秋山皓郎×佐伯亮による演劇ユニット「劇団7枠13番」始動!旗揚げ公演『折り合いの終幕』インタビュー

写真左より 秋山皓郎・佐伯亮

俳優の秋山皓郎と佐伯亮が、演劇の無限の可能性と面白さの追求のため、「劇団7枠13番」を設立。本多劇場で演劇をすることを目標に、6月19日から旗揚げ公演『折り合いの終幕』を下北沢OFF・OFFシアターで上演する。幼少期から自身の出身地にて子ども劇団として舞台を経験し、劇団青年座研究所などを経て数々の舞台で活躍する秋山。そして、第22回ジュノンスーパーボーイ・コンテストファイナリストを皮切りに芸能界入りを果たし、「あんさんぶるスターズ!THE STAGE」や舞台「ブルーロック」などに出演する佐伯。二人が劇団設立に至った経緯とは? そして、旗揚げ公演を通して、何を表現するのか。彼らの想いを聞いた。


――最初に、お二人が演劇を結成するに至った経緯を教えてください。

秋山 僕の中では曖昧で…流れの中で決まった感じで(笑)。

佐伯 秋山とはコロナ禍で初めて共演して、それからプライベートも仲良くなって、お芝居の話をしたり、一緒に演劇を観に行ったりすることが増えたんですよ。そんな中、僕が1人芝居をやることになり、そのときに演出や脚本の勉強をしていた秋山に「1回、一緒にやってみない?」と声をかけたんです。僕も一人芝居は初挑戦だったし、秋山にとっても作演をするのは挑戦になるし、お互いの挑戦をここでやってみようと。それが、去年の10月です。その一人芝居を無事に終えて、本格的に自分たちで演劇ができる場所を作ろうという動きが加速して、今に至ったという流れです。これまで、たくさんの作品に出演させていただく中で、「自分たちが本当に面白いと思える表現ができる場所があったら、僕たちもまた違った表現ができるのではないか」という思いが合致し、結成しました。


――そうすると、佐伯さんの一人芝居を二人で作ったことに大きな手応えがあったからこその流れなのでしょうか?

秋山 初めて自分の書いた作品を亮に演じてもらって、そこで得た感覚は、手応えというよりは達成感や実感に近いもののように思います。同時に、もっとできたなと思うことももちろんありましたし、もっとやりたい、もっと続けたいという気持ちも芽生えました。

佐伯 僕も達成感はありました。ただ、その時は2回しか公演がなかったですし、観に来てくださったお客さんも僕のことを知っていて来てくださっていたので、もっとたくさんの方を巻き込んで一つの作品を作ったら、また違う感触が味わえるのではないかというワクワクやドキドキの方が強かったように思います。それまでも「何かやりたいね」という話はしていたのですが、それが一気に現実味を帯びたのはやはり一人芝居があったからこそだと思います。


――これまでも共演をきっかけに仲良くなる役者の方たちはたくさんいらっしゃったと思いますが、そうした中でもお互いに特別な何かを感じて、お二人での結成となったのでしょうか?

秋山 何だろうね? 気づいたらずっと一緒にいたよね。

佐伯 演劇観が合うというのはもちろんあるし、お互いに限界を見ずに、どんどん新しいことをやっていきたいというスタンスが似ていたので、そこが一番なのかな。

秋山 あとは、共演した舞台がコロナ禍の中でも混迷を極めていた時期だったからというのもあると思います。役者としてもっと上を目指していきたいというスタンスの2人が、コロナ禍で社会全体がグッと下がっていた時に会ったので。

佐伯 2020年6月のスペース・ゼロでの公演のときに出会ったのですが、確かに時期もあるかもしれないですね。それまでは、本番に向けて稽古をするのでゴールがはっきりと分かっていたんですよ。でも、コロナでそのゴールも見えなくなってしまった。明日、公演がストップしてしまうかもしれないという状況の中で、演劇は当たり前ではないという時間を過ごした。そんな時に出会ったというのは大きいかもしれません。


――まさに奇跡の出会いだったんですね。「劇団7枠13番」という劇団名にはどんな意味が込められているのですか?

