“オンシアター自由劇場”を解散してから27年となる今年、俳優・演出家・舞台美術家の串田和美は、自らの探し求める演劇の原点『自由劇場』から再スタートすべく、新しい演劇プロジェクト“フライングシアター自由劇場”として企画創作を開始した。記念すべき第1弾の演目は、ポーランドの作家であるスワヴォーミル・ムロージェクの『予言者』を原作に串田自らが上演台本を書き、演出と美術を手がける『仮面劇・預言者』だ。東京公演初日の幕が上がる12/5、本番直前に行われたゲネプロを観た。
まずは開演前の前口上なのか前座なのか、<国の首相>を演じる井内ミワクと<首相の小使>を演じる串田がふわりとステージ中央に現れたかと思うと、漫才のごとき何気ない話題をツッコんだり、ハズしたりしながらの息の合ったおしゃべりを始めた。それを聞いてクスクス笑っていると、お揃いの衣裳が可愛らしい<東方の三賢者>役の三人、近藤隼、串田十二夜、柳本璃音にバトンタッチし、楽しげに歌い踊り出す。彼らの歌が終わり、<預言者1>の大森博史と<預言者2>の真那胡敬二が姿を現すと今度はパントマイムのようなパフォーマンスを披露。互いの仕草をいちいち真似てみたり追いかけっこになったり、バタバタとその動きは完璧なシンクロには至っていないにもかかわらず、「合うねぇ~、僕たち!」と大森がニヤリとすると客席から進行を見守るスタッフたちからも自然と笑いが漏れてくる。そんなほっこりするウォーミングアップのようなプロローグを経て、いよいよ本編が始まる。
物語の舞台となるのは、とある国の宮殿。背後にはバルコニーがあり、眼下には大勢の民衆が集まっている中、首相が預言者の来訪を待っている。しかしそこに現れたのは同じ白い服に身を包み、同じ白い仮面を装着した瓜二つの男。待ち望んでいた聖人とはいえ二人もいるとなると、どちらが本物だ?と悩み始める首相。小使や三賢者に見極めさせようとしながら、二人のうちどちらを始末すればいいか、考えるのだが……。
設定やストーリーの流れとしては、さまざまな事象にも置き換えたり重ねたりもできそうなおとぎ話の面白さとシニカルさがあり、仮面劇として仮面をつけたりはずしたりすることでショーとしてのメリハリが生まれ、演劇としての楽しさもあり。見ようによっては残酷で怖い話なのに可愛らしさやあたたかい空気感も混在し、スリルとアイロニーまでも満載の舞台となっていた。
レジェンドから若手注目株までが揃う幅広いキャスト陣も各自が大活躍で、串田の盟友とも言うべき大森と真那胡の重みも軽みも自由自在な表現力、息の合った瓜二つぶりには舌を巻くばかりだし、井内の発する台詞には深い説得力を感じた。三賢者たちも、それぞれがチャーミング。この芝居の明るい部分をパワフルかつカラフルに担ってくれている。と思いきや、後半それとは逆のベクトルに振り切った面も見せる十二夜の表情には独特の煌めきが感じられた。そしてなんといっても一見素朴な小使を演じていた串田がとにかく終始楽しそうにしていて、観ているこちらも最後の最後までワクワクする気持ちが止められない演劇体験となった。
今回のこの再出発、“フライングシアター”と銘打ったように“飛ぶように”そして“彷徨いながら”も軽やかに力強く創作活動を続けてくれそうで、今回の舞台の反応はもちろんのこと、先々の展開も含めてとても楽しみだ。
取材・文 田中里津子
撮影:串田明緒
舞台写真