無伴奏ソナタ-The Musical-|平間壮一&大東立樹インタビュー

成井豊演出、平間壮一主演のミュージカル『無伴奏ソナタ -The Musical-』が7・8月に東京・サンシャイン劇場、8月に大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演される。

本作は2012 年に舞台作品として演劇集団キャラメルボックスが初演し、圧倒的な評価を博した名作の初のミュージカル化。原作はアメリカの作家、オースン・スコット・カードの30ページほどの短編小説で、すべての人間の職業が幼児期のテストで決定される時代を舞台に、音楽の天才として見出された男、クリスチャン・ハロルドセンの人生を描く。ミュージカル版の脚本・演出・作詞もキャラメルボックス版同様、成井豊が手がけ、音楽は元ピアノロックバンド WEAVER のボーカルで現在はソロプロジェクト ONCEとして活動している杉本雄治が手がける。

本作でクリスチャンを演じる平間壮一と、ギレルモを演じる大東立樹に話を聞いた。

脚本に感じたこと、役柄に感じたこと

――脚本を読んで、どんなことを感じられましたか?

大東 言葉に言い表せない感覚がありました。僕は作品を観た後、心の中で「いまこういう感情になったな」とかいろんなことを考えるケースが多いのですが、この作品は全く整理がつかなくて。それが第一印象です。

平間 読み終えて最初に、「しあわせとは何なんだろう」と思いました。僕の家族は「やりたいことが見つかったのならそっちをやりなさい」というような行動的な人たちだったんですけど、一般的な感覚だと「なんで学校行かなかったの」「当たり前に卒業するものでしょ」となるので。小学校や中学校は義務教育だしそうなんですけど、でもじゃあ「義務」ってなんだろう、誰が決めたんだろう、ということはなんとなく小さい頃から思っていました。この作品はまたそれとは違うルールの世界なので、「こういう世界が本当にあったら」と思うとすごく不思議な感覚になったし、おそろしかった。僕が34年間生きてきた世界のルールが100%しあわせになるルールかっていうとそうでもないんじゃないかなって、しあわせってなんだろうなっていろんなことを考えました。

――ご自身の役柄についてはどんな印象を受けましたか? 大東さんはギレルモという、平間さん演じるクリスチャンに影響を与える役です。

大東 ギレルモはとにかく明るさの象徴というか、“陽”の象徴でいたいなというところはあります。この作品は根本的にダークだと思うのですが、そのダークさが根にある状態で明るい性格の人(ギレルモ)が話したいことを話している、という感じが、僕は好きなんです。演出家さんと話し合って、自分なりにキャラクターをつくっていけたらいいなと思います。

――ギレルモはギター演奏をするそうですが、ギターは完全に初めてですか?

大東 初めてです。なのでギタリストの手を手に入れたい。絶賛練習中で、ペースは順調だと思うんですが、まだこの状態では出演できないかな(笑)。ちゃんと自分を叩き上げて(?)、がんばろうと思います!

――平間さんは、主人公のクリスチャンを演じます。幼い頃に音楽の才能を見出され、特別な才能を持つ「メイカー(maker)」として育っていく人物です。

平間 クリスチャンは(キャラメルボックス版で)多田直人さんが演じてこられた役で、取材の場で役づくりについてお話しさせてもらったんですけど、30歳にしては純粋でピュアで、大人なのに子供すぎやしないかっていう。多田さんに「そういうふうにつくったんですか?」と聞いたら、そうだねっておっしゃっていて。僕も脚本を読んで、自分なりに役を捉えたときに、クリスチャンは適性検査で音楽が向いていると出ただけで、「(音楽を)やりたい」と思っているかっていうとそれはわからなかったんですよ。「メイカーになったんだから音楽を作りなさい」っていう部分があるのかなって。だから「無」でつくっていたんだけど、他の音楽を聴いた時に「心」というものを知った。30歳まで生きてきた人ではあるけれど、他の音楽が耳に入った時が「0歳」で、そこから他の人たちと「心」を学んでいけたらいいかなと思いました。今はそんな想像をしています。うまくいくかわからないですけどね。

――実際にこれまで3度クリスチャンを演じた多田さんが共演者にいらっしゃるということは、どう思われていますか?