佐伯 僕たちには「競馬好き」という共通点があるんですが、2022年の日本ダービーでドウデュースという強い馬が7枠13番を走って、見事に1着を取ったことがありました。実は、僕たちはそのレースを買っていたので、これは縁起がいいというのが頭に残っていて。それで、「劇団名をどうする?」という話になったとき、秋山の方から「7枠13番」という提案があって、響きもいいし、お互いに日本ダービーの勝ち馬で、飛躍できそうだなという思いからつけた名前でした。


――日本ダービーですか! 劇団としては、どんな活動やどんな作品を作ることを目指しているのですか?

秋山 劇団と名乗っているので、基本的には舞台を中心に活動していく予定です。今回、旗揚げ公演を下北沢のOFF・OFFシアターで行いますが、ゆくゆくは本多劇場に立つというのが目標です。これは亮の夢でもあります。昔でいう「演劇すごろく」ではないですが、OFF・OFFシアターから始まって、駅前劇場などの周りの劇場を回っていって、ゆくゆくは本多劇場に劇団として立ちたい。それが夢です。作風は、まだ旗揚げ公演をしていないので難しいところですが、僕は、日常生活の中に生まれてくる感情を描いていきたいと思っています。観てくださる方が共感できたり、ふっと日常を感じることができるものにしたいです。ただ、舞台は非現実の世界でもあると思うので、リアリティだけでなく、非現時的な要素をうまく使って、観ているお客さんにも不思議な気持ちになってもらえたらいいなと思っています。


――劇団では、秋山さんが作・演出を担当されるということですが、作・演出をやりたいという思いはいつ頃からあったのですか?

秋山 3年くらい前に、事務所を辞めて、「面白いことをしたい」というスタンスで活動をするようになりました。その頃から、役者として現場に行くのはもちろんですが、例えば演出助手という形で作品に携わったり、さまざまな経験もさせていただきました。その中で、どの劇団も当たり前に大変で、でも、面白いことをやっていると感じました。ただ、同じ大変さを味わうなら、自分が中心でやりたいと思うようになったんです。そんな時、伊藤栄之進さんがオンラインサロンを行っていて、そこで脚本の添削をされているのを知り、それに参加して、脚本の勉強を始めるようになりました。面白いことを自分でやりたいと思った時に、それなら自分で書こうと。


――なるほど。佐伯さんは、本多劇場に立つことが夢だった?

佐伯 そうなんです。ナイロン100℃さんの芝居を見て、そこから本多劇場に立ちたいという思いが強くなりました。以前から目標として掲げていましたが、やはりなかなかチャンスが巡ってこなくて。今は自分たちでチャンスを掴みに行こうという思いが強くなっています。


――旗揚げ公演となる『折り合いの終幕』は、役者を描く作品ということですが、どのような物語になるのでしょうか?

秋山 脚本を書き始める前に、2人でどういうテーマにしようかという話をしたんですよ。その中で、役者の話、劇団の話をやりたいということになってこの物語になりました。今後、何年も劇団を続けていくときに、どうしても最初の作品というのは特別なものになると僕は思っています。振り返ったときに必ず思い返すのがこの作品になるんだろうなと。しかも、きっとそのときに恥ずかしくなると思うんです。それに加えて、役者が役者のことを話すのはあまりないことですし、そこにはある種の恥ずかしさもあります。なので、今回は、あえて思い切り恥ずかしい芝居を書こうというのが僕のテーマです。役者を辞めるという選択をするところから物語を始めようと思って、今、書いています。


――そこから始まって、さまざまな役者さんたちが人生を振り返ったり、自分を省みたり?

秋山 劇中にそうしたシーンは入れようとは思っていますが、日常的な要素を大事にしたいと思っているので、メインに描くのは日常なのかなと思います。今回、出演してくださるキャストの方々も同年代の方にお願いしているので、実年齢で、その人のまま舞台に立ってもらい、そのまま話しているという作品になると思います。

佐伯 なので、今回、役名もないんですよ。基本的には本名がそのまま役名です。もちろん、役を演じていることには変わりはないのですが、自分でいて欲しいという思いがあります。


――共演の横井翔二郎さんと村松洸希さんにお声をかけたのは、どんなことを期待されてのことだったのですか?

