ナイロン100℃ 49th SESSION 「江戸時代の思い出」|みのすけ×坂井真紀インタビュー

ナイロン100℃初の時代劇『江戸時代の思い出』を、みのすけと坂井真紀が予想しつつ語る!

演劇界、音楽界、映画界など、ジャンルを問わずさまざまなアイデア、画期的な表現で作品を発信し続けているケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)。彼が主宰する劇団ナイロン100℃が結成30周年を迎え、その記念公演第二弾として上演される新作が『江戸時代の思い出』だ。これはナイロン100℃初の時代劇となる予定で、果たして今回はKERAがどんなベクトルで作品に取り組み観客を唸らせるのか、期待は高まるばかり。キャストは三宅弘城、みのすけ、犬山イヌコ、峯村リエ、大倉孝二、松永玲子ら劇団員に加え、客演として池田成志、坂井真紀、奥菜恵、山西惇という芸達者たちが顔を揃える。内容に関しては未だほとんどの部分がKERAの頭の中にある段階ではあるが、みのすけと坂井真紀の二人にこの新作に参加するにあたっての気持ちや意気込みなどを聞きつつ、どんな作品になりそうかの予想を立ててもらった。

――『江戸時代の思い出』は、ナイロン100℃初の時代劇ということですが。詳細についてはまだ謎が多い作品なので、お二人が今思われていること、そしてどんな作品になりそうかをこの機会に勝手に予想してみていただけますか

みのすけ まずは、とても素敵なタイトルだなと思いました(笑)。ただ、その“江戸時代の思い出”を誰が語っているのか、果たして江戸時代の人が本当に出てくるのか、そこはまだわからないんですけど。だけど先日のビジュアル撮影では、みんな江戸時代の格好をして写真を撮りましたので、一応基本的にはそういうことにはなると思います。とはいえ、わからないですね。ものすごく先の未来の人間が江戸時代を語るのかもしれないし、すべてはKERAさん次第なので。でもウェルメイドなものではなく、チラシの写真からもイメージが伝わると思いますが……ちょっとはっちゃけたもの、以前上演した『イモンドの勝負』(2021年)ほどではないけれど、ナンセンス寄りの作品になりそうだ、と聞いています。ということは、かなりバカバカしいものになると思われるので、自分としてはすごくワクワクしています。

坂井 ナイロン100℃の舞台は、近未来的な設定だったり、それこそどの時代かはっきりと提示していなかったり、本当にいろいろなシチュエーションの作品をやっている印象があります。だから今回、時代劇が初めてだったんだということにちょっと驚きました。その貴重な公演に自分が出演させていただけるのは、すごく嬉しいですし楽しみです。みのすけさんがおっしゃるように『江戸時代の思い出』ってすごくいいタイトルだなって、私も思います。それこそ、あの時代だからこその人間味や、ハチャメチャな出来事もいろいろあったでしょうし、それにKERAさんのアナーキーさも加わって、なんとも良い香りがしそうだなと想像してワクワクしています。しかし、江戸時代が舞台になるのかは、これからのお楽しみですね(笑)。

ナイロン100℃ 47th SESSION『イモンドの勝負』撮影:引地信彦

――ビジュアル撮影で、実際に江戸時代の扮装をしてみての感想はいかがでしたか

みのすけ ナイロンの公演で時代劇の格好をすること自体がこれまでなかったので。コントで1シーンだけ、とかならありましたけど。だから、全員で時代劇の格好をしてチラシになるなんて本当に新鮮で、みんな真面目な顔をしているけど、もうそれだけでもバカバカしい感じがしてきますよね。

――坂井さんは花魁姿でしたが

坂井 私も、花魁の格好をした瞬間から、気持ち的にはコントをやる気満々でした(笑)。みなさんの格好を見た時も、ついついコント寄りに色々と想像してしまいました。楽しい撮影でしたね。

――お二人が共演されるのは『睾丸』(2018年)以来ですね。振り返っていただくと、あの舞台での印象深いエピソードは

みのすけ 真紀ちゃん、覚えているかな。昔の回想シーンで、真紀ちゃんが長髪のカツラをかぶって、レトロなコスチュームを着ていた場面があったんだけど。それが僕の大好きな感じの衣裳で、とても素敵だったなということがとても印象に残っています。

