音楽劇『不思議な国のエロス』松岡依都美×朝海ひかる インタビュー

写真左より 松岡依都美・朝海ひかる

寺山修司がアリストパネスの代表作であるギリシャ喜劇「女の平和」をベースに描いた音楽劇『不思議な国のエロス』が上演される。演出は気鋭の演出家として活躍目覚ましい稲葉賀恵、音楽は世界で活躍するシンガー、演奏家である古川麦が全曲書き下ろす。今作に出演する松岡依都美と朝海ひかるに話を聞いた。

 

――今作は執筆当時には上演されなかった寺山修司の幻の異色作ということですが、これまで寺山作品に触れたことはありましたか。

松岡 私は寺山さんの作品に出演するのは今回が初めてです。寺山さんの演劇作品自体あまり通ってこなかったのですが、学生のときに寺山さんの詩集に出会って、なんだかわからないけどすごく熱いものを感じるな、と思いました。今作で改めて寺山さんの作品と向き合ってみて、やはり詩的な言葉が散りばめられているな、と思ったのですが、その中にもどこか皮肉っぽかったり、世間に対し問いかけたりするような言葉があって、そういうところが寺山さんらしさなのかな、と感じました。

朝海 私も寺山さんの作品には出演したことがないです。寺山作品は、複雑な人間関係が描かれたグレーなイメージの中に、美しい言葉がきらめいているような印象を抱いていました。でも今作を読んだら、また印象が違ったんですね。とてもポップといいますか、性の描写なんか特にあっけらかんとした感じだったりして、今まで寺山さんの作品を見たり読んだりしたことのない人にもとっつきやすい作品じゃないかなと思います。

 


――この作品はギリシャ喜劇がベースになっていますが、今を生きる私たちと通じるものも多いように感じます。読んでみてどのような感想を抱きましたか。

松岡 だんだんと戦争が身近に感じるような時代になってきていて、人間って繰り返してしまう、本当にどうしようもない生き物だなと思う中で、今作に描かれている内容は、女たちが反戦のためにセックスストライキを起こすという突拍子もない物語ではあるのですが、これが現実に起きたらいいのにな、と願う自分もいて、でも現実にはこうはならないよな、と思う気持ちもあって、そんなふうに物語と現実の間に立たされるような感覚がありました。

朝海 読み終えたときに「今を大事にしよう」とシンプルに思いました。自分自身のやりたいことを今やって、思うことを今思って、というような部分に共感して、改めて「生きよう」という強い力をこの作品からもらえると感じました。

 

 

――演出の稲葉賀恵さんにはどのような印象をお持ちでしょうか。

松岡 作品自体をストレートに表現するというよりも、いろんなうねりを効かせながら、でもすごく鋭さがあったりもして、そういうところが見ていてとても好きです。今作でも、寺山さんの作品を彼女らしい色で見せながら、大きな渦をいろいろと巻き起こしてくれるんじゃないかな、と期待しています。

朝海 演出家として導いてくれるというよりも、お互い膝を突き合わせて一緒に考えて、一緒に開拓してくれる人です。稽古でも1回俳優がやってみた後でディスカッションが始まって、ひたすら話し合って考えていたらそれで時間がなくなってしまって「話してたら終わっちゃった!」みたいなことがありました(笑)。でもそうやって向き合ってくれることは俳優にとっては本当にありがたいですし、「ついていこう!」と思わせてくれる演出家ですね。


――今回は音楽劇ですが、演じる上でストレートプレイとの違いを感じるところはありますか。

松岡 やはり音楽の持つ力というのはすごく大きいなと感じていて、お芝居にプラスして歌が入ってくると、それによっていろんな肉付きがされて、もちろんセリフの強さというものもあるんですけど、そこにさらに音が乗っかることによってすごく大きな波を起こせるイメージがあります。

朝海 この旋律を聞くとなぜか勝手に感情を揺さぶられちゃう、というような言葉以上の力が音楽にはあるな、と感じることがあります。プラスアルファの表現力というか、作品がより奥深くなるというか、ストレートプレイとはまた違う魅力ですよね。ミュージカルとかだと日本語を歌にのせるのが難しいとよく言われますが、今作は寺山さんが書いた日本語の音楽劇なので、ミュージカルとは全く違う印象を受けると思います。

 


――お2人は今回初共演です。

松岡 朝海さんと共演できることが本当に嬉しくて、でも今回はあまりセリフを交わすような役ではないんですけど。

朝海 そこは残念ですけど、でもまたきっと共演する機会はあると信じて、今回は最初の顔合わせ的な感じで(笑)。

松岡 そうですね(笑)。次回はぜひ、がっつり絡みましょう!

朝海 松岡さんは本当にヘレネーの役にピッタリだと思います。ご一緒できることも嬉しいんですが、松岡さんがヘレネー役だということがとっても楽しみです。あ、プレッシャーをかけるつもりはないんですよ(笑)。

松岡 ひゃー(笑)、頑張ります!

 


――お2人以外の共演者の方々についてはいかがでしょうか。

松岡 私はほとんど初めての方ばかりです。花瀬琴音ちゃんは彼女が主演した『遠いところ』という映画でずっと沖縄で一緒に撮影していたので、今回こうして舞台で共演できて嬉しいです。まりゑちゃんは映画『万引き家族』で同じクリーニング店の仲間として共演したことがあります。

朝海 私は、占部房子さんとは『M.バタフライ』でご一緒しています。伊藤壮太郎くんは稲葉さん演出の『サロメ奇譚』でチャラい役をやっていました(笑)。内海啓貴くんは『アナスタシア』というミュージカルで共演しました。共演したことはないのですが、北村岳子さんや原田優一さんはミュージカル界の大先輩です。北村さんは劇団時代から舞台を拝見していた憧れの存在ですから、ご一緒できて光栄です。原田さんは1回飲みの席でご一緒していますが、向こうはもう忘れているかもしれません(笑)。


――最後に、公演に向けての意気込みをお願いします。

松岡 新劇やミュージカルなど、本当にいろんなところから豪華なメンバーが集まっていますので、どんな化学反応が起こるのかを楽しみにしていて欲しいです。今この時代にこの作品やる意味みたいなものは絶対あるような気がしますが、あまり肩肘張らずに、皆様に劇場に足を運んでもらえるように、精一杯心を込めて、愛を込めてお届けします。

朝海 この物語は紀元前のお話なので、紀元前の人たちは何を考えていたのか、ということをちょっと覗きに来るだけでも、とても有意義な時間になると思います。私も愛を込めて精一杯頑張りますので、ぜひ見に来ていただければ嬉しいです。

 

取材・文:久田絢子