平間 むしろ多田さんが、俺が気にしちゃうだろうなと思って気を遣ってくださっているなと感じました。「全然見ないし、好きにやっていいよ」とおっしゃってくださったので、楽しんでつくっていこうと思います。「多田さんにはこれ思いつかなかっただろう!」という気持ちで(笑)、通してみようかなと思います。

――二幕でのクリスチャンとギレルモの出会いは大きなものになっていきますが、お互いがどういう存在として映ったと思われますか?

平間 クリスチャンにとってはひとつ背中を押してくれるというか、「やっぱやりたいよね」っていうような感じで、気持ちの面でひとつのらせられる存在だと思います。

大東 僕も、(ギレルモ)のクリスチャンに対する気持ちの強さっていうのはひとつカギになるところだと思っています。どうでもいいヤツを適当に音楽に誘い込んだ感じではないのかなって。最初からクリスチャンを意識しちゃってる、みたいな。

――現時点で、ギレルモがクリスチャンのことを気にしたのはどうしてだと思われますか?

大東 もしかしたら、その考えはやめましょうとなるかもしれませんが、運命的なところがあるんじゃないかなって思います。人と人との繋がりとしての運命。それを直感でギレルモが思っていてもおかしくはないんじゃないかなって。でもちょっとこれは演出家さんに聞いてみます。

平間 作品の中で俺が「一番残酷なのは人だな」って思う、バーでのシーンがあって。特殊なルールだったり処罰だったりいろんなことが描かれる作品ですが、僕はやっぱりここが『無伴奏ソナタ』の一番おもしろいところだと思ったし、「人間模様が基本にあるから舞台になっているんだ」と思ったんです。だからこのふたりの関係性でもなにかもう一個、発見できたらいいなと思いますね。

想像力にもうひとつ、音楽という武器を重ねて(平間)

――おふたりとも演出家の成井豊さんとはこれが初めてとなりますが、既になにかお話しはされましたか?

平間 いえ、まだお会いしていないです。でも話を聞いたら、すごく原作を大事にする方で、原作のことを誰よりも愛しているのが成井さんだっていうふうにうかがって。僕はけっこう「こうやりたいです」ってオリジナリティを持っていっちゃう役者だから、大丈夫かな?と思っているところではあります(笑)。

――成井さんはキャラメルボックス版でも脚本・演出を手がけていらっしゃいますが、キャラメルボックス版『無伴奏ソナタ』はご覧になりましたか?

平間 観ました。劇団公演としての統一感があって、この世界を信じ込ませやすいというか。「そういうふうに生きている人たちがいた」っていうのがスッと入ってくるんですよ。そういう意味では今回は、僕ら(平間と大東)だけでもやってきたことが全然違いますし、そういう人たちが集まるので、(劇団公演よりは)ちょっとガタガタしていくと思うんです。そのうえでミュージカルというものになるので、説得力をどう持たせるかは課題だなと思いました。

大東 僕もまだ成井さんとはお会いしたことがないんですが、キャラメルボックス版の『無伴奏ソナタ』の映像を拝見して、いっぱいお話ししたいことができたので、話しかけにいきたいなって思っています。

――どんなことをお話ししたいですか?

大東 基本中の基本ですけど、お芝居で絶対やっちゃいけないこととか、そういうところから入っていって、役づくりを挟んで、成井さんのプライベートに……

平間 ええ?(笑)

――成井さんのプライベートも知りたいんですか?

大東 はい。

平間 ちゃんとまず芝居の質問から入って、ゆくゆくはプライベートのことまでどっぷり(笑)。

――プライベートも知りたいのは、どういう方がこの作品をつくったんだろうと思ってのことですか?