坂井 学生運動の時代の格好でしたね。『睾丸』はナイロンの公演の中でも、出演者が少人数で劇場も小さめだったので、いつもとちょっと違ってぎゅっとした、密なお芝居ができたこともすごく楽しかったです。赤堀(雅秋)さんや三宅(弘城)さんは、学ランを着ていましたよね。

みのすけ そうそうそう(笑)。

坂井 それがもうおかしくて、おかしくて。

みのすけ 10代を演じるといっても、赤堀くんとかはどう考えても無理やり感がすごくて(笑)。

坂井 私は、赤掘さんの学ラン姿にゲネプロで笑いが止まらなくなってしまって、KERAさんに激しく怒られたことも忘れられない思い出になっています。

ナイロン100℃ 46th SESSION『睾丸』撮影:引地信彦

――そんなに面白かったんですね(笑)

坂井 面白かったです。でもそれだけではなく、本当に楽しかったんですよね、みのすけさん!(笑)毎日台詞のニュアンスやテンポの違いでもお芝居が変わっていきますし、濃厚な貴重な時間でしたよね。

みのすけ うん。なかなか楽しい舞台でしたよ。

――『睾丸』は比較的シリアスめというか決してナンセンス系ではなかったので、今回とはまた全然違う感じになりそうですね

みのすけ そうですね。あれは、劇中で時代は変わるものの、みんな一役でしたし。でも今回はどうなるか。『イモンドの勝負』の流れに近い作品になるとすると、みんな何役も演じることになる可能性もあるけど。だけど時代劇の格好で何役もやるのは、着替えが大変なことになってしまうから、そのへんはどうだろう、一役でいくのかなあ。ま、これも僕の勝手な推測ですが。

――そして、この作品はナイロン100℃の30周年記念公演の一環でもあります

みのすけ そうなんですよ、30年と言ってもピンときませんけどね。初期の頃は、劇団公演を年に3回とかやったりしていたので、今みたいに各自それぞれの活動をするというよりは劇団に集中して活動していたから。距離感として、365日みんなと顔合わせている感覚があったんです。若かったから、喧嘩することもありましたしね。そういう、青春っぽい感じもだいぶありましたけど、さすがに30年も経てばみんなもう50歳を過ぎたりしていて、公演の時しか会う機会がない人とは、2、3年顔を合わせることがなかったり。そうなると逆に、一本一本の公演が重要になってくるんですね。あと何本やれるかな?みたいな気持ちにもなるので。だから、より楽しみに思える。実際、今回も久しぶりに会えるメンバーもいるので、まずは同窓会的なところから始まるのかもしれない。しかも客演の方々も全員が知った仲で、信頼できる人たちが集まってくれたので安心です。気がねなく稽古に臨めますし、かなり心強い面々です。

――坂井さんは、ナイロン100℃が30周年と聞いてどう思われましたか

坂井 30年って、すごく長い歴史を感じますよね。みのすけさんのお話からみなさんの若い時代を想像して、青春の、甘酸っぱい気持ちになっています(笑)。私が初めてナイロンに出させていただいたのは2007年の『わが闇』だったんですが、その再演が2013年で結成20周年の頃。初参加は17年前になるのですね。劇団員のみなさんもそれぞれ、すごくマイペースで、みなさんのことを知れば知るほど気持ちのいい空間なのです。

みのすけ 確かに個人主義な人間が多いですね。って、僕自身が一番そうなんだけど(笑)。徒党を組まないというか、みんなそれぞれが勝手な感じで、そこが逆に仲良くやれている秘訣かなとも思います。

坂井 わかります(笑)。それでいて、舞台の上に立つと言葉では説明できないほどの素晴らしい団結力があるなと実感します。みなさん演じることに本当に真面目ですし、それぞれの個性がぶつかりあうのではなく、「これぞナイロン100℃だ!」というところに着地するところをいつも感動して見ています。