佐伯 実は最初の企画段階では、今回は30歳までの役者さんにお願いしようと考えていました。僕は今、28歳なのですが、役者の中で「30歳の壁」というのは大きいなと思っていたので、「30歳までの役者の方に実年齢で等身大で演じて欲しい。その人たちが、今後、役者を続けるのか辞めるのかを本気で話したい」というのが根本にありました。そこから物語が作られていったのですが、色々と話し合っている中で、30歳を超えた素晴らしい役者さんたちもたくさんいて、そうした方が1人、この物語の中に入ったらまた違ったものになるのではないかと考えるようになり、僕が信頼している横井さんにお声をかけさせていただきました。横井さんにしか出せない演劇力というものがあって、話していなくても存在感がある。夢見がちな少年のような方で、人柄も素晴らしい。すごく熱い人なんですよ。旗揚げ公演に加わっていただけたら、すごく良い作品ができるのではないかと思います。それから、村松くんは、自身も劇団をやっていて、柿喰う客のメンバーでもあるので、僕たちが劇団を立ち上げてどうすればいいのか分からないときにすごく助けてくださっていたんです。そうして色々と密に話をしていく中で、ぜひ出てもらいたいなと。村松くんもすごく熱い人なので快く快諾ししてくださって、決まりました。


――今、おっしゃっていた「30歳の壁」というのは、本作のキーワードになっているのでしょうか?

秋山 そうですね、劇中で年齢の話もしますし、テーマとしても出てきます。一般の方でも結婚を意識する人も多い年齢だと思うので、そうした問題にも目を向けて書いています。


――劇団を作るに当たっても「30の壁」という思いはあったのですか?

秋山 もう数年前になりますが、最初は「30歳になったら作ろう」という話もしていました。それくらい、30という年齢は目安なんじゃないかなと思います。

佐伯 なんでなのかは分からないけど、30にこだわってしまうんですよ(笑)。それがずっと記憶にあったからか、旗揚げ公演でどんな作品をやろうかという話になっても、すぐに「役者の話をやりたい」と。30歳までの同世代の役者さんたちと作ったら面白いんじゃないかということは、早い段階で決まりました。

秋山 やっぱり30歳を前に役者を辞めて新しい道に進む人や、やり方を変えるという人も多く見ているので、そこまで意識しているつもりはないけれども、通過点として目を向けていこうかなと僕は感じました。


――ありがとうございました! では、改めて本作の見どころを教えてください。

秋山 4人の役者が、90分、ずっと舞台上に出ているという作品を目指しています。なので、舞台上にずっと存在しているところを見て欲しいです。役者にとっては、小さな空間に4人だけをずっと出して、ずっと話しているというのはなかなか大変な芝居になると思います。そこを楽しんでいただけたらと思っています。

佐伯 先ほども言いましたが、等身大の自分たちを演じます。僕たちにとっては恥ずかしい場面もたくさんあると思いますが、それをどれだけ表現できるかにかかってくると思うので、役者としての根本を舞台上で表現できたらいいなと思っています。4人芝居で、小さな空間で、お客さまとの一体感を作れたらと思っていますので、そこも楽しんでいただけたらと思います。


――最後に、先ほど、劇団としての目標はお伺いしましたが、ぜひお二人それぞれの役者として、演出家として、または劇団として思い描いている理想像や憧れの姿を教えてください。

佐伯 おじいちゃんになってもお芝居を続けていきたいという思いはずっとあります。僕は、中学生の頃に業界に入らせてもらい、人生の半分くらいを過ごしていますが、この先それがなくなることは考えられないので、ずっとお芝居をしていられたらいいなと思います。明確な目標としては、朝ドラに出演することです。朝ドラが大好きで、そこを目指して、今、芝居を続けているというのもあります。新たに秋山とこうして劇団を作り、自分1人の目標だった本多劇場が今、秋山も含めて劇団としての目標になっているというのも、すごく心強いので、それもまた、お芝居を今後続けていく上で頑張っていきたいところです。僕は、もともと下北沢で活動するような劇団が好きだったので、そうした劇団のようになっていければいいなと思います。

秋山 今、亮がおじいちゃんになってもと言っていましたが、僕の尊敬する人の1人で、 青年座の山野史人さんという俳優さんがいるんですが、現在、80歳を超えています。ポール・マッカートニーより年上なんだそうです。演技も素晴らしく、大好きな方です。今回の作品のテーマの一つにもなっていますが、「続ける」ということも役者の能力の一つだと思います。僕は、ずっと演劇を続けていくのが目標です。それは、劇団としての目標でもあると思います。

 

取材・文:嶋田真己