写真左から)末原拓馬、横井翔二郎
「初心と向き合う物語にもしたい」(末原)
「真っすぐにこの世界に飛び込む」(横井)
末原拓馬が率いる劇団おぼんろの第24回本公演「聖ダジュメリ曲芸団」が5月から6月にかけて上演される。貧しい街の片隅で繰り広げられる害虫サーカスを舞台に、童話的な叙情悲喜劇を繰り広げていく。
末原 「最初は、見世物小屋の人魚みたいな話にしようと思って話を進めていたんです。綺麗で残酷で…僕らっぽい話ですよね。でも本決めのときになって、何か普通過ぎる気がして…やめちゃいました。みんなの期待通りすぎる、何でも美談になるような流れに、逆らいたくなったんです。そこで、生理的嫌悪感があるものを物語にしたら、自分の心がどれくらい動くのか、そこに美しさが見出せるのかと考えてました。その発想が浮かんでからは、ポンポンと物語が決まりました」
この公演で劇団おぼんろの作品に初出演することになったのは横井翔二郎。この作品は必ず面白くなるという確信をもって、オファーを受けたという。
横井 「拓馬くんとは『朝シェイクスピア~30分でわかるハムレット』のハムレット役でダブルキャストをやっていて、実は共演をしたことはないけど、同じ死線を潜り抜けた同志。オファーにはびっくりはしましたが、おぼんろに出演経験のある俳優仲間にも話を聞いたりして、リスペクトをもって引き受けました。ハムレットで拓馬くんの千穐楽を観たとき、同じ演出を受けてこんなにも自分とは違うのかと驚いたんです。僕にはできない、拓馬くんにしかできないハムレットだった。そういう拓馬くんが率いている劇団なんだから、面白くならないはずがないと信じられたんです」
末原 「翔二郎は、エネルギーが強いんですよ。こだわりという言葉だとオシャレすぎる気がするけど…なんか頑固な感じがして、それがすごくいい。SNSとかを見ていると音楽の好みとかもドンピシャに合っていて、結構僕と近い感性なんじゃないかな?今、すごく近づきたいって思える相手です」
物語は、ダニの「イイワケ」や職人気質のノミ、マダニの兵隊や血吸わせ猫など個性的な面々が懸命に生きる姿を描き、彼らの命のきらめきを綴っていく。
横井 「発想がすごく拓馬くんっぽいなって思いました。僕の勝手なイメージですけどね(笑)。芝居をする上の技術とか演出とかについて、何かを言うような自信はないんですけど、楽しいものになりそうだっていう嗅覚だけは外れたことがないんですよ。もう、確実に経験したことのない楽しさが待っていると確信しています。小手先の変化などは気にせず、とにかく一生懸命に、真っすぐにこの世界に飛び込んでいきます!」
末原 「本公演は一番失敗してはいけない場所だし、一番大事な場所ではあります。でも、一番評価につながらないことをやってもいい場所だとも、思えるようになりました。昔は、それこそ1ミリ動いたことも許せないくらいの芝居を目指していて、そこからだんだんと効率的になっていって…じゃあそもそも、どんな芝居を僕らは面白いと思っていたんだろうか、と。もっと美しいものを作るには、世界で一番スゴイものを目指すには…そういう演劇を今はやりたい。本公演だからこそ、そういう自分たちの初心に向き合う物語にもしたいと思っています」
インタビュー&文/宮崎新之
Photo/篠塚ようこ
※構成/月刊ローチケ編集部 5月15日号より転載
※写真は誌面と異なります
掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
ローソン・ミニストップ・HMVにて配布
【プロフィール】
末原拓馬
■スエハラ タクマ
主宰として’06年に劇団おぼんろを旗揚げ。脚本家、演出家、役者に加え、絵描き、ミュージシャンと幅広く活躍。
横井翔二郎
■ヨコイ ショウジロウ
青年座映画放送所属。’12年に俳優デビュー後、舞台を中心に、映画、テレビドラマにも多数出演。