『光より前に~夜明けの走者たち~』作・演出:谷賢一&宮崎秋人&木村了&和田正人 インタビュー

写真向かって左より木村了、宮崎秋人、和田正人


1964年の東京オリンピックで銅メダルを獲得したマラソンランナー・円谷幸吉と、その4年後のメキシコオリンピックで銀メダルを獲得した君原健二。ライバルであり友人であったふたりの生きる姿を描く舞台『光より前に~夜明けの走者たち~』。作・演出の谷賢一、主演の宮崎秋人、木村了、和田正人が出席して合同取材会が行われた。

 

――そもそも谷さんはなぜこの題材を選んだのでしょうか。

「円谷幸吉・君原健二というふたりの男の人生が、こんなにドラマチックなのになぜ今までドラマ化も舞台化もされていないのかというのはすごく不思議なことだと感じています。ふたりの物語には、たくさんのメッセージが詰まってると思うんですよ」

 

――銅メダル獲得後、周囲からのプレッシャーに耐え切れず死を選ぶ円谷さん。東京オリンピックでの失敗を克服し、次のオリンピックで銀メダルを獲得、今も現役で走り続けていらっしゃる君原さん。ふたりは正反対なマラソンランナーですね。

「僕がずっと興味があるのは、なぜそこまでして走るのかということ。そしてなぜ片方のランナーは栄光をつかむことができ、片方のランナーは死を選ぶことになってしまったのか。それになぜ君原健二は一回失意の底に叩き落とされてそこから復活できたのか、なぜ円谷幸吉のあの有名な遺書の言葉が出てきたのか。興味だらけなんですよ。そこには現代を生きる人たちにとっても参考になることや教訓になることがあるとも思います。だけど単純に物語として悲しいものや美しいものがたくさん詰まっていますし。それがこの“すごく有名なのにドラマが埋もれてしまっているふたり”にスポットライトを当てたいと思った理由です」

宮崎秋人(円谷幸吉 役)

――そのなかで宮崎さんは円谷幸吉、木村さんは君原健二を演じますが、いかがですか?

宮崎「実在した人物を演じる、時代劇じゃなく、この何十年で生きていた方を演じるのは初めてです。君原さんはご存命ですし、(自分が演じる人物を)知ってる人がいるという状況で演じることに、「どうしよう」というところは正直まだあります。今は、実際に円谷さんと縁のある土地に行ってみて、どんな空気を吸って、学生時代や子供時代にどんな道を走ってたいたのかとか、そういうものを直接見てみようと思っているところです。あとは、走る。舞台上で実際に走る走らないに関わらず、極力走ってる人たちの精神になれるように。それと身体づくりですね」

木村「君原さんは今も走り続けている方で、マラソンランナーにとっては偉大な方。僕は今は、資料として君原さんの本などを読みつつ、どんな方なのかなと思い描きつつ、自分との共通項を探している最中です。今ひとつ思っているのは、この役者という仕事も孤独といえば孤独ですし、そういう共通項はあるのかなって。今は、そこと自分を重ねながら、君原さんに寄せてみたり、いろいろな方法ですり合わせています」

木村了(君原健二 役)

――和田さんご自身は箱根駅伝にも出場された元ランナーでいらっしゃって、今回は円谷さんを導く畠山コーチを演じますね。

和田「僕は走る役は何度かあるのですが、教える側の役はあまりやったことないので、また新鮮な気持ちです。今回が初共演ですが、僕は、宮崎秋人という人間にまだまだ使い切れてないエネルギーや葛藤をすごく感じているので。この作品は、それをぶつける場所としてうってつけだし、とことん迷ってほしいし、とことん苦しんでほしいなと思っています。そこに僕がどう寄り添えるか。まだ全然想像もつかないですけど、秋人がぶつけてきた力と同じかそれを超える力を持って、向き合ってぶつかっていけたらいいものが生まれるのかなと思っています」

 

――和田さんは、この作品に特別監修で入られる青山学院大学・陸上競技部監督の原晋さんと、ももともと交流があるそうですね。

和田「去年、「陸王」というドラマでお会いして、それから親しくさせいただいています。今回、この舞台をやるうえでお力をお借りしたいという話があって、僕もまた原さんとお仕事したい気持ちも強かったですし、お願いしました。「力になれるのであれば是非」と快く承諾していただけて、とても嬉しい気持ちでしたね」

和田正人(畠野洋夫 役)
――原監督はどんな方ですか?

