モボ・モガプロデュース 舞台『多重露光』が日本青年館ホールにて上演される。
4作目となるモボ・モガプロデュース最新作は、稲垣吾郎を主演に迎え、今もっとも期待されている気鋭の劇作家・横山拓也が脚本を書きおろし、演出を読売演劇大賞演出家賞を受賞しさらに注目が高まる眞鍋卓嗣が務める。出演者には、稲垣吾郎に加え、真飛聖、杉田雷麟・小澤竜心(ダブルキャスト)、竹井亮介、橋爪未萠里、石橋けい、相島一之ほか、実力派俳優が集結した。
稽古が始まったばかりの和気あいあいとした雰囲気の中、横山拓也、稲垣吾郎、真飛聖に本作について話を聞いた。
自分なりのカメラへの愛情も台本に込められたら(横山)
――今作の企画を聞いたときのお気持ちはいかがでしたか?
稲垣「去年にお話をお聞きして、今回横山さんに脚本を書きおろしていただくということで、とても楽しみにしていました。最近舞台ではミュージカルや音楽劇など、スケールの大きな作品をやらせていただいていて、今回のような少人数で演劇を作っていくストレートプレイは久しぶりになるので、また新たな挑戦ができることをうれしく感じています」
横山「稲垣さんは、僕が子供の頃からずっと拝見していた方なので、お話をいただいたときは純粋に驚きました。「僕でいいんですか?」と(笑)」
稲垣「今年の春頃に、僕がディレクションしているレストラン「BISTRO J_O」でスタッフ数人を交えて打ち合わせをして、そのときに初めてお会いしたんですよね。趣味やプライベートの話題で話が弾み、その中で「写真」の話も出てきたり。そもそも僕が写真が趣味ってご存知だったんですか?」
横山「はい。その上で構想を組み立てていたので、改めてご本人からお聞きして、またそこから物語を広げていくことができました。稲垣さんほどではありませんが、実は僕も写真に触れる機会がありまして。芸術大学出身なので、学生時代に写真の授業をとったりしていたんです。アナログのクラシックなカメラにも興味があったので、今作では自分なりのカメラへの愛情も台本の中に持ち込めたらなと思って書きました」
――初めてお会いした時のお互いの印象はどうでしたか?
横山「めちゃめちゃ緊張して、全然喋れなかったんですよ(笑)」
稲垣「本当ですか?(笑)」
横山「本当ですよ。いろいろ聞こうと思って頭の中で準備していたんですが、もう(緊張して)出てくる料理にもなかなか手をつけられない、みたいな(笑)」
稲垣「気付かなくてすみません(笑)」
横山「ラジオで稲垣さんの番組をお聞きして、「こういう語り口の方なんだ」と新鮮に感じて。昔イメージしていた稲垣さんよりも、“生っぽい感じ”の印象をラジオから受けていたので、「ラジオのままだ」って思いました」
稲垣「うれしいですね。横山さんがいるとその場の空気がすごく柔らかくなるので、ご自身の作品のように、垣根を作らずとても朗らかな方だなという印象でした。今みたいににこやかな笑顔でお話させていただいて、ますます脚本が楽しみになったという感じでしたね」
純九郎は、自分にはない感覚を持った人物(稲垣)
――台本を読まれて、作品や役柄の印象についてはいかがですか?
稲垣「繊細な人たちのお話だなと思いました。自分にはもうない感覚と言いますか、いつから鈍感になってしまったのかな、と思うくらいに……」
真飛「吾郎さんは「僕も優しくなろう」って言ってましたよね(笑)」
稲垣「そういう気持ちを少し忘れかけていたというか。僕が演じる純九郎という人物は、両親からの「言葉の呪縛」に締め付けられていて、40歳を過ぎても未だにどう生きたらいいのかわからず、本来の自分や自分自身の生き方を見つけられていない人なんですね。社会の中でそれなりに生きていくことはできるけれど、本当の意味で解決できていないことがあったり、自分が理想とする家族の形をどこかで追い求めている。そういった感覚は、僕にはあまりなかったので」
――役柄とご自身はあまり重ならない?
