言式「解なし」│梅津瑞樹 × 橋本祥平 インタビュー

俳優の梅津瑞樹と橋本祥平が演劇ユニットを結成!「言式(げんしき)」と名づけられたこのユニットによる第一弾公演の二人芝居「解なし」が梅津の脚本・演出で上演される。ユニットを結成した理由に「言式」の意味、そして気になる「解なし」の内容についてまで、本格的な稽古開始を前に2人に話を聞いた。

――まずはお2人でユニットを組むことになった経緯について教えてください

梅津 僕がずっと「やりたいなぁ」と思っていたことを祥平にコソっと言って、周りの人にコソっと根回しをしたらこうなったんですけど(笑)。「ロクマチ」(※「ろくにんよれば町内会」)という番組を一緒にやってきて、エチュード(即興演技)をするコーナーがたびたびあったんですけど半年くらい経った頃からかな…?祥平が出すものにすごく惹かれていって、自分がいま、何かをやるならこの人とかもしれないと思ったんですよね。

――1回限りの公演ではなく、ユニットを組んで継続的にやっていこうと思ったのは?

梅津 祥平が今後の人生で、どれくらい演劇にエネルギーを振り分けるのかはわからないけど、僕自身は生涯にわたってやっていくんだろうと思っていて、その中で何かしっかりした母体、ベースみたいなものがほしいなと思ったんですよね。
もともと、劇団(※鴻上尚史主宰の「虚構の劇団」)に所属していたんですけど、そこがなくなって(2020年解散)、それが原因というわけではないんですが、今後、自分がやりたいことをやっていくなら、(母体が)あったほうがいいだろうと思いました。
自分で何かを生み出したい――1を2にするんじゃなくて、0から1を生み出したいという気持ちはずっとありました。責任をもって一緒に作品を作り「これが俺たちの思う面白いものだ!」と世の中に宣言できる、その相手をずっと探していたんですよね。

――橋本さんは、梅津さんの言葉をどのように受け止めたんでしょうか?

橋本 僕は今年で役者を始めて10年目になるんですが「これからどういう方向に進んでいくのか?」とか「どういう芝居が好きなんだろう?」「自分はどうありたいんだろう?」などといろんなことを考える時期に差し掛かっていたんですね。
そんな時期に瑞樹くんが手を差し伸べてくれたんですが、僕も「やる」と即答したんですね。「俺でいいの?」という驚きもありましたけど、即答したということは、やっぱり演劇が好きなんだということだし、一緒に作ったものを出したいという気持ちがあったんですよね。11年目から、また新たな船出としてとても素敵な船に乗せてもらったなという気持ちです。
瑞樹くんはすごく才があって、常に「普通はそっちに行かないよな…」ってところに行くんですよ。そんなすごい人が俺を…というプレッシャーもあります(苦笑)。いつこの人に飽きられるのか?フタを開けてみたら「違ったなぁ」と思われるんじゃないか?という恐怖感もあります(笑)。でも、そうやってハードルが上がっている状況に飛び込むというのも、僕にとっても勝負だなと思います。

梅津 鴻上尚史が「イケメンはピエロになるべきだ」って言ってまして。なまじカッコいいと、それだけで成立してしまうものがたくさんあるけど、そこから外してピエロになれる人は少ないと。その点、祥平はメチャクチャキレイな顔してますけど、ダサさみたいなものがすごく良くて、芝居の中でそういう部分が光るんですよね。

――「言式(げんしき)」というユニット名は「試」という漢字を分解したものですが、どのようにしてこの名前に?

梅津 これは祥平だった気がするけど…。

橋本 2人のアイディアですね。

梅津 制作さんからは、公演の細かい内容はこれから詰めていくにせよ、タイトルとユニット名だけは先にほしいと言われまして。急ぎで考えなくちゃいけない状況だったんです。

橋本 そこで「どうありたいのか?」という話をして「試せる場所って大事だよね」という話になったんですよね。「試」をバラして「言式」と僕が言ったら、2人ともピンときて「いいんじゃない?」と。

梅津 言葉の式を組み立てるというのも、僕自身、これまで“言葉”というものをすごく大事にしてきたので、しっくりきたんですよね。

――物語の内容、脚本に関してはどのように作っていき、具体的にどのような作品になっているのでしょうか?

梅津 2人でネタ出しをしまして、「最近、何があった?」「こういうときってどうする?」みたいな話をしながら、そこから生まれたものを物語にしていった感じですね。“不条理”というものにフィーチャーしたオムニバス劇になっています。「解なし」とありますが、“何”の解がないのか?というのをご覧いただければと思います。

橋本 100人が観て100人に刺さるような作品ではないかもしれません。でも、それでいいと思っています。普段、僕らは原作のある作品に出演することが多くて、原作のキャラクターに寄り添って役を作っていくんですけど、今回は自分たちが好きなことをしようというのがテーマとしてあって、(観る側が)一度、こっちに寄ってみてほしいという思いがあります。それがどう転ぶかわからないですが、少なくとも第一弾として僕らがやりたいことという意味では、最高の脚本ができたと思っています。

――具体的な内容について、言える範囲で教えていただけますか?

梅津 実は今回、“コント公演”と銘打つべきか?と悩んだこともあったくらい、笑いの要素も散りばめられています。ただコントと打ち出すと、笑いが主体となってしまうので、それは違うなと。「笑ってもらえなかったらどうしよう?」ということではなく、笑わせることが目的ではないという意味で。ネタ出しの段階では、例えば過去にクラスメイトにこんな人がいて…という話をしたり。

橋本 実際に自分の体験を取り入れている部分が多いですね。例えば、ある夜、僕が家に帰る途中、前を女性の人がひとりで歩いていたことがあって、これは向こうからしたら、すごく怖い状況かもしれないなと思ったんですけど、僕は僕で「不審者だと思われたらどうしよう」と怖くなってしまって…。そんな男女の視点の違いみたいなものを入れられたら面白いよねといった話をしたことがありました。
こうしたエピソードの何がおかしみにつながっているのか?分解して、それをこういうふうに表現したら面白くなるんじゃないか?という感じで、膨らませていきましたね。
コントとして笑いを取りに行こうとしたら、芸人さんには絶対に勝てないですけど、逆に役者だからこそとれる笑いもあると思っていて、僕らの演技力を活かして、真面目にやるからこそ笑ってしまうような部分もあるんじゃないかと思っています。

梅津 面白いのは、これだけ最前線で活躍している俳優を捕まえといて、芝居をさせない方向で作っているという(笑)。そういう構造自体のおかしさも使えたらなと思っています。

――公演を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします

梅津 僕らがあれこれと話していた内容が、台本として形になって、それがこれからの稽古を通じてどんなものになっていくのか、まだまだ未知数なんですけど、既に面白いものができるだろうという確信があります。

橋本 覚悟という点では、僕らはもう結婚をしたような思いで臨んでいます。この演劇の世界で、できることなら一生添い遂げたいと思える人とお芝居を作っていくという覚悟です。この先、どう転ぶのか?まずはこの一発目にかかっているので、全力で挑みたいと思います!

取材・文/黒豆直樹