和田「なんとなくそういうイメージはあると思いますが、陸上界の異端児みたいな存在です。陸上界ってやや閉鎖的なところがあるのですが、そのなかで原さんは意識が外に向いてるというか、先に向いてるというか。本気で陸上界のことを心配して、「もっとこうするべきだ」とどんどん発言されていて、陸上界も変わろうとしているなかで、大きな影響を与えている方だと思います。今回、この作品に原さんが参加してくださるのは本当に心強い。僕たちも本気で関わっていかなきゃいけないという緊張感もあるので、死ぬ気でがんばっていきたいです」

 

――取材前にはワークショップも行われましたが、谷さんは俳優の皆さんとお話しされてどう感じましたか?

「今日一番「よかった」と感じたことは、みんなが「走る」ということに対して既に考え始めている、動き始めているとわかったことです。ホッとしたというか、心強いというか。演劇って、稽古場に入って言葉で立ち上げていくものですが、その言葉を吐く身体がどういう状態にあるのかで、関係性や出てくる言葉も変わってしまうんですよね。だから「ランナーの身体」という部分だけは稽古前から目指しておかないと、ランナーの精神に辿り着くことができないんじゃないかという不安があったので。そこに対する危機感や目標といったものを、それぞれの目線で既に持ってくれていたことは嬉しかったですね」

谷賢一(脚本・演出)
――最後に、意気込みをお聞かせください。

宮崎「いろんな文献があって、いろんな角度から見た円谷さんが残っていますが、それはあくまで周りから見た円谷幸吉でしかないと僕は思っています。自分が円谷幸吉になるには、この作品の台本を通して見えるものを大事にしていきたい。自分の中から生まれたものを、しっかりと皆様にお届けできるよう、カタチにできたらと思います。がんばります」

木村「2020年の東京オリンピックを目前に控えてこの作品をやるということにも、ひとつ意味があると思っています。円谷幸吉という人がいたことは、今の若者はほとんど知らない。そして君原健二というまだ走られている方がいる。そういう人たちのことを、今一度こういうカタチで届けることで、若い世代への伝承者になれたらと思います。全力でやらせていただきます」

和田「ランナーとして生きてきた、そして今は俳優として生きている、そこをひとつにまとめる、自分の中で大きな意味を見つけられる作品になりそうです。この作品に限っては、自分という存在、在り方、生き方を率直に素直にぶつけてみたい。今の日本は2020年に向けてという意識が強いですが、この作品はそこに向けてやるというよりも、もっと先の先、演劇もスポーツも含めたさまざまな文化がさらに先に進んでいくための何か大切なものが描けそうだと予感しています。大きな足跡を残す作品になりそうです」

「円谷幸吉の人生は悲劇だと思うんです。ただその悲劇を上回る希望みたいなものだったり、光みたいなものだったりが、彼の物語の周りには付着してると思うんですね。だから彼を「悲劇の人だった」と思っている方には、そんな簡単なものじゃなかったんだぞということで観てもらいたいです。また、ある意味では円谷幸吉の悲劇を補填するカタチで君原健二という男がどう生きて走ったのか、ふたりの人生を並べてみることで見えることが増えるなと思うんですよ。50年近く前の話ですが、「現代を生きる」ということにうまく接着できるようなお話にしたい。僕自身もプロのランナーではないですし、ランナーの気持ちがすべて書けるわけじゃないと思うんです。ランナーの人生を借りて、自分が知っている“生きる”ということ、戦うということ、孤独を書くのだろうから、それが現代のお客さんと、なにかのカタチでうまく出会うことができればいいなと今、思っております」

インタビュー・文/中川實穂
写真/ローソンチケット