稲垣「そうですね。僕自身は家族のことであまり悩んだこともないですし、今も親兄弟とは仲が良くて、それは本当に恵まれていることだなと思います。一方でこういった発言は無神経な感じがして、自分でも嫌だったりするのですが……。でも、世の中には自分の生き方を模索して、本当の自分で居ることができずに葛藤している人もいると思うんですよね。僕自身は、芸能界で鈍感力を身に着けて逞しくなってしまったのか、どこかで割り切って生きていけるようになってしまった部分がありますが。そういった意味では、あまり役と重なるところはありませんが、自分自身とは遠い性質の人も含めて、いろんな人間を知っていきたいという思いが根底にありますし、とても興味深いお話だと思いました」
真飛「横山さんの作品は、会話劇がすごく面白いんですよね。言葉のチョイスや、日常の会話のテンションがそのまま描かれていたりと、いい意味で劇的でないところが魅力的で。今回の作品でも、(純九郎の)ご近所さんたちの会話のやり取りがとても楽しくて、「私も仲間に入りたいなあ」と思いながらお稽古で皆さんの台詞を聞いています」
――今回真飛さんが演じられる麗華という女性は、どのような人物と捉えていますか?
真飛「麗華はお嬢様として何不自由なく可愛がられて育てられたということもあり、ある意味偏った、少し自己中心的なところがあるんですよね。なので、息子への愛情のかけ方に対しても、ちょっと過保護すぎない?と感じるとろもあったり。でも、麗華なりに、不器用ながら一生懸命愛情をかけて育てている。そんな中で、子供の頃に家族写真を撮っていた写真館へ行き、純九郎と出会って、段々と情緒不安定な一面が見えてきて…という」
――台本を読ませていただきましたが、麗華の様子の変化にはとても引き込まれるものがありましたし、見どころでもありますよね。
真飛「怖いですよね~(笑)。まだそのあたりは自分の中で掘り下げられていないところでもあるので、横山さんや演出の眞鍋さんとお話しさせていただきながら作っていきたいと思っています」
吾郎さんには、絶対的な信頼を寄せています(真飛)
――稲垣さんと真飛さんは、これまでも舞台や映像作品で共演されていますが、お互いに役者としての魅力はどんなところに感じていますか?
稲垣「真飛さんとは、2012年に初めてミュージカルで共演させていただいて。あのとき、僕がミュージカルが初めてだったこともあり、歌唱をはじめいろいろな面で助けてもらいました。本当に大切な存在ですね、真飛さんは。あと、ミステリアスでクールな役柄の印象が強いですが、草彅 剛くんが出ていた映画『ミッドナイトスワン』の真飛さんを観てびっくりしたのを覚えています。これまでにないキャラクターで、エモーショナルなお芝居が素晴らしかったので、すぐそれをご本人にお伝えしました。僕の知っている真飛さんの魅力ってこれだよね、って思いましたね」
真飛「ちょっとこの録音を今日持って帰ってもいいですか?(笑)」
一同「(笑)」
稲垣「以前からストレートプレイのリアルなお話の作品も一緒にやれたらいいね、って話していたので、今回いいチャンスをいただけて楽しみですね」
真飛「宝塚退団後の初めての舞台で吾郎さんの相手役をさせていただいたのですが、何もかもが初めてだったので、稽古場での居方もわからないような状態だったんです。女性の役を演じるのも初めてで、身長があるのでその時ヒールの低い靴を履いていたんですね。そしたら、吾郎さんが「高いヒールを履いた方が綺麗に見えるんだから、気にしないで履きなよ。女子の特権だよ。ピンヒールかっこよくない?」って言ってくださって。なんて男前なんだ…!と感動して、ちょっと泣きそうになりました。それがすごく印象に残っていますね。あと、その頃吾郎さんはグループの活動もあってお忙しくて、稽古場でお話できる時間がなかなか取れなかったんです。そしたら、吾郎さんの方から気を利かせて連絡してきてくださって。そこで今の状況や自分の気持ちをお伝えして、プライベートの話などもさせていただいたことでお互いの距離が縮まって、それがお芝居にもいい方向に影響していったんですね。そういう包んでくださる優しさや大きさを持った方なので、吾郎さんには絶対的な信頼を寄せています」
横山「真飛さんは、かっこよくてクールな印象がずっとあったので、「お嬢様」という記号的な役どころが、後半にいくにつれてそのイメージが壊れていったら、きっと僕の知らない部分が見えてくるのかな、という思いもあって今回書かせてもらいました。でも、実際にお会いしてみたら、人と距離を縮めるのがとても上手で、すごく魅力的な方だなと思いましたね。稽古場でも、ご自分の役に対して気になったところをしっかり伝えてくれて。そうやってちゃんとコミュニケーションをとってくださったことで、自分では気付けなかったことに気付かせてもらえて、それがいい改稿にもつながっていきました。作家としても、本当にいい関係を作っていただいたなと感じています」
――稲垣さんについてはいかがですか?
