末原拓馬が率いる劇団おぼんろの第24回本公演『聖ダジュメリ曲芸団』が5月30日より池袋・Mixalive TOKYO Theater Mixaにて上演される。まさに稽古が進められている5月11日(土)にドルトン東京学園 講堂にて公開稽古が行われ、物語が積み上げられていく瞬間をメディアや多くのファンが目の当たりにした。
劇団おぼんろは、末原拓馬が全公演の脚本、演出を手掛けており、寓話的な高い物語性と路上での一人芝居で培われた個性的な表現で高い評価を得てきた。今回の物語の主人公は、忌み嫌われている害虫の”ダニ”。街では大規模な害虫駆除計画が行われ、大虐殺の惨状から九死に一生を得たダニのイイワケは、害虫のサーカスに身を寄せて生き抜くことを決める――。
公開稽古が行われたのは小劇場のような講堂。ステージが明るくなり、キャストが登場すると会場からは歓声と拍手が自然と巻き起こる。一通りのあいさつが終わると、末原が「時間も限られているので、早速始めますね」と話し、稽古が開始された。
最初に行われたのは、劇中曲の歌詞を書き写すところから。末原が口頭で歌詞をキャストに伝え、それぞれ台本にメモしていく。この曲は物語の冒頭で、皆殺しの夜が物語のはじまりであることを告げ、ささやかな命にとって「愛」とはどのようなものなのか、そんなささやかな命が「世界」にとってどのようなものなのかと、物語を象徴するような開幕曲。歌詞を写し終わると早速、末原によるオルガン伴奏でメロディが伝えられる。キャストによる合唱曲で、音程だけでなく、例えば「平気」の発音を「へいき」とするか「へーき」とするかなど、細かく確認をしながら進められる。
本作はミュージカルではないものの、劇中での歌唱が予定されている。その曲数は現時点で11曲を予定していると明かされると、客席からはどよめきと拍手が起こり、これまでにない試みに観客の期待の高まりが感じられた。また、キャストにとってもあまり経験のない公開稽古のため、やや振る舞いがぎこちなくなっているところや、わざと大げさにするようなところも。その度に、キャストが笑顔でイジり合いや冗談が繰り広げられ、和気あいあいとした空気が流れる。そんなやりとりからは、キャスト同士の仲の良さが十二分に伝わってきた。
冒頭の楽曲をひとまず仕上げたところで、冒頭のシーンから台本の順番通りに物語が進められた。さひがしジュンペイ扮するジュンシが一人で舞台に現れ、劇場での害虫駆除計画を声高らかに宣言。劇場のイスに潜み、感染症をまき散らす害虫を駆逐すると声を荒げる姿に、稽古でありながら会場は一気に物語の世界へと引き込まれる。
隠れている害虫を見つけるため、客に懐中電灯を向け、客席の間を練り歩くジュンシ。痺れを切らしたジュンシは驚くべき方法を用いてダニたちを捜索する。
続いての場面は、末原演じるダニのイイワケと、横井翔二郎演じるツキソイが害虫虐殺に気付き、2匹で逃げ出すシーン。イイワケはまだ世の中のこともあまり知らないピュアな若者。ツキソイはイイワケよりは少しばかり先輩で、危なっかしいイイワケに振り回されている。仲間の死を前に「死ぬ」ことがどういうことかをツキソイらから学び、イイワケは「生きる」ことについて考え始める。
末原は、純粋なイイワケを少年のような瑞々しさをもって表現。横井はそんなイイワケに振り回されながらも、仲間としてイイワケを大切に想っていることがわずかな場面からでも伝わってくる。横井はおぼんろの公演に初出演とのことだが、末原とは絶妙なコンビネーションが既に成立していた。
劇場に積みあがる仲間の屍を前に「生きる」を考え始めたイイワケの前に突如現れたのは、害虫のサーカスを営む人間2人。ハイアガリ(わかばやしめぐみ)とミチナカバ(佐藤たかみち)だ。2人はノミのイキザマ(高橋倫平)、チュードク(織部典成)に芸をさせて生計を立てているという。彼らは劇場にダニの生き残りがいたことに驚くも、イイワケらをサーカスにスカウト。生きるために、イイワケとツキソイはサーカス団員となった。
わかばやしは本公演の中の紅一点。圧政の中でしたたかに生きるハイアガリを溌剌と演じていた。そして佐藤は、ハイアガリを姉と慕いついていくミチナカバを、ちょっと気弱で夢見がちな弟感あふれるキャラクターに仕上げていた。ノミのイキザマとチュードクは、ノミとしては退廃的な生き方を選んでいるものの、それぞれが方向性は違えどパフォーマーとしてのプライドを持ち合わせている。高橋と織部がどのようなキャラクターを演じていくのか、本番を楽しみにしたい。
凄惨な害虫虐殺となった現場には、マダニのウチジニ(塩崎こうせい)も現れる。会場いっぱいに響く大きな声。声を荒げているわけでもなく、いたって冷静な物言いなのだが威圧感があり、ウチジニの登場で物語の空気が張り詰めるのを感じた。ウチジニを演じる塩崎の、芝居に入っていない時の温和な表情とのギャップに驚かされた。
サーカスにはもう一匹、カチグミ(井俣太良)という猫の仲間がいる。彼は芸をするわけでもなく、ただ飼われているだけでもない、人間のパートナーだと語る。そんなカチグミの仕事は、団員のノミらに食事として血を吸わせること。この仕事に誇りをもっているようで、ダニのイイワケらがその卑屈さから遠慮しようとすると、半ば強引に2人に血を吸わせる。井俣は愛情豊かなカチグミを、実に色気たっぷりに熱演していた。
それぞれの役どころの触りが見えてくる冒頭の稽古を終えたところで、あっという間に2時間が過ぎ、公開稽古が終了。時間を延長して、来場したファンからの質問を受け付けた。俳優ならではのお肌の手入れや、のどのケアの方法など、この場ならではの質問が飛び交い、普段のステージでは観られない素の表情で受け答えするキャストに来場者は魅了されていた。
最後に末原が「この作品が、後世に語り継がれるような物語となるくらいの気持ちで、稽古に臨んでいます。ぜひ多くの人に見に来ていただきたいです」と意気込みを語り、キャストは大きな拍手を受けながら舞台袖へと去っていった。
童話のような世界観でありながら、胸の芯に響くリアルさも感じられ、ある種の生々しさが大きな魅力となりそうな予感が今回の公開稽古からビシビシと感じられた。『聖ダジュメリ曲芸団』は、5月30日(木)から6月9日(日)まで、池袋・Mixalive TOKYO Theater Mixaにて上演される。
取材・文/宮崎新之
写真/オフィシャルより提供
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