撮影:TOMO
宮崎駿監督による名作アニメーション映画『千と千尋の神隠し』が昨年舞台化され、第47回菊田一夫演劇賞で大賞を受賞するなど各方面で高い評価を獲得した。すぐに再演が決まり、2024年は3月の帝国劇場を皮切りに全国ツアーを行うのと同時に、4月~8月にはロンドン・ウェストエンドでの初の海外公演も決定している。
主人公・千尋役には初演から続投の橋本環奈と上白石萌音に加え、川栄李奈と福地桃子の出演が決定し、4人の千尋で2024年の上演に挑むことになる。新キャストの川栄李奈と福地桃子に、本作にかける思いを聞いた。
──本作は、橋本環奈さんと上白石萌音さんの千尋で昨年から上演されていましたが、ご覧になった感想をお聞かせください。
川栄 登場人物の造形が映画そのままのようで再現度が高いなと思いました。あと、パペットを動かす技術が素晴らしくて、動かしている人のことがまったく気にならずパペットにしか目がいかないところとか、細部にまでこだわった演出が素晴らしかったです。
福地 一つ一つのシーンにかわいらしさとか、それぞれが放つ千尋の魅力が詰まっているなと感じました。生の空間で聞こえてくる音や、舞台上で生身の人間が千尋を演じて動くことによって生まれる躍動感があって、舞台はそうしたものを肉眼で見られる、聞くことができる贅沢な空間だなと思いました。
──今回お2人が挑む千尋役についてはどのように感じましたか。
川栄 お2人がそれぞれ演じている映像を見たのですが、同じセリフでも全然違う千尋になっているんです。上白石さんは芯の強さが最初からあって、橋本さんは10歳の明るい無邪気な女の子という感じで、2人とも違ってそれぞれに良くて、さらに他のキャストの方たちもダブルキャストなので、その組み合わせによっても全然違う作品になっているのがすごいな、と思いました。
福地 最初に不安を抱えながら登場してくる姿から、空気が風のようにどんどん流れて風景が変わっていく中で、千尋が徐々にたくましく見えてくるところがとても自然ですごいものを見ていると印象に残りました。初演からご出演されているお2人が熱量を持って取り組んできたものを大切に「繋ぐ」という意識を持ち参加したいと思います。
──作品の中で、特に演じるのが楽しみなシーンはありますか。
川栄 オーディションでやったシーンの中では、ハクからおにぎりをもらって号泣するシーンがとても印象的だったんですけど、前後の流れも含めて舞台の映像で見てみたら、めちゃくちゃ走り回った後のシーンなんです。千尋が極限の状態に達したシーンなので、見ている分には「いいシーンだな」と思っていましたが、実際に演じるのは身体的にも心情的にもすごく大変なシーンだろうな、と思います。
福地 私がオーディションで印象に残ったのは、ハクを助けるために釜爺から電車のチケットをもらうシーンです。映画で見たときもすごく印象に残っていました。千尋はたくさん登場する場面がありますが、4人の千尋それぞれの魅力が引き出される瞬間は違いがあるのだと思います。自分で千尋を演じてみたときに、自分の中に湧き出た感覚を大事にしようと思えたのがこのシーンだったので、これからお稽古をしていく中で気づきがあったり、場面への感じ方がどんなふうに変化していくのか、楽しみです。
──川栄さんはこれまで主演舞台も経験されていますが、舞台への出演は久しぶりになります。今回どんなお気持ちで挑まれるのでしょうか。
川栄 舞台は生だからこそ、こちらの空気感が観客の皆さんにダイレクトに伝わるじゃないですか。すごく調子がいいときもあれば、セリフを間違えちゃうときもあったり、そういうのも全部感じ取れるのが舞台のいいところだと思っているので、ほどよい緊張感を保ちつつ、お客さんと一緒に空気感を味わう余裕を持ちながら頑張れたらいいなと思っています。
──福地さんは先日『橋からの眺め』で初舞台を踏まれました。初舞台の感想も含めて、今回2度目の舞台に挑まれるお気持ちをお聞かせ下さい。
福地 『橋からの眺め』では、幕が開いてからも朝に集まり稽古を重ねていたのでほとんどの時間を一緒に過ごしました。今改めて思い出してもすごく貴重な経験でした。今日もこうして川栄さんが隣にいてくださって、心強いです。これから橋本環奈さんと上白石萌音さんと一緒に作っていける中で、自分自身も力を注いで、この素晴らしいチームの皆さんと楽しみながら乗り越えて、千尋という役を皆さんにも見て楽しんでもらえていたらいいなと思っています。
──同じ千尋役を4人で演じることになりますが、それについてはどのように思っていらっしゃいますか。心強いというお気持ちなのか、それともライバル心もあるのか。
川栄 ライバル心というのは全くないです。4人でワンチームじゃないですけど、そんなふうに作っていけたらいいなと思っています。2人が作り上げてくれた千尋があって、そこに私たちが入ったことでプラスに作用して、「パワーが増したよね」と思ってもらえるようなものにしたいです。
福地 こんなにも強い味方がいてくださるという経験はなかなかないことだと思います。千尋の、あの表情の裏側にはどんなことがあったのかを知ることができるというワクワクもありますし、川栄さんが「ワンチーム」とおっしゃっていたように、皆さんの背中を見ながら、自分も発信できるように取り組んでいけたらいいなと思います。
──現段階でのお互いの印象をお聞かせいただけますか。
川栄 まだ数えるほどしかお会いしていないんですけど、すごくふわふわしています(笑)。ふわーん、という空気が流れているので、一緒に稽古していくのがすごい楽しみです。
福地 川栄さんは以前から尊敬している俳優さんなので、これから長い時間お稽古させていただく時間は学びだな、と思っています。私がふわふわという感じならば、川栄さんはどちらかというとチャキチャキしていますよね。
川栄 そうなんです! 私はとてもせっかちなので、きっとこの2人は時間軸が全然違うんだろうな、と今日一緒に取材を受けながら思いました(笑)。
──最後に、帝劇公演とロンドン公演に向けての意気込みをお願いします。
福地 日本だけでなく世界中から愛されている『千と千尋の神隠し』が舞台という形でより多くの方に見ていただける機会に恵まれたことはとても素晴らしいエネルギーだなと思います。そこに参加させていただけるという緊張感もありますが、この公演を走り抜けたとき悔いのないよう、一生懸命頑張りたいと思います。
川栄 素敵な作品に携われることにとても感動しています。緊張もありつつですが、これまでの公演でチケットが取れなくて見に行けなかった方がたくさんいたと思うので、今回海外の方々も含めてより多くの方に見てもらえたらと思っています。
※ 宮崎駿の「崎」の字は、(タツサキ)が正式表記
取材・文:久田絢子
撮影:TOMO
川栄李奈様
ヘアメイク KUMI(LODGE Corp.)スタイリスト 武久真理江
福地桃子様
ヘアメイク Moe Hikida スタイリスト 武久真理江