舞台「笑わせんな」│オクイシュージ(演出)×浜中文一×山下リオ インタビュー

写真左から)山下リオ、オクイシュージ、浜中文一

匿名劇壇の福谷圭祐(脚本)とオクイシュージ(演出)がタッグを組み、浜中文一、山下リオ、鳥越裕貴、松島庄汰、岐洲匠、佐藤日向、松原由希子、福井夏、辻本耕志、久ヶ沢徹、入江雅人と、若手からベテランまで幅広いキャストが集結した舞台『笑わせんな』。演出のオクイシュージと浜中文一、山下リオにインタビューを行った。

――まずは脚本の感想から教えてください

オクイ 僕は完成前から何度も読んでいるから読み方が違うと思いますが、今回は福谷くんという大阪の劇団の作家さんの脚本です。言葉遊びがすごく上手な作家さんという印象があり、それを活かしたものを書いてもらったら俳優さんと一緒に面白いものを作れるだろうと思いました。途中で僕が福谷くんに色々注文もして、今までと違う楽しみ方をしていただけたんじゃないか、それが脚本の中に溢れているんじゃないかと思います。

山下 私はそもそも舞台の経験がそんなにないんです。今回はブラックコメディですが、こういった作風も見たことがなくてびっくりしました。どうなるのか想像できなくて、この言葉遊びのような会話にどんな感情が乗るとどういうお芝居になるのかすごく楽しみです。

浜中 最初に読んだのは決定前のもので、「人死んでるわ」と思いました。

一同 (笑)。

浜中 決定稿に変わったのも気付かなかったので、何も考えずに読んでたみたいですね。

一同 (笑)。

――山下さんはブラックコメディに挑戦してみていかがですか?

山下 外見や性癖、変な部分をいじるのは良くないとされているけど、仲がいい相手だといじったりしますよね。爆発的な笑いというより、ずっと面白い状態がふわふわ続いている感じがして好きです。

――オクイさんから見たお二人の印象を教えてください

オクイ 役者さんってすごく考えてからやるタイプと、わからなくてもとりあえずやってみてその感覚をもとに変えていくタイプがいる。二人は完全に後者です。今回はブラックコメディなので、わからなくても楽しんでいてもらえないと前に進めない。そういう意味ですごく助かります。もちろんすごく努力をされていると思いますが、それを凌駕するほどの才能というか天才肌。だから稽古場も淀むことがないですね。

――現時点で稽古が始まって10日ほどですが、手応えはいかがでしょう

オクイ 実は昨日の休憩中、文ちゃんに「思ってたより面白いかもしれない」と伝えました。僕は慎重に橋を叩いて渡るタイプなので、演出していて期待を超えた面白さがあるのはすごく大事なこと。あまり出演者に言わないんですけど、文ちゃんに言ってしまいましたね。鼻で笑われましたけど。

山下 皆さん面白いです。手練れの方がたくさんいて、アドリブを混ぜ込んだり、みんな即座に対応したり。私自身は、コメディだと思って勢い勇んで現場に入り、最初は大きい声を出しておこうみたいな勢いでやっていました。でも、結局は人間なので普段やっていることとあまり変わらないかなと思いました。しっかりと心を追っていく作業の最中です。

浜中 ひたすらやっていくだけですが、年々手応えを感じなくなってきているかもしれない。歯応えになってるかも。

オクイ どういうこと?

山下 なんで手応えがなくなっていくんですか?

浜中 わからん。

オクイ 多分、経験を重ねて納得できる水準が高くなってるからだよ。って言うと手応えがあるっていった俺が馬鹿みたい(笑)。

浜中 (笑)。それは立場とかやってることが違うから。

山下 でも歯応えはあるんですよね?

オクイ じゃあいっか(笑)。

――演じるキャラクターに共感できるポイントはありますか?

山下 私が演じる比嘉は、「こうしたいけどしたくない」という、相反する気持ちでぐちゃぐちゃになっていて、ストレートに言えない部分がある。私も天邪鬼なところがあって、例えば若い頃は「可愛い」と言われて「ブスになってやる!」と思っていたりしたので、そこは共感できますね。

浜中 え、じゃあ「ブス」って言われたら?

