思います。

一条さんにも色々とご迷惑おかけし、愛のある指導をいただいていたので、今回、この朗読劇で一条さんが私をどう評価するのかドキドキしています。頑張ったねと笑ってもらえたら嬉しいなと思ってます。

それから、今回は、高橋広樹さんが新しく入ってくださいます。広樹さんとは、私がナージャを卒業した後の作品でヒロインをやらせていただいた時に、お相手役をやっていただきました。広樹さんにも芝居で大変ご迷惑をおかけしたと思うので、今回、こうしてまた共演できることが嬉しいです。


――高橋さんとの共演も楽しみですね。最後に、改めて公演の意気込みをお聞かせください。

色あせさせずに表現したいなという思いを持ちつつも、今の自分だからできることを大事に演じられたらいいなと思っています。当時、アニメ放送を観てくださっていた皆さん、そして、今回のこの朗読劇で初めてナージャに触れてくださる皆さん、どちらにとってもその世界が見えるような体験をしていただけたら嬉しいです。そんな体験をしていただけるように頑張ります。

 

取材・文/嶋田真己