崎山つばさ、初の三人芝居は「怖さの中に楽しみもある」 『怪物の息子たち』インタビュー

『悪夢のエレベーター』や『仮面ライダーリバイス』の木下半太が脚本、ミュージカル『薄桜鬼 真改』土方歳三 篇などの毛利亘宏が演出を務める、三人芝居「怪物の息子たち」。『仮面ライダーリバイス』で共に脚本を担当した2人が、本作では脚本と演出としてタッグを組み、新たな会話劇を生み出す。出演するのは、崎山つばさ、安西慎太郎、田村心の三人。神話・落語をもとにした3つのエピソードで紡ぐ本作で、怪物といわれたある男とその男の三人の息子たち、さらには劇中に登場する人物たちを三人で演じる。崎山に本作に懸ける想いや意気込み、作品の見どころなどを聞いた。


――三人の役者たちによる会話劇ということで、かなり濃厚な作品になるのではないかなと思います。最初にこの作品のお話を聞いたときはどう感じましたか?

自分史上最少人数の芝居になるので、大変なことも多いとは思いますが、僕は苦しいのも嫌いではないので、怖さの中に楽しみもあります。苦しさを乗り越えた先に今まで見たことがない景色があったらいいなという期待があります。


――その怖さや苦しさというのは、どんなところに一番感じているのですか?

物語を3人だけで作り上げるということの重さですね。必ずしも人数が多ければその世界が作り上げられるものでもないとは思いますが、人数が多ければ多いほど選択肢は増えますし、役柄も増えるので物語に厚みが出てくるものだと思います。ただ、今回は3人でそうした物語の厚みを感じさせないといけない。3人で物語を成立させないといけないという難しさはあると思います。それと単純にセリフ量も多くなってくると思いますし、今回は一人で何役も演じるのでその演じ分けも大変さに関わってくるだろうと思います。3人でどこまでできるのか挑戦でもあるので、まだまだ未知数なところはありますが、でも、だからこそなんでもできる。とりあえずやれるものは全てやってみよう。使えるものは全て使ってみようという気持ちでスタートできたらと思っています。


――本作への出演が発表された際、「お芝居に苦しめられ、追い詰められる自分がいるんじゃないか。でも悪くない」というコメントを出されていましたが、崎山さんにとって苦しんだ先にあるものを見つけるのがお芝居の醍醐味でもあるのでしょうか?

楽な状態ではいいものはできないんじゃないかという持論を持っているんですよ。「火事場の馬鹿力」ということわざがありますが、窮地に追い込まれたときの方が人間のえぐみが出る気がしていて。TXT vol.2「ID」という作品に出演したときも、とても難しい脚本で扱っているテーマもかなり重い物語の上、1人2役を演じたので、頭が痛くなるような思いで稽古をしていましたが、公演が始まったとき、見たこともない自分に出会えた気がしました。そうした経験も相まって、僕は追い詰められたり、苦しめられる作品の方がいいものが生まれる、新しい自分に出会えると感じています。


――崎山さんはかなり多彩な作品にご出演されていますが、それはやはり難しいことへの挑戦や新しいことに向き合いたいという思いもあってのことでしょうか?

作品や役は、一種の出会いだとは思いますが、自分に足りないものだったり、自分が演じたことがないような役に挑戦したりすることは大切だと思います。作品との出会いという意味では、そのタイミングでいただいたものが、きっと自分に求められているものだと思うし、それがきっと自分にとって必要なものなのだろうという思いでいます。なので、今回もこのタイミングで三人芝居に出演させていただけるというのも、きっと何か意味があるだろうと僕は感じています。


――なるほど。では、本作の脚本を読んだ率直な感想を聞かせてください。

まず、どうなるのかが全く想像できないなと感じました。公演する日によっても変わるだろうし、稽古と本番でも違うものになっているところもあるだろうと思います。謎が多いストーリーなので、その答えを見つけようとすると思いますし、僕が演じる長男の蒼空がどう変わっていくのかが楽しみでもあります。(蒼空は)長男で父親と過ごす時間が長いということもあって、蒼空が見ていた父親と、次男の陸久が見ていた父親、末っ子の宇海が見ていた父親はきっと違います。その時期や状況によってもそれは変わってくるし、取り巻く生活が目まぐるしく変わる家族なので、彼らの一生を表現するのは体力がいることだろうなと感じました。どの役もこの稽古期間で、何十年分を生きなければならない。ましてや蒼空に至っては、普通の生活や人生を送ってきていないので、そこをどう結びつけていくかが今の課題です。


――今現在は、蒼空にどんな印象を抱いていますか?

稽古を通してこれから変わってくるとは思いますが、今は謎が多い人物という印象が最初にありました。役によっては、その役が相棒のような存在になったり、自分を引っ張ってくれる存在だったり、手間がかかる存在だったりといろいろある中で、蒼空は“分かる”ことが怖い存在。“分かる”ことが正解なのかも分からない。もちろん蒼空を理解して演じていくわけですが、きっと(蒼空に)裏切られる瞬間も出てくると思います。なので、現時点ではミステリアスな人物という印象です。


――神話や落語をモチーフにした3つのエピソードで構成されている作品ですが、崎山さんとしては彼らのどの時代、どのエピソードが印象に残っていますか?