――改めて坂井さんが感じている、ナイロン100℃の舞台ならではの魅力とは

坂井 まず、KERAさんの持っていらっしゃるセンスが、あらゆる方面から大好きです。役者さんたちもそのKERAさんのセンスの中で常に素晴らしい表現力をされて、ナイロン100℃の世界観にいつも魅了されています。どこにでも連れて行ってくれて、笑いながら泣けてくるような、人間が愛おしくて憎たらしくて、自由で、尖っていて、優しくて、台詞もずっと聞いていたくなります。そして、舞台が始まる前に暗転になり、幕が開いた時のファーストインパクトは特に興奮します。客席からナイロンのお芝居を観るたびに、舞台上の世界に憧れてしまうんです。私も出たいなあ、あそこに出られたら良かったのになあ、なんて、畏れ多くも思ってしまう。だからそこに一緒に立てることは、とっても光栄なことですし、緊張もします。

――みのすけさんには、改めてKERAさんのここ最近の作品について思うことをお聞きしてみたいのですが

みのすけ 最近は、公演ごとに全然違う傾向の作品を上演しているので、本当に楽しみに思っています。劇団公演以外のものにも面白い作品がいっぱいあるので、それに自分が出ていない場合は「あ、そっちもやりたかったな」なんて思うこともありますね。

坂井 アハハハ、なるほど。

みのすけ 本当に多様な作品をやっているから振り幅がすごいなと思うし、新作を発表するペースも早いですしね。再演できる作品もいっぱいあるんだからたまに挟んでもいいように思いますけど、KERAさんが再演をあまり好まないし、劇団員たちも常に新しいものがやりたいと思っているし。再演ばかりやるというのは、ナイロンには似合わない気がするんですよね。

――そして今回は坂井さん以外の客演陣として、池田成志さん、山西惇さん、奥菜恵さんも出演されますが

みのすけ もう何度も共演している方々なので、安心です。これだけすごい人たちが集まってくれるなんて豪華ですよね。山西さんとは『百年の秘密』(初演2012年、再演2018年)以来ですけど、成志さんとは実は『テクノ・ベイビー〜アルジャーノン第二の冒険〜』(1999年)以来なんですよ。僕は、劇団外でも成志さんとは共演する機会がなかったから。なんだかお互いの舞台を観に行ったり観に来てもらったりしていて、しょっちゅう会っているから共演しているような気になっていたけど、そんなに久しぶりなのか!と驚きつつも新鮮です。奥菜さんとも舞台では『ドント・トラスト・オーバー30』(2003年)以来になってしまうけど、映像作品では何度かご一緒しているので。それにしてもこうして見るとなかなか濃いこのメンツで、本多劇場でできるというのもやはり楽しみでしかないです。

坂井 私は成志さんとは劇団☆新感線の『鋼鉄番長』(2010年)で、山西さんとは劇団ダンダンブエノ『砦』(2006年)でご一緒していますが、お二方とも映像作品でもお会いしていますし、頼れる先輩であり、舞台の上に一緒にいてくださるだけで安心感があります。奥菜さんとは初めての共演になるので、とても楽しみです。

――では最後にお客様に向けて、お誘いのメッセージをいただけますか

みのすけ 何度もナイロンをご覧になってくださっている方はもちろんですが、今回はもしナイロン100℃のことを知らないという方でも、きっとバカバカしく気軽に観られる作品になるのではないかと思います。なので、観たことないよという方も来てみたらどうでしょうか(笑)。若い方たちにぜひ、おじさんたち、おばさんたちがバカバカしいことをやっているところを観て楽しんでいただきたいです。30周年ということで、もちろんまだまだこの先もやり続けますけれども、いつまでやれるかはわかりませんし、今回ちょうどいいタイミングですから来てみてください。

坂井 毎回ナイロンを楽しみにしてくださっている方々の期待を裏切らないよう、しっかりがんばって面白いものにしますので楽しみにしていてください!そしてやっぱりみのすけさんもおっしゃるように、観たことがない方にもぜひ来ていただきたい。確かに若い方からしたら、おじさんとおばさんたちがいっぱい出てくることになるかと思いますけれども(笑)。様々な作品がある中で、KERAさんの作品、ナイロンの舞台は一度は観ておいたほうがいいと自信を持って言えます。そして、言ったからには、さらに私も精一杯がんばります!劇場にどうぞお越しください!!

取材・文/田中里津子