大東 それもありますが、シンプルに演出家という職業に対する憧れがあって。俯瞰して見ないといけないですし自己満足で終わらせられない職業ですから。僕自身がそういう視点を持った人間になりたいので、休みの日なにをしてるんだろうとか、どういう人がタイプなのかなとか……。

平間 (笑)

大東 そこを聞くにはまず信頼関係を。

平間 あーーー、おもしろい(笑)。

――今回はストレートプレイであるキャラメルボックス版から大きな変化としてミュージカル化というのがありますが、この作品がミュージカルになることでどういうおもしろさであったり、伝わるものの変化があると思われますか?

平間 ストレートプレイでは、お客様の想像力の中で、その人その人の『無伴奏ソナタ』ができていたと思うのですが、ミュージカル化することでもっと統一化されるんじゃないかなと思っています。音楽が与える力ってすごくて、「こういう雰囲気」とか「こういう思い」だということが“音”として伝わってくるから。だから今回のミュージカル版は、想像力にもう一個、音楽という武器を重ねて、より分かりやすい舞台になるんじゃないかなと思っています。

大東 僕も、お客様の作品の愛し方が変わってくるんじゃないかなと思っています。ミュージカル化する事で何十回でも観たいなと思ってもらえるのではないか思います。それこそ公演が終わってからも……あ、すごいこと言っちゃいそうになった。

――なんですか?

大東 例えば音源化されたら! 舞台の期間という枠を超えたお客様との繋がりにもなるなと思います。

稽古場での出来事を一瞬も逃さないくらい観察し、全部吸収したい(大東)

――今日が初対面だそうですが、お互いの印象もうかがえますか?

大東 かっこいいなっていう目線で見ています。尊敬する先輩だっていう目で、これからもずっと見ていくと思います。

平間 稽古場でいっぱい失敗するからね。げんなりしないでね。

大東 あ、かっこよくいてほしいとかそういうことではなくて、ラフにお話しされている時も演じている時も、素敵なお人柄と素敵な経験が滲み出ているというか。こうやってお話ししただけで伝わるので。きっとすごく魅力的な方だなという印象です。

平間 歌が上手なんでしょう?

大東 ミュージカルの発声はまだまだです。ポップス的になってしまう事もあって。

平間 クリスチャンの歌は教わるわ!

大東 ええ? おかしいですよ(笑)。というか、お歌めちゃくちゃ上手って聞きました!

平間 (笑)。そんなことない、そんなことない。

大東 出演が決まって、たくさんの方に、「すごい人と共演するんだね」「壮一さん、めっちゃ歌うまいんだよ」って。

平間 怖いわ~。俺はここ最近は、「音楽の力を借りなさい」って言われてる。「台詞だと思って、芝居だと思って歌うのをやめな」って。多分、言われてること逆よね。

大東 そうですね。そっちの世界もあるんですね。

平間 そうそう。

大東 いっぱい勉強します!

――最後に、おふたりが作品に対して楽しみにされていることをうかがいたいと思います。

平間 さっきチラッと話しましたが、ガタガタするカンパニーだと思うんです、最初は。出演者の中にはキャラメルボックスの方もいますし、成井さんもきっとまず頼るのは劇団員の方でしょうし。そこに俺たちも食らいついていって、話したりして、徐々に徐々にひとつになっていって……いや、いろんな方がいるからひとつになるのかならないのかわからないですけど、でもそういう過程も含めて、身を任せて、一生懸命向き合っていけば、いいカンパニーになるし、いい芝居にもなるんじゃないかなと思っています。一生懸命稽古します。その完成が自分たちも楽しみです。

大東 そんな稽古場での出来事を一瞬も逃さないくらい観察して、全員の技術を根こそぎ奪ってやろうと思います。………ははは!

――自分で笑っていますね(笑)。

大東 ちょっとキャラとズレたこと言っちゃいました(笑)。でもそういう気持ちです。全部吸収します!

取材・文:中川實穗