横山「先ほども言った“生っぽさ”を感じるようになってから、出演されている映画の見方も変わっていきましたね。『半世界』で父親役を演じられているのを見て、こういう役もやられるんだ、ってすごく意外性を感じました。また、去年見た『窓辺にて』では、今まで拝見してきた中で一番素敵な稲垣さんを見た、と思いました。あんなふうにナチュラルに本来お持ちのミステリアスさが演技で出てくるのが衝撃的でしたね。今回の役にも少し参考にさせていただいているのですが、あの生っぽいリアルな感じが舞台に上がったら素敵だなと思っています」
――本作では、「親から子供への呪縛」といったテーマが内在していますが、どのような観点から物語を作り上げていったのでしょうか。
横山「最近、自分の作品を見直して“親と子のドラマ”をいろんな作品で描いているなと気付いて。僕自身はそんなに親子関係に問題があった方ではないんですが、何にこだわって親子のことばかり執着して書いているのか、ちょっと自分でも言語化できないところがあるんです。また、今回のお話に関しては、僕も含めて、登場人物の純九郎も麗華も40代の大人ですが、実は自分が傷ついていることや寂しいと思っていることに上手く蓋をして過ごしているのではないか。そういう大人が実は今の時代多いんじゃないかなと思っていて、その感覚を作品に描いているところもありますね。
また、思い出を閉じ込めている感覚というのは、アナログカメラにも通ずるなと思ったんです。フィルムの状態にある時って、ここに閉じ込められている感じがあるというか。その雰囲気と、40代の我々が何か上手く隠して気付かないようにしてきたことって、重なるものがあるんじゃないかと。そういったものが家族の物語としてうまく表出できたらいいなと思いながら書きました」
――純九郎のキャラクターも興味深いですよね。社会性がまったくないわけではないけれど、どこか問題もあるように感じる人物です。
横山「演出の眞鍋さんとも話したのですが、この物語の始まる前までは、それなりに社会で上手くやってきた人なんだろうね、と。でも40代半ばを迎えて、この物語のスタート時点で、何か欠落しているものを埋めたい思いとか、自分で処理できない思いみたいなものがだんだん発露し始めた。その瞬間からドラマがスタートしているので、今このタイミングでこじれている時期が来たのだと思います」
稲垣「根本的な話として、俳優が役のことをすべて理解する必要はないと僕は思っていて。純九郎は理解しづらいキャラクターではありますが、そこが神秘的であってほしいとも思うんですよね。この作品の登場人物って、みんな一見普通に見えて、どこかおかしいんですよ。物語自体もよくある人情ドラマではまったくないですし。そこの“不思議さ”は自分の中でも残しておきたい部分ですね」
――純九郎は親からの期待に苦しみ、葛藤を抱えている人物でもありますが、親や世間からの期待、プレッシャーなどの外圧から、皆さんはどう乗り越えて来られましたか?
稲垣「僕自身は特別そういったことで悩んだことはないのですが、もしかしたら本当に蓋をしちゃっているのかもしれないですね。ちょと危ないよね(笑)。でも今がとても幸せだし、自分を満たすこと、自分が幸せだなと思えることに注力することが大事だと思います。何かしらのトラウマや、まだ解決できていないものっていうのは誰しもあると思いますが、そこはもうあまり意識的に考えないようにしていますね」
真飛「私は一見強そうに見られるんですが、実は落ち込みやすい性格で。でも宝塚時代はそう言っていられない立場にもいたので、とにかく「私はできる!」って毎日自分に言い聞かせていましたね。振り返ると、すごい立場を自分は任されていたんだなと思います。今は「本当にやっていたんだろうか?」と思うぐらい、遠い過去の出来事のように感じますが、あの頃から比べると、今では自分の脆い部分も楽しむようになってきたところがありますね。ちょっと笑い話にして浄化できるようになったというか」
横山「この仕事を続けている中で、「作品の質」に関しては常にプレッシャーに感じているところではありますね。それに対しては、少なくとも自分が言い訳しないで済む作品作りをしよう、せめて自分だけでもこの作品を面白がれるようにいようとか、そういうところを基準にして乗り越えているのだと思います」
取材・文/古内かほ
写真/山口真由子
スタイリスト(稲垣吾郎)/栗田泰臣
ヘアメイク(稲垣吾郎)/金田順子(June)
スタイリスト(真飛聖/津野真吾(impiger)
ヘアメイク(真飛聖)/yumi(Three PEACE)
衣装協力/ブラウス¥37,400/ソブ、スカート¥35,200/ダブルスタンダードクロージング(共にフィルム)、その他スタイリスト私物 ※全て税込価格
取材協力:シャングリ・ラ 東京