山下 「可愛くなりたい!」って思う(笑)。今はそこですね。

浜中 僕が演じる藤原はイップスなんです。だから、自分にも何かあるかって探しましたが僕にはイップスはなかった。でも、僕は腸が弱くていつか漏れちゃうんじゃないかという恐怖と戦いながら舞台に立っているので、そこを頼りに作っています。

――カンパニーの皆さんの印象や稽古場エピソードを教えてください

オクイ 印象としては、皆さん心を開くでも閉じるでもなく、いい塩梅でオープンにしてくれるのですごく助かります。稽古場の雰囲気はいいですね。人は多いけど変に派閥みたいなものもないし。あとは岐洲くんがピュアすぎるというか天然で、時々やらかしています。カッコいいのにギャップがあって可愛らしい(笑)。

山下 みんな真面目ですよね。私は少し遅れて稽古に参加したんですが、テスト勉強中みたいな雰囲気だったので、「こういう感じなのか」って思いました。

オクイ それは本読み中だったからでしょ(笑)。

山下 オクイさんが飄々としているのもあって全体的に平和だなと思っています。

オクイ 俺、若い人たちにバカだなって思われてそう(笑)。どうしたらいいだろうね。

浜中 思ってないですよ(笑)。楽しんでると思います。

オクイ そう?「楽しいです!」って言いにきてほしい。

浜中 岐洲くんは行きますよ。「楽しいですって言ってきて」って言ったら。

一同 (笑)。

オクイ でも、役者さんはもちろんスタッフさんにも楽しんでもらえないと楽しいものは作れないと思っています。もしかしたら演出よりもそこに力を入れているかもしれない。自分も本来は俳優なので、役者が楽しめるものじゃないと本番が辛いことを身をもって知っているんです。だからまずはカンパニーのみんなが楽しめることを重視していますね。

浜中 稽古場エピソード、何かあるかな。芝居している映像しか思い浮かばないです。

オクイ トピックに上げるようなことがないのがエピソードかも。それくらいいい流れで進んでいます。

――稽古に入り、脚本を読んでいた時点から変化した部分はありますか?

山下 読んだだけでは想像がつかなかったし遅れて稽古場に入ったぶん、びっくりしました。違和感がないというか。文字で読むと「?」だったんですが、人間ってしょうもないことばっかり喋っているじゃないですか。やり取りをするとそれがすごくリアルで、スッと入ってくる感じがしましたね。

オクイ 読んでいる時はもっとポップな印象がありました。でも実際に役者さんたちに演じてもらってかなりプランが変わった。自分の中でいい変更です。それがあったから、文ちゃんに「思ってたより面白いかも」と言ったんだと思う。生々しさと距離のある作品かと思っていたけど、役者さんたちの表現で内面が見えてくる作品になりつつあります。

浜中 脚本を読むと大まかなイメージが浮かびますが、正直今回はあまりイメージが湧きませんでした。皆さんと読み合わせをして「こういう感じか」となったので、読んだ時と演じている時の差はそこまでない気がしています。でも、思っていたよりも空気感などはシビアにお芝居に反映されていますね。

――物語の見どころを教えてください

山下 登場人物全員が自分を心から愛していない感じがします。それをサークルという場で癒していたり癒せていなかったり。「くすぐる」ということに対しては共感できませんが、欠落している人間たちの思いや変わった何かには共感できるのが面白いです。

オクイ コミュニティや社会で生きていくために、本来の自分を隠して周りに合わせなきゃいけない人って現実にもたくさんいるじゃないですか。もしかしたら自分もそうかもしれない。本来の自分を見つけ出すのはすごく大変だけど、色々な事件などによってそれぞれが見つけていく、開いていく物語だと思う。見終えたお客さんがそういう部分を感じたり考えたりしても面白いのかな。ブラックコメディという手法を使っているので伝え方は難しいですが、本来の自分の再生の物語のような気がしています。

浜中 公式のコメントにも書きましたが、人間らしい物語だと思います。リアルに近いというか、泥臭さが日常的なものに感じますね。誰しも悩みを持っていると思うので、そういう意味ではすごく身近な物語。自分の近所で起きていることとして見てもらえたらと思います。

オクイ 本当の自分を出すことに対する恐怖心みたいなものは、近所の人たちもみんな持っていますよね。受け入れるのが怖くて隠したいものを受け入れていく物語なんじゃないかと思います。

――皆さん個性豊かですが、特にお気に入りのキャラクターはいますか?

