『La Mere 母』『Le Fils 息子』※同時上演※│岡本圭人 インタビュー

※公演タイトル『La Mere 母』の一つ目の「e」は、アキュート・アクセント付きが正式表記

劇作家フロリアン・ゼレールによる家族三部作のうちの2作『Le Fils 息子』『La Mere 母』が、4月の東京公演を皮切りに6月まで各地で同時上演される(一部地区除く)。どの家族にもある親と子の苦悩、孤独を描く本作は、両作品とも若村麻由美が母親、岡本圭人が息子、岡本健一が父親を演じるのも話題である。

演出は共にラディスラス・ショラー。『Le Fils 息子』は2021年の日本初演に引き続きの演出で、『La Mere 母』はフランスでも演出しておらず、ラディスラスにとって初めて演出を手がける作品となる。『Le Fils 息子』は初演と同じ岡本圭人、若村麻由美、伊勢佳世、浜田信也、木山廉彬、岡本健一が出演。日本初演の『La Mere 母』は若村麻由美、岡本圭人、伊勢佳世、岡本健一が出演する。

2021年の初演時は、アメリカの名門演劇学校卒業後、本作がストレートプレイ初舞台で初主演となり、実の父である岡本健一と親子役を演じた岡本圭人に話を聞いた。

親子で親子を演じることに、一度は頭がこんがらがった

――2021年に上演された『Le Fils 息子』は、圭人さんにとってストレートプレイ初舞台・初主演作品となりました。いま振り返るといかがですか?

初日は僕にとって忘れられない時間でした。ストレートプレイで舞台に立つのが子供の頃からの夢だったので、それが叶った瞬間でもあり、憧れだった父親(岡本健一)との共演も果たすことができました。自分にとっては俳優としての活動をはじめて最初のお仕事ということもありました。いま考えると、ちょっと一生懸命やりすぎてたなって。ほんとにもう、自分の役を演じる、生きる、ということに精一杯で、稽古中は悩みを抱える男の子(=ニコラ)になってしまっていた。きっと周りのスタッフさんやキャストの皆さんにはたくさんご迷惑をおかけしたと思います。作品的にも、それが多分フロリアン・ゼレール作品の魅力かもしれないですが、最初に読んだときに自分の、僕自身の物語のように思えたんです。だから、これを観た人も、もしかすると自分と照らし合わせながら観るかもしれない、と思いました。。この作品を届けたい、いろんな人に観てもらいたい、の一心で臨んだ舞台でした。

――実の父であり、作品の中でも父親役も演じられた健一さんからはどんなアドバイスがありましたか?

幕が開くまでは相当不安な気持ちで僕を見ていたみたいです(笑)。『大丈夫!?できるの!?』みたいな。でも初日の幕が開くと、『すげー舞台じゃん!』って。『だから言ってるじゃん』って話したんですけど(笑)。大千穐楽の後も、自然とハイタッチやハグをすることができたから、お互い充実感を得られたんだなと思いました。

――実の親子で親子役というのはいかかでしたか?

稽古が始まってから頭がこんがらがってしまったことがありました。もちろん演じている最中は、自分も普段の自分とは違う人物で、父親も父親役を演じているんですけど、それがギャップになって、『父親なんだけど父親に見えない、だけど父親』みたいな感じで。演出家に相談したら、『そう感じるのはいいかもしれないけど、演出側からするとあなたたちを本当の親子だと思って見てはいない、一人の役者として見ている』『ニコラは圭人じゃないんだから。ピエールは健一じゃないんだから』って言われて。その言葉ですごくすっきりしました。“切り離す”じゃないけど、自分は自分、ニコラはニコラ。お互い違う人生があり、ニコラの人生をみなさんに知っていただくために、その役を生きるというのが自分の仕事だから、そこに集中しようって。でもそこに至るまでは、本当の親子が親子役を演じる難しさを感じましたね。

――『Le Fils 息子』は前回と同じキャストでの上演となりますが、健一さん以外のキャストのみなさんの印象もお聞かせください

若村(麻由美)さんは、この作品以降も『ハムレット』や『ラヴ・レターズ』でご一緒して、信頼しているしすごく尊敬している女優さんです。ですので、こうやってまた作品を一緒につくれることはすごく楽しみです。伊勢(佳世)さんは、この作品のあとも出演作を観に行っていったりしているのですが、その中でも特に『ダウト 〜疑いについての寓話』が印象に残っていて。共演している最中はなかなかそこまで考えることができなかったんですけど、素晴らしい女優さんだと改めて実感しました。またご一緒したいなと思っていたので、こうやって『Le Fils 息子』の再演と新しい作品『La Mere 母』でご一緒できるのはすごく楽しみです。浜田(信也)さんは、『Le Fils 息子』初日の公演の終わった後に駆け寄って『おまえは最高の役者だよ!』と言ってくださったんです。それがずっと心に残っています。僕の出演舞台もいつも観に来てくださって。僕自身、あの時いただいた言葉を信じてがんばっているので、またこうして一緒に作品ができることがうれしいです。木山(廉彬)くんは、作品が始まる前から本読みだったり台詞を覚えるための練習に付き合ってもらったり、いろいろ手伝ってくれた存在で。初めてできた俳優の友達です(笑)。だからまたこうして数か月を一緒に過ごせるというのはすごく楽しみです。信頼できて尊敬している方々と作品をつくれるのは本当にありがたいことだなと思います。

翻訳にも携わり、自分たちに馴染むものに

――今回は、『Le Fils 息子』『La Mere 母』の2作品同時上演となりますが、この企画を聞いてどう思われましたか

ちょうど昨年、父親も新国立劇場でシェイクスピアの『尺には尺を』と『終わりよければすべてよし』を同じキャストで、ダブル・ビル(2本立て)でやっていたのですが、それを観たときに、2作観ることで、なんだかその物語それぞれが持っているものより強いものを受け取れるなと思いました。今回は両作品とも登場人物の名前は同じなんですけれども、別の家族を描いていて、だけれども台詞の中でリンクする部分があったりするんですね。それが同じキャストで上演されるというのは、お客さんにとって新しい演劇体験になるんじゃないのかと思っています。できれば両作品とも観てもらいたいです。

――ご自身としてはどんな楽しみがありますか?

