『“Le gai mariage”「ル・ゲィ・マリアージュ~愉快な結婚」II.』公演レポート

2023.10.20

ジェラール・ビトンとミシェル・マンズが手がけ、2011年にモリエール賞の最優秀コメディ賞にノミネートされた戯曲『ル・ゲィ・マリアージュ~愉快な結婚~』。2023年3月・4月の日本公演が好評を博し、再演となる今回は、高田翔、富本惣昭、菊池修司、渡辺みり愛、松田洋治という華と実力を備えたキャストが集結した。東京・六本木トリコロールシアターで10月13日(金)より開幕したオシャレで上質なフランスコメディの様子をレポートする。

<あらすじ>

女好きでモテモテのアンリ・ド・サシー(高田翔)。結婚する気はさらさらなかったが、亡くなった叔母が「一年以内に結婚すること」という条件付きで100万ユーロの遺産を遺したことが発覚する。

遺産は手に入れたいが、大勢の女性から1人だけ選んで結婚するのは不可能。そんなアンリに、友人の弁護士ノルベール(菊池修司)が親友のドド(富本惣昭)との偽装結婚を持ちかける。2人の結婚生活は、信心深いアンリの父親・エドモン(松田洋治)やアンリと恋愛中のエリザ(渡辺みり愛)を巻き込み思いがけない方向に――。


高田は、身勝手ながらも可愛らしいアンリを描き出す。貴族の家系故かアンリの気質故かわからないプライドの高さ、それによって起きるトラブルやすれ違いなども憎めない愛嬌を持って表現している。偽装結婚がバレないように奔走する様子、平静を装いながらも心情がダダ漏れな表情が楽しく、愛すべきプレイボーイだ。自業自得ではあるが、ジェットコースターのような展開に振り回される彼を応援したくなってしまう。

初演に引き続き出演する富本は抜群の安定感でドドを演じている。ちょっととぼけたキャラクターが魅力的で、アンリやノルベールとの絶妙に噛み合わない会話やマイペースな姿に、客席からは何度も笑いが起きていた。

菊池修司が演じるのは、クールだが熱くなりやすいギャップが楽しいノルベール。弁護士らしい聡明さを見せたかと思うと急に激昂する切り替えの速さ、さらりと挟み込むアドリブで強いインパクトを残している。

冒頭から3人のテンポの良い掛け合いや絶妙な間が心地よく、気のおけない悪友といった雰囲気が微笑ましい。遺産を受け取る方法を知って嘆くアンリに悪巧みを持ちかけるノルベール、2人の話を無視して自分の世界に入っているドド、互いの利益のために手を組むアンリ&ドドと、会話を通してそれぞれの関係性や性格がはっきり見えてくる。

アンリとドドの結婚生活における不満や喧嘩は共感できるものばかりで、身近な物語として受け取れるのも魅力だ。どちらか、または双方の言葉に頷いたり呆れたりしながら見ることができるのではないだろうか。長年の友人とはいえ譲れないポイントがあり、結婚や同居の難しさも再認識させられる。笑いながらも結婚や社会について様々なことを考えられるのも、本作の魅力と言えるだろう。

松田は、信心深い父・エドモンを好演。アンリとの間に微妙な距離があった状態からの変化をパワフルに見せる。堅苦しい父かと思いきや意外な事実が発覚し、場を引っ掻き回すのが面白い。冒頭でのアンリとの会話がぎこちないぶん、わだかまりがなくなってからのイキイキとした姿や笑顔に惹きつけられる。

そして、渡辺演じるエリザが登場すると、ラストに向けてコミカルさはますますパワーアップしていく。渡辺はヒロインらしい可憐さで物語に華を添えるとともに、コメディエンヌっぷりも存分に発揮。アンリのでまかせによる勘違いで子供相手に話すような口調になったり、次の瞬間に冷ややかな表情を浮かべたり、くるくる変わる声音と表情が魅力的だ。

今回の演出を手がけているのはキ上の空論の中島庸介。自らの脚本・演出作品で重いテーマや生々しい感情もコミカルでテンポよく描く中島らしく、本作でもメリハリのついた演出で飽きさせない。それぞれが事情をところどころしか知らなかったり勘違いが発生したりすることで刻一刻と状況が変わっていくスピード感のあるフランス・コメディに、客席からは何度も大きな笑い声が上がっていた。

また、富本以外は本作からの参加だが、それぞれがキャラクターらしさを損なわない範囲で自由に動いている印象を受けた。プロデューサーのキャスティング力と細やかなこだわりによって、各キャストの強みや魅力を堪能できる絶妙なキャスティングになっているといえるだろう。富本や菊池のアドリブに他のキャスト陣が笑いを堪えたり、セリフを喋っているキャスト以外が表情や動きでコミカルさを出したりとのびのび芝居をしており、千秋楽までにどう進化していくかワクワクした。

小劇場でのワンシチュエーションコメディだが、そのぶんセットや小物、BGMにこだわり、オシャレなフランスの雰囲気が漂う空間を作り上げているのも魅力。キャスト陣の衣装もオシャレで、特に高田演じるアンリは様々なファッションを見せてくれるのも楽しい。

キャストの息遣いまで感じられるような空間で繰り広げられる上質なコメディを、ぜひ劇場で見届けてほしい。本作は10月29日(日)まで東京・六本木トリコロールシアターにて上演される。

また、アフター・トークの開催も決定!抱腹絶倒の公演終了後にどんなトークが聞けるか楽しみにしよう。初演でアンリ・ド・サシーを演じた今江大地が観にくるかも…?

同じ日、同じ時間になれたら幸せいっぱいでは!

文/吉田 沙奈