本当に壮絶な人生なので、どのエピソードも印象深いですが、蒼空が「怪物」を「怪物」だと認識した瞬間、もしくは自分の中の「怪物」を生んでしまった瞬間です。ある事件をきっかけにしているのですが、きっとその「怪物」が人生のターニングポイントになっているのだと思いますし、「怪物はここで生まれたのか」と感じていただけると思います。観ている方が「もしかしたら自分の中にも怪物が潜んでいるのかもしれない」と怖さを感じていただける作品になればいいなと思っています。


――崎山さんから見たこの三兄弟の父親はどう映っていますか?

もしかしたら蒼空として見てしまっているところもあるかもしれませんが、なんて哀しい怪物なんだろうと思います。もう少し違った親子像を作れたのではないかなと思いますし、幸せという言葉からは遠い人生だなと思います。


――共演の安西さんと田村さんの印象や共演に向けて楽しみにされていることは?

安西とは共演経験は少ないですが、出会いは古いんですよ。僕がミュージカル『テニスの王子様』でアンダーをしていたときに、彼は四天宝寺の生徒役を演じていて、僕のことをすごく気にかけてくれていました。安西もその前にアンダーをやっていたので、アンダーの辛さが分かるからこそ、たくさん話しかけてくれて。今回、久々に再会できるのも嬉しいですし、一緒にお芝居できるのは何よりも楽しみです。心とも同じ作品に出ていても一緒にお芝居をしたことはなかったので、どうなっていくんだろうと楽しみな気持ちが大きいですね。二人ともいろいろな役を生きていますし、いろいろな作品をやっているので、お芝居でぶつかり合えたらいいなと思っています。


――すでに、安西さんが演じる陸久、田村さんが演じる宇海は思い描けていますか?

安西が陸久の気性の荒さをどう表現するのかはあまり想像できないですね。もちろん、安西は演技力のある俳優なのでしっかりと陸久を作り上げるんでしょうが、気性の荒い役を演じている彼は見たことがないので。どう演じるのか楽しみが大きいです。宇海は物静かで末っ子気質だけれども独立もしているというキャラクターなので演じるのは難しいと思いますが、心は弟気質なところがあると思うので、自分のナチュラルな部分と役の部分をどう共存していくのか未知数で楽しみです。


――崎山さんは長男を演じますが、ご自身では“お兄ちゃん感”はあると感じていますか?

実生活では次男ですが、後輩といるときは多少あるのかなと思います。自分から何かを進んでするタイプではないですが、ご飯に誘ったり面倒を見たりはしていますね。ただ、根っからの長男気質ではないとは思うのでどうなるんだろうとは思っています。


――崎山さんにとっての家族や兄弟とはどんな存在ですか?

次男だとどこか他人事でいられるところがあると思います。もちろん、家族の時間も大切だと思っていますが、お兄ちゃんがいるから任せられるところもあると思うんです。そういう意味で、僕は家族の中では甘やかされて育ったなと思います。先日、人生で初めて家族旅行に行ったのですが、そのときに血のつながりを感じた瞬間があって。旅行中にふと見たら、僕とお兄ちゃんが全く同じ薬を処方されていて、飲んでいる薬が一緒だったんです(笑)。お兄ちゃんもびっくりしていて、「これが血のつながりだな」と思いました(笑)。体質という自分の選べないところで似ているんだと(笑)。子どもの頃に、例えば親戚に「顔がお父さんに似てきたね」とか「喋り方がお母さんそっくりだね」と言われることはあっても、自分自身が家族と繋がっていると感じることってあまりなかったので、すごく驚いたエピソードでしたね。


――ちなみに、お兄さんと顔は似ているんですか?

似てないです。僕は鼻から下がお父さんで、鼻から上はお母さん。お兄ちゃんはそれが逆なんですよ。でも、声とか喋り方は似てますね。


――タイトルにちなんで、崎山さんが「怪物」だと感じて恐れているものを教えてください。

舞台上の空気です。「甲子園には魔物が住んでいる」という言葉がありますが、劇場にも魔物はいると思っています。アクシデントはどうしても起こってしまうし、だからこそ緊張感を忘れないでいられるのですが、「怪物がいる」と自分も恐れながらやっていた方が慣れ過ぎないというのはありますね。劇場によって空気が違うというのもありますし。


――その空気に飲み込まれた瞬間というのはありましたか?

あります。基本的に舞台上で起きたことは舞台上で成立させようと思っているのですが、「なんだかうまくいかないな」というときがあるんですよ。 そうすると、僕はそのままそれを引きずってしまって…。セリフが抜けてしまうということはないので、舞台としてはそのまま進行していきますが、「ちょっと元気がなかった」とか「今日はいつもと違う」というときは魔物に飲まれているんだと思います。ただ、それはいいことだと思ってもいて。その瞬間、そのときに起きることに順応していくのも仕事かもしれないですが、逆にそれに抗おうとして失敗するよりは、そのまま流れに乗るのもありなんじゃないかなと。


――それはそのステージが終わるとリセットされるんですか?

そうですね。でも、初舞台の時は、自分の実力も経験値もなかったので、魔物に食われっぱなしで…。噛みまくっていたんですよ。1回噛むと焦ってしまってどんどん良くない方向に行ってしまって。作品的にも重い内容だったのに、そこで噛んだらダメだという場所に限って噛んでしまうんですよ(苦笑)。その初舞台は忘れられないですね。その失敗も含めて、今後の舞台の成功につなげていかないといけないとずっと思っています。

 

取材・文/嶋田真己
ヘアメイク:Inc. GLEAM
スタイリスト:MASAYA(PLY)