15世紀、中世フランスという時代に「フランスを救え、フランス国王を救え」という神の声に従い、ジャンヌ・ダルクは王太子シャルルを王とするためにイングランド軍と戦い、ランス大聖堂におけるシャルルの戴冠式にも列席することになるが……。歴史上有名な実在の人物にして、ドラマティックかつ謎の多い人生を送ったジャンヌ・ダルク。彼女の運命を大胆に描いた舞台『ジャンヌ・ダルク』は演出を白井晃が担当し、脚本を中島かずきが執筆、音楽を三宅純が手がけるという豪華な布陣で、2010年に初演、2014年に再演した名作だ。初演では堀北真希、再演では有村架純がジャンヌを演じ、どちらも初舞台であることも大きな話題となっていた。この作品が2023年、待望の再々演を果たす。主演のジャンヌは今回もこれが初舞台となる清原果耶が務めることとなり、またもや注目を集めている。
そしてジャンヌが後押しすることでフランスの王座に就くシャルル7世役は今回、小関裕太が扮することとなった。初演では伊藤英明、再演では東山紀之が演じたシャルルを、小関はどう演じようとしているのか。本格的な稽古を前に、作品への想いや現時点での意気込みなどを、小関に語ってもらった。
――これが三演目となる『ジャンヌ・ダルク』ですが、シャルル7世役としてオファーを受けた時の率直なお気持ちを、まずお聞かせください。
最初に思ったのは、シャルル7世役は初演が伊藤英明さん、再演が東山紀之さんで、お二人とも自分とは年齢が違ったので、少し戸惑いがありました。それで「おぉ、僕なんだ、なんでだろう?」と思い、早速シャルルについて調べてみたら、物語当時の実年齢はわりと僕に近かったことがわかって。演出の白井さんによると、今回はキャストを一新して、その際にシャルルの年齢を少し下げてみたいというのも試みのひとつだったみたいです。この先輩方が演じられてきた役に自分が挑戦するのかと思うとちょっと恐怖でもありますが、いざ台本を読んでみたら「僕だったらこう演じたいな」という気持ちがパッと出てきたので、怖さよりも挑戦してみたいという思いのほうが徐々に勝ってきて、今日に至るという感じです。
――映像でもご覧になりましたか。
僕はまず再演のほうを拝見したのですが、何より規模感がすごかったです。台本には具体的に書かれていない部分、特に100人近くの人が舞台上を走りまくるシーン、客席を駆け抜けていく姿は圧巻でしたね。映像でもここまで迫力を感じるということは実際に客席から観ていたら、いい意味でものすごく戸惑うかも、そのくらいの迫力でした。最近、他の舞台作品を観劇する機会があるたび、もしこの客席通路をジャンヌ・ダルクが駆けていったらどんな感じになるだろう?と、仮にイメージしてみたりもしているんですよ。この間は、まさにブリリアホールに行ったので、その時にもこの場所でやるとどういう風に見えるかな、どんなジャンヌ・ダルクの世界になるのかなと想像してみたのですが、2023年のブリリアバージョンになっても絶対に楽しめそうだ!と早くも確信しました。
――白井さんとは、既に少しお話をされたとのことですが。
はい。ビジュアル撮影の時に久しぶりにお会いして、役についてと、物語の時代背景などについてお話ししました。たとえば僕が演じるシャルル7世は、キャラクター設定として臆病だとのことでしたが、僕が思うに、臆病というのはキャッチーでわかりやすい言葉ではあるのですが、細分化すると臆病ともまたちょっと違うのかな、と。具体的な言葉は見つかりきっていませんが、彼には他にもいろいろな形容詞が当てはまりそうな気がするんです。
――臆病だけではない、と?