『La Mere 母』のニコラも悩んではいるけど、『Le Fils 息子』のニコラとはまた違う存在なので。前回はずーっと闇……ってなってたのが、またちょっと変わっていけると思います。二人のニコラを行き来しながら稽古することで、明るさが増えたり、闇がより深くなったりするのかな……なんて思ってるんですけど、どうでしょうね(笑)。

――『La Mere 母』の物語にはどんな印象を受けましたか?

読んでいて僕は自分の母親を思い出しました。『こういう感じだな』と思ったり、『もしかしたら母親はこういうふうに思っていたかもしれない』と思ったり。それは『Le Fils 息子』をはじめて読んだとき、映画で観たときにも思ったことです。やはりきっとフロリアンの描く家族、作品には、誰もが共感するところがあるのかなというふうに思います。母を演じる若村さんとは『Le Fils 息子』から毎年共演させていただいていて、自分のことを子供のよう大切にしてくださるので、今回その繋がりというのも出るんじゃないかなと思っています。でも『Le Fils 息子』も『La Mere 母』も本当にすごい台本だなって、よくこれ書けるなって思いました。去年の夏頃から翻訳家の方と一緒に、フランス語の原文、英語の原文と照らし合わせながら、どういうふうにしたら日本語で上演したときにこの台詞がより伝わるようになるんだろうっていうことをずっとやっていました。

――え、翻訳補みたいなことをされているということですか?

そんな大層なことではない(笑)。お手伝いです。『Le Fils 息子』の初演のときも翻訳家の方に細かいニュアンスを聞いていたんです。『これはフランス語の原文ではどういうときに言う言葉なの?』とか。細かいニュアンスですよね。英語で言う『yes』、フランス語で言う『oui』が全部『はい』だと家族の会話にならないし。日本語の『はい』『あぁ』『うん』みたいなところを、何度も何度も読み合わせたりして。言語の壁というのはもちろんありますが、できる限り自分たちに馴染むものにできたと思います。

“黒い闇”をわかっていないと、この役は絶対に演じることができない

――経験を重ねたいま振り返って、3年前のラディスラス・ショラーさんとの創作をどういうものだったと思われますか?

改めて素晴らしく才能のある演出家とお仕事できていたんだなと思っています。ラディスラスからいただく演出が、自分が想像できる一個、二個、三個上のものなので、初演ではそれに追いつくのが精一杯でした。追いつこうとして、追いつこうとして、追いつこうとして、やっと初日を迎えてたというような。だから今回はより、ラディスラスが求めているニコラに近づけるようになりたいなと思います。いろんな経験を経てまたお仕事ができるってすごく楽しみなことでもありますし、これほど光栄なことはないです。

――「追いつこう、追いつこう」いうのは、どんどん引っ張っていかれるようなイメージですか?

そうですね。追い込んでくれるし、引っ張ってくれます。そこに愛があって、本当にこの舞台を良くしたいんだな、本当にこの作品を愛しているんだなっていうことがすごく伝わってくる。『Le Fils 息子』はラディスラスにとって既に演出経験があった作品でしたが、今回上演する『La Mere 母』は初めて演出する作品で、この作品をこの4人で創りあげることをすごく楽しみにされていると聞きました。どんなふうにつくりあげるんだろうなって楽しみです。

――前回の稽古で印象的なことはありましたか?

ラディスラスは日本語を話せないんですけれども、こちらが日本語で演じていても『今こういうことを思ってなかったでしょ』とか、翻訳家の方に『ここの訳、原文と違ってない?』と指摘するんです。そんなことまでわかるんだ!と思いました。どういう気持ちで話しているのかとか、そういうのをしっかりと見られる方なんだと思います。言語の壁はもちろんあるのですが、そこを感じさせない演出力がある方で、心配なことは全くないです。素晴らしい演出家です。

――ニコラを演じるために求められたことは?

一番印象に残っているのは、『ニコラのお腹の中の下にある“黒い闇”を感じないと、それが何なのか?自分の中で分かっていないと、この役は絶対に演じることができない。そこがないとこの舞台は絶対に失敗する。ただの家族の話になってしまう』と言われたことです。その“黒い闇”を見つけるのは大変でした。なんでこの子はこういうふうに思ったんだろう、なんでこういう台詞を言うんだろう、なんでこうなってしまったんだろうっていうのを、一個一個咀嚼して、こうかもしれない、こうかもしれないと考えて演じていました。

――いま、どんな心構えでいらっしゃいますか?

もちろん変わらず一生懸命やるんですけど、前回からたくさんの経験をさせていただいて、素晴らしい方々と共演させてもらって、素晴らしい演出家の方々と一緒に舞台を創りあげてきて、いろんなことを学べたので。今回は、自分が『こうしたい。こういうふうに演じたい。ニコラはこういう人間なんだ』というより、『相手からの台詞をちゃんともらう、そしてしっかりと感じる』というのをやっていきたいと思っています。お客様にどう見えるかはわからないですが、自分の中ではまったく違う作品になるんじゃないかと思っています。演出家をはじめ、共演者やスタッフの皆さん、初演を観に来てくださったお客様にも、成長した姿を見せられたらすごくいいなと思っています。

取材・文/中川實穂