COCOON PRODUCTION 2023『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』ゲネプロ&初日前会見レポート

2023.09.14

写真左から)ノゾエ征爾、藤井隆、竜星涼、高橋惠子

竜星涼、藤井隆、高橋惠子らが出演する舞台「ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~」が東京・世田谷パブリックシアターにて開幕した。

作・演出を手掛けるのは、劇団はえぎわを主宰し、俳優としても活動しているノゾエ征爾。初演は2010年で、世田谷区内の高齢者施設を十数か所も訪問して生み出された本作は、「老い」と「進化」という相反する方向性を重ね合わせた物語。幾度かの再演を重ね、2023年の今、再構築して上演する。初日を前に、ゲネプロと会見が実施された。

会見で司会より、稽古で大変だったことを尋ねられたノゾエは「描くという部分で、ただ描くというものではない、という部分を役者さんと共有することに時間をかけました。これは、俳優さん、役の人物そのものの行動であり、息遣いであり、生活そのものなので、そこから乖離しないでほしかったんです。とても今、良い感じになっているので。いいところに気付けたなと思っています」と、黒板に描く、という演出へのこだわりをのぞかせた。

そして竜星は、「舞台上にチョークで描くというのが本当に新しい。最初は戸惑いとか、このぐらいの大きさでいいのかな、とかいろいろ考えました。実際に劇場に入ってみると、もっと大きく濃く描かないとな、などの発見もありました」と、劇場空間に入ってから、より描くことの難しさを実感した様子。

続いて藤井は「少しでも地面の絵を見ていただきたいということで、少し角度がついているんですけども、ありがたいことに稽古からそういうセットを組んでいただけまして。なので、1カ月以上もやっていると足もパンパンなんです。でも、惠子さんはその空間も華やかにに寛がれているんですよ。こういうふうに居られたらと思いますね」と、傾斜のある舞台ならではの苦労と、高橋の女優魂を感じたエピソードを披露した。

最後に高橋が「私、絵が苦手だったので一度も褒められたことが無かったんです。でも、みなさんに褒めていただけて、そういうことはちょっと嬉しかったです。字もキレイって言っていただけたんですけど、小学校の先生をやっていたっていう設定なんですよ」と、稽古で苦手な絵を褒めてもらえて、実は嬉しかったとはにかんだ。

その他、各キャストのコメントは以下の通り。

ノゾエ 作品としては4回目の上演になりますが、台本や演出の内容としては、それほど変わっていません。ただ20年以上の間、社会は進んでいますし、生活者も進んでいます。俳優さんたちも進み続けている中で、こうして集まってくださってみなさんがとてもいい息遣いで進んでいます。それが何よりも嬉しいですし、それを早くお客さんとご一緒したいという思いでいます。

竜星 この素晴らしい劇場で、真ん中に立たせていただけるということを嬉しく思います。僕がどんな影響を皆さんに与えて、逆にそれを受けた自分がどう進化していくのか。どういうふうに新しい自分自身を見つけることができるのか、楽しみです。少しでも、僕自身が進化していけたらなと思っていますので、ぜひこの舞台を楽しんでもらえたら嬉しいです。

藤井 8月から稽古を重ねてきましたが、出演者の方々もスタッフの方々も穏やかで優しい人が多くて、本当に楽しい稽古でした。劇場に入って今後を迎えるのが本当に楽しみです。こちらの後は旅公演もありますので、たくさんの方々にご覧いただければと思っています。

高橋 この作品に参加できたこと、本当に幸せなことだと思っております。この年になって…と言いますか、長く続けてきて、また新たな扉を開くような感覚がしています。そういう経験ができることに、感謝しています。早くお客さまの前で演じたいと思っていますが、ちょっと怖いです。今まで、そんなことを思ったことは無かったんですが、今回の役に限っては、初めて”表情を無くす”、”反応しない”、そういうことを要求されたお芝居です。ぜひ皆さんに、ご覧いただきたいと思います。

ゲネプロレポート

会見後、ゲネプロがメディア向けに公開された。

派遣でピエロをしている青年(竜星涼)は、社会に馴染めず、ピエロの仕事も決して順調ではなかった。そんな時、ひとりの老女(高橋惠子)と出会い、何気なくパフォーマンスを見せると、老女は笑顔を見せた。そして、青年の後をついてくる老女。青年は困ってしまうが、老女の表情を見てつい、自宅へと連れ帰ってしまう――。

舞台上は、床も含め真っ黒な黒板に囲まれた空間。冒頭はセリフもなく、音楽と効果音、そして役者のパフォーマンスと絵で構成され、床をチョークの線で囲めばそこが”部屋”となり、トイレや食事など必要なものはすべてチョークで役者自身が描いていく。時には、その役の立場を紹介したり、場所を説明したりと、あらゆることが黒板を使って表現され、徐々に空間が役者の手によって文字や絵で埋め尽くされ、まるで生きた証のように遺る。

青年と老女の奇妙な同居生活は、当初は笑顔にあふれていた。普段は人を正視できない青年も、老女には屈託のない笑顔を見せる。しかし、そもそもギリギリだった青年の暮らしは、2人暮らしとなったことで徐々に苦しくなってくる。たまたま近所に住んでいた同級生の女の子(瀬戸さおり)と再会した青年は、彼女が当時の担任(菅原永二)と結婚し、妊娠中だと聞かされる。彼女との再会で、かつて青年は担任から「目を見て話せ」と注意されたことを思い出していた。

老女が老人ホームから逃げ出したことで、職員の2人(山本圭祐、山口航太)はその責任を問われる。老女の家族(家納ジュンコ、中井千聖)は彼らをなじり、老女を探して街を歩く。青年の隣に越してきた外国人の男(駒木根隆介)は、つかみどころがないがとにかく陽気だ。ピエロの仕事の派遣元で働く女性職員(芋生悠)は、妙に絡んでくる先輩社員(青柳翔)をかわしつつも、青年のことが気になっている様子だ。青年の兄(藤井隆)も青年を気にかけ、青年の家を訪れる。しかし、その兄も妻(山田真歩)との関係に悩んでいるようだ。兄の後輩で、なぜか兄に付きまとう男(ノゾエ征爾)の存在も疎ましかった。そして兄や女性社員など、少しずつ周囲が青年と老女の同棲に気付くのだが――。

登場人物の誰もが大なり小なり何かを抱え、上手くいかない人生をどうにか生きている。人生に疲労し、それでもうまく生きようともがく人々。誰もが老いに向かう中、彼らの苦い経験は良い方向への進化となるのか。それとも…。

後半、クラシックの名曲が流れる中での寓話のような空間と圧倒されるような行進、そして何かが拓かれたような収束。その結末を見届けた後、何がその胸に残るのか。ぜひそれを、劇場で感じ取ってほしい。

舞台「ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~」は東京・世田谷パブリックシアターにて9月24日(日)まで上演。その後、京都、岡山、新潟にて上演される。

取材・文/宮崎新之
舞台写真=撮影/細野晋司
会見写真=撮影/ローチケ演劇部(つ)