苦悩とか、実の母親への訝りとか、さまざまな言葉が集合体になっての、臆病なんじゃないかと思ったんです。そういう、僕が台本を読んで思ったことを白井さんにまずお伝えして「合ってますか?」と確認をしてみたんです。そうしたら「そうだね、彼はこういうストーリーを辿ってきてるからね」「シノン城に立てこもったのもそういうことですよね?」みたいなやりとりになって。だから確認というより、すり合わせをしたという感じでした。この作品に限らず、どの作品でも、演出家だったり脚本家だったり、映像で言うところの監督やプロデューサーがそれぞれ、同じ台本の同じ文章、同じト書きでも違う解釈をしていることって常にあることで。そういう、自分にない解釈を聞いた上でどれを選択するかを考えるのも楽しいですし好きなんですけど、まずはやっぱり自分はこう思ったというのも大事だと思うので、白井さんとディスカッションする意味でビジュアル撮影の前にお話ししてみたんです。結構、一致しているポイントが多かったので少しホッとしました。
――今回、清原果耶さんが初舞台でジャンヌ・ダルクを演じられますが。初共演で、今日の時点ではまだ面識もないとのことですが、今のところどんな印象をお持ちですか。
すごくアバウトな言い方になってしまいますが、よく「この人の雰囲気って、映画っぽいね」みたいな言い方をすることがありますけど。他にも「ドラマっぽいね」とか「舞台で活きる人だね」とか「力強いね」とかいろいろある中で、特に清原さんの場合は「映画っぽい」方だなと思っていまして。すごく雰囲気があって、映像映えして、目線一つに意味を感じるし、醸し出す空気に淡さと儚さを感じさせる方だな、と一視聴者としては思っています。それをまとめて「映画っぽいな」と思うんですよね。そうやって映像を鎧にしてこれまで走ってきた最前線を行く女優さんが、同じお芝居ではあるけれど見え方がだいぶ変わる舞台という場所に向けて走り出したことには、僕もすごく興味があります。もちろん僕にも初舞台の経験はあるんですが、実は小学4年生の時だったんですよね。
――それは、なかなか早かったですね。
そうなんです。だけど僕が「ヤバイ! 舞台って難しい!!」と自覚したのは、21歳で出演した、白井さんが演出協力として参加されていたミュージカル『わたしは真悟』(2016年)、で。本当の意味での僕の初舞台は『わたしは真悟』なんじゃないかな、と思うくらいです。もちろんそれまでに出演していた舞台も本気で、身を削ってやっていましたし、プライドを持って取り組んできたのですが、なにしろそのプライドを白井さんにズタボロにされまして……。
――そうだったんですか(笑)。
はい(笑)。だから今回、改めて白井さんとご一緒できることが楽しみですし、清原さんがそういう意味で白井さんが演出するこの作品で初舞台を踏むということもすごく気になりますし。でもその一方で、清原さんに強さをとても感じるんです。舞台は儚さも大切ですが、舞台人として強さがある人のほうがやはりお客様には届くものがあるように僕は思うので、果たして舞台ではどんな清原さんが見られるのかなと、今まで映像で見てきた視聴者としてもすごく楽しみに思っています。
――今年は、舞台『キングダム』でも王を演じられていますが。
そうなんです。彼は紀元前の中華での王なので、場所も時代も違うんですけどね。とはいえ、やはり同じように実際にあった国の王を演じた時に感じたこと、王だけが感じる気持ち、苦悩とか喜びとか責任感とか、そういうものを長い期間を費やして作品を通して感じてきたので。その実感を経て、シャルルを演じるからこそ見えるものもきっとあるだろうなと思いますし、この公演を終えたあとで見えてくる景色は果たしてどういうものなんだろう、というのもとても楽しみです。絶対、自分が想像する以上の、得るものがあるとも思っています。
――今回キャストがすべて一新されていますが、小関さんから見た今回の座組は、どんなカンパニーになりそうだと思われていますか。
いやあ、パワフルだなあ!って、まず思いました。役者さんにもさまざまなイメージの方がいらっしゃいますけど、「優しそうな」とか「爽やかな」とかいろいろな方がいる中で、今回は「強い」役者さんが揃われたなあという印象があります。福士誠治さんや深水元基さんや榎木孝明さんという、何度かご一緒したことのある方もいらして、それぞれ芯がものすごく強く、かつ声も強い方ばかりだし、まだお会いしたことのない方もなんだかとても人としてのエネルギーが強そうな方ばかりです。それと、清原さんが初舞台なのはもちろん気になりますが、山崎紘菜さんとはつい先日までドラマ(『賭けからはじまるサヨナラの恋』)でご一緒していたんです。そこではくっつきそうでくっつかないヒロインとその相手役の僕、という間柄だったんですが、この舞台では夫婦役になるので「楽しみだね!」とドラマ現場でも話していたところなんですよ。
――撮影現場で、既にそういうお話もされていた。
山崎さんは初舞台ではないものの、舞台経験は今回が2(朗読劇を入れると3)度目らしくて。これまであまり指摘をされなかったからと妙に身構えている様子で「初舞台に近いようなものですから、気合いを入れていきます!」とおっしゃっていたので、そういう意味でも清原さんと同じく山崎さんの違う顔が見られるのかな、違うお芝居ができるのかなということもすごく興味津々です。
――では最後に、お客さまに向けてお誘いのメッセージをいただけますか。
もう、とにかく今回は規模感がすごいです! コロナ禍を経て、最近ではいろいろな舞台で役者が客席におりていく演出も少しずつ増え、この作品は約100人の出演者たちが劇場を走り回るという、圧巻のパフォーマンスが観られるはずで、きっと視覚的にもとても楽しめる作品になると思います。そのスペクタクル感、そしてエネルギーをぜひ、肌で感じに来てほしいなと思います!
取材・文/田中里津子
ヘアメイク/佐々木麻里子
スタイリスト/吉本 知嗣
撮影/岸 隆子