Casual Meets Shakespeare『OTHELLO SC』│古谷大和&田口涼 インタビュー

写真左から)古谷大和、田口涼

「普段着でシェイクスピアを」をコンセプトに、偉大なる劇作家シェイクスピアの作品を現在の日本で上演する演劇作品として脚色し、上演していくCasual Meets Shakespeare。その最新作となる『OTHELLO SC』が1月18日(木)より東京・シアターサンモールにて上演される。S(シリアス)とC(コメディ)の2バージョンで上演される本作。SCの両方で主人公のオセローを演じる古谷大和と、Sでイアーゴーを演じる田口涼の2人に、作品へ向かう想いなど話を聞いた。

――まずは出演が決まった時にどのようなお気持ちになられましたか?

田口 このシリーズにはいつも出演しているので、俺にオファーが来ないなんてないだろうと思っていました。それくらい思い入れが強いシリーズですし、もし出れなかったら…実家に帰っちゃうかも(笑)。だから、嬉しかったですし、感謝しています。

古谷 脚色・演出の松崎史也さんがこのシリーズをやっていることは知っていて、でもタイミングが合わなくて観る機会が無かったんです。史也さんと知り合った時期には、それこそ涼くん主演の『HAMLET SC』をやっていたんですけど、観られなくて…。でも興味があったので、こういう機会をいただけてすごく嬉しかったです。涼くんや史也さんのような、尊敬している方たちと一緒に作品を作れる!と二つ返事でやらせてくださいと伝えました。

――今回のシリーズはシェイクスピアをカジュアルに楽しんでいただくというコンセプトがありますが、お2人はもともとシェイクスピアにどのようなイメージをお持ちでしたか?

古谷 おそらく、世の中の多くの人はシェイクスピアを難しく思っているんじゃないかな。僕らのように役者をやっていても、読んでいる人と読んでいない人って分かれると思うし、読んでなお、難しいと感じる人もいると思います。僕も、昔の作品だし、難しい言葉も多いし、セリフも多いし…と、多くの人と同じように難しいと思っていました。でも、根底には人間の心を描いていて、複雑すぎないんですよね。結構、まっすぐに気持ちを表現しているんです。そういうストレートな心の機微を表現しているから、今の時代でも共感できるし、長く愛されているんだろうなって思います。

田口 それは間違いないね。今読んでも笑えるシーンがあるんですよ。それって本当にすごいこと。数年前の流行でも楽しめなくなったりすることがあるのに、400年も昔のほかの国の物語で笑ったり共感したりできるって本当にすごい。それは、今回改めて読んでみても感じました。

――シェイクスピアの古典作品がカジュアルになることで、どんなふうに変化があると思いますか?

田口 やっぱり僕たち俳優が物語に触れて、ストーリーが難しいところに行っても面白かったり、こういうことなんだって思えたりするような楽しさを伝えられるということが、このCasual Meets Shakespeareの魅力だと思いますね。

古谷 シェイクスピアなので、昔のお話だし、言葉も多いし、難しいところもある。セリフだって、「愛してる」の言葉を言うだけでも3行でも4行でも使うような本ですから、一体どういうことなんだろう?っていうこともある。そういうところを、さらに分かりやすくなるように作ってあると思うんですよ。そこは、初めて参加していますがすごく感じます。

――「オセロー」の物語としての魅力をどのように感じていますか?

古谷 オセローが抱く感情ってたくさんあるんですけど、今回はその中でも特にジェラシーを物語の中でちゃんと描いていきたいと史也さんとも話をしているんです。ジェラシーは昔の人も感じていて、この現代でも消えることなく変わらずあるということが、まず1つ面白いところですね。自分の愛する人がもしかしたら他の人とイチャイチャしているかもしれない、というジェラシーの理由は現代でも全然あり得る。400年経てばいろいろなものが発達して環境も変わるのに、人の心は変わらないんだな、というのは面白いですね。

田口 まさに今日、最後のシーンまで読み合わせをしたんですけどやっぱり、シェイクスピアの四大悲劇と言われるだけあって、めちゃめちゃ悲しいんです。悲劇なのでシリアスにやるのが当たり前なんですけど…早く喜劇にしてほしいとも思いました。今回、シリアスとコメディの両バージョンがあるんですけど、めちゃくちゃ悲しい話だからこそ、その逆のコメディがさらに光る。そこがこのシリーズのコンテンツ的な強さも見いだせるポイントかと思います。

――本シリーズでは、同じ物語をS(シリアス)、C(コメディ)の2バージョンで上演されることも楽しみのひとつとなっていますね。その違いの面白さについては、どのようにお考えですか

古谷 僕はSCの両方に出演しますが、本当に紙一重。もし、SCを分けずに「オセロー」を上演したとしても、観る人によっては悲劇に見えるし、ある人にとっては喜劇にも見える。特にそういう滑稽なところが多い作品なんですよね。シーンや物語の転がり方が、シリアスにやっても面白く見えてしまうようなところもあると思うんです。それを今回は、シリアスなところはよりシリアスに、コメディはよりコメディにしていくので、紙一重なんだけと真逆、その表裏一体の感じ…お互いの良さを楽しめるところがSCの魅力じゃないかと思いますね。

田口 僕はSに出演するのですが、笑いを取らないようにと、結構意識しています(笑)。自分で言うのもアレなんですが、笑いを取るのは苦手ではないと認識されていると思うので…。そんな僕が、笑いを取らないでおこうと思っております。さっきも大和が言ってたけど、物語として面白く見えてしまう部分はあるんですよね。そこを、いかに僕らの演技力で、笑いじゃねーぞ、というところに持っていけるよう、そこはすごく考えてセリフを言うようにしています。

――古谷さんは主演としてSCの両方に出演されますが、バージョンによって心構えや演じ方などに差はあるのでしょうか?