山下 比嘉と真逆な山田という鳥越(裕貴)さん演じるキャラクターと、浜中さん演じる藤原の掛け合いが好き。山田がすごくピュアで目がキラキラしていて、青春の風が吹いている感じがすごく好きですね。

浜中 比嘉さんとガッツリ絡むのは後半なので、前半の稽古をしていて意外と絡まないな、もっと比嘉さんと絡めたらよかったなと。お気に入りのキャラクターです。

オクイ みんな好きですし、立場的にも言いづらいですが、強いていうならオーナーですね。唯一ちょっと違う立場で、サークルの人たちに翻弄される様子も抜けた人間臭さがある。コメディという要素においてもいいなと思います。

――ほとんどの登場人物がくすぐり・くすぐられサークルのメンバーですが、皆さんが何かのサークルに入るなら何をしたいですか?

オクイ DIYです。最近やり始めて楽しいなと思っています。あまり色々な人と絡まず、淡々とできるのでいいですね。

山下 私は歯を見るのが大好きなので、人を並べて順番に歯を見ていきたいです。歯を見てドキドキすることがあって、歯並びと顔面のバランスが取れていれば「いいな」と思いますね。

オクイ え、あんま見せたくないな。

山下 (笑)。

浜中 稽古場でみんなに「歯フェチがおるから気をつけて」って言わなきゃ。

――ちなみに今回のカンパニーでお気に入りの歯は……?

山下 まだ皆さんマスクをしているのでちゃんと見れていないんです。でも出番がない時は皆さんを見ていますね。

オクイ 芝居を見ろ(笑)。

浜中 僕はサークルに興味がない人生だったんですよね。

オクイ UFOは?

浜中 いいですね。じゃあUFOを1人で。

山下 すごくゲームしてますけどゲームは?

浜中 ゲームはまた別。サークルには入りたくないです!

――最後に、皆さんへのメッセージをお願いします

オクイ 基本的に、見終わった後「この人がよかった」と個人名を挙げられることにはあまり興味がありません。一人ではなくみんなが作り上げた作品として、「面白かった」と言ってもらえるものに仕上げたいと思っています。もちろんファンの方にたくさん見にきてほしいですが、フラットな気持ちで来てほしいです。感想は「面白かった」「つまらなかった」「意味わかんなかった」、なんでもいい。どんな感想もその人にとっての答えなので自由に楽しんでいただけたらと思います。

山下 人間、どうせ死ぬと思うとどうでも良くなるけど、どうせ死ぬからどうでもいいことも楽しんだり、足りていない部分を努力したりする。そういう瞬間が詰まっている物語だと思います。私がこの舞台に出演したいと思った理由として、コロナ禍で舞台から足が遠のいていたり、笑えていないなと思っていたことがあります。大いに笑う準備をしてきてほしいですね。

浜中 今の時点でこの舞台に興味がない人、見にくる気がない人にこそ来てほしいですね。その人たちにケンカを売っておこうと思います。

一同 !?

オクイ どうしたんだろう。

浜中 強いきっかけがないと、興味がない人の気を引けないじゃないですか。だからちょっとカチンとこさせて、劇場に連れてきたい。今回はケンカを売るという手法で来てもらおうかなと。見に来てくださる皆さんに関しては、僕らが本番を全力でやって一緒に楽しむのが一番ですから。

山下 ケンカを売る詳細を知りたい。

オクイ 括弧をつけて「こういうことが言いたいんじゃないか」って注釈を入れておいてください(笑)。

山下 文字にしたら面白さが伝わらないよ。

浜中 僕が書きましょうか。そしたら多分伝わります。

一同 (笑)。

浜中 こんな空気でやってます。よろしくお願いします(笑)。

撮影・文/吉田 沙奈