古谷 オセローは主軸で、それをイアーゴーなどの登場人物が振り回していく形なんですね。シリアスの時のイアーゴーは涼くんで、コメディの時はウチクリ内倉さん、という感じで人が変わるから、振り回す人が変われば、僕の振り回され方も変わるんです。そういう意味で、僕が自発的に何かをしていく部分もあるとは思うんですけど、それよりも相手がこうなったからオセローはこう反応するだろう、というところに意識が向いているかもしれません。素敵な役者さんが集まっているので、相手に準じながらオセローの物語をやっていけば、向かうべき方向に向かっていくと思っています。

――それぞれの役どころについて、今はどう捉えていますか?

古谷 オセローはムーア人で、当時のムーア人は迫害されていたので、とても生きにくい世の中でした。だから将軍というイメージの姿ではなく、ムーア人としてのネガティブな心を抱えているんです。そこも含めて愛してくれるデズデモウナという女性を愛していて、愛しているが故にジェラシーが起こる。その想いに苛まれて、飲まれていく人物ですね。

田口 イアーゴーはものすごく悪い奴なんですけど、本当はどこかに愛ある人だと思いたくて。愛に飢えているけど、愛を何も持ち合わせていない訳じゃない。嫉妬がテーマではあるんですけど、愛しすぎたゆえの行動で、オセローをとんでもなく追い詰めていきます。ただただオセローが嫌いだからという訳じゃないはず。でも僕自身は、好きだったらこんな行動しないので、イアーゴーが置かれている環境や時代の背景を考えながら、こういう行動をしてしまう人物を作っていこうと頑張っています。

――稽古場の雰囲気はいかがですか?

古谷 僕は、稽古の合間とかの、いわゆる無駄な時間が大好きなんですよ。そういう時間に人間の機微が出てくると思うし、それが僕らが舞台上で表現すべきものだと思っているから、ただ脚本に向き合って、シーンだけを稽古していくような稽古場じゃないですね。それぞれがすべきことをないがしろにすることなく、自分のやりたいことをそれぞれ放出できるような空間だと思います。それができるのは、スタッフや演者のみんながポジティブで明るいオーラを持っているからだと思いますね。

田口 やっぱりSCの2バージョンあるからか、いろんなタイプの役者がいるんですよ。大和とか赤澤燈とか新しい仲間も加わって、彼らのシーンを見ているだけでもすごく楽しい。きっと、大和や燈にとっても、とてもいいことなんじゃないかなと思っているんですよ。すごく有意義な時間を過ごせています。

――マルチに活躍されていてお忙しいお二人ですが、2024年にもしまとまったお休みが出来たら何がしたいですか?

田口 旅行に行きたいなぁ。ちょっとした温泉とかがあれば、もう場所はどこでもいい。好きな俳優仲間と行きたいですね。

古谷 いいね、それ!旅館とかでずっと喋ってるの。年2でやりたい!でも、もういろんなことが決まっちゃってるからな。

――2024年はお仕事で充実した年になりそうなんですね

古谷 そうですね。すごく嬉しいことですし、願っても得られるものではないから。昨年、ソロライブをやったんですけど、僕自身は歌にコンプレックスがあって。だからこそ、ライブの機会を増やしていきたいと思っていて、そこは2024年も引き続き続けつつ、お芝居も高めていきたいです。

田口 僕は、向上心が無いといいますか(笑)。今、すごく幸せなんです。この幸せな今を、何年維持できるのかということに数年前から重きを置いていまして、大和はもちろん、今近くにいる仲間たちと少しでも長く一緒に仕事をしたい。史也さんの演出する舞台にも出続けたい。それが、僕が俳優をやる上での一番の目標です。そのためには現状維持ではダメで、より必要とされる俳優になっていきたい。2024年も、その先も、それを続けていきたいと強く思っています。

――楽しみにしています!最後に、公演を心待ちにしている皆さんにメッセージをお願いします

田口 稽古で通しをやってみて、めちゃくちゃ面白い舞台になっていると思いました。それに、大和が主役としてとても引っ張ってくれているんです。Cの稽古も見ていたんですけど、同じセリフを言っているはずなのにこんなに面白いのか、と思ったんですよね。お互いのバージョンがフリになっているというか、相乗効果で素敵になっていくシステムになっていると思いますので、ぜひ2バージョンを見ていただけると嬉しいです。損はさせない時間を過ごしていただけるはずです!

古谷 そもそも演劇に触れていなかった人や、演劇が好きな人でもシェイクスピアには触れてこなかった人などもいると思います。そういう人にすごく入りやすい窓口になっているシステムだと思って、僕は感動しているんです。あるいは、シェイクスピアを良く知っている人でも、ほかの場所では観られないようなシェイクスピアをここでは描けると思っています。素敵な人たちと作っていますので、興味を持っていただいたらぜひ、劇場に足を運んでいただければと思います。

取材・文/宮崎新之