東京夜光「世界の終りで目をつむる」 川名幸宏&松居大悟 インタビュー

12月、下北沢 小劇場楽園でまた新たな物語が上演される――。

多く作品で演出助手を務めてきた川名幸宏さんが新たな劇団での単独初公演を行うということで、2016年の舞台『イヌの日』(作:長塚圭史)、2017年撮影の映画『アイスと雨音』でも作品を共にした松居大悟さんとの対談を実施。
その想いとは・・・

 

――今回のお話を作るキッカケはあったんですか?

川名「自分を追い詰めようと思って、三畳の部屋に住んでいたことがあったんです。その時の経験から書いたんですけど。そもそもそれを「書く」ということ自体をしようと思ったのは松居さんたちがその話を面白がってくださったことでした」

 

――というのは?

川名「当時本当にふらふらしていて、たまに演出助手をやっていたりはしていたんですけど、どう歳をとるのか先の事が見えない感じで。でもこのままじゃ本当にやばい。このままずっと時が流れていってしまうという焦りみたいなものもあって、自分を追い詰めるために住み始めたんです」

 

――自分で厳しい環境を選んだんですね。

川名「そうですね。東京に実家があるので一人暮らしすることを迫られていたわけではないんですけど。でも実際に一人暮らしをしたら、三畳で17,000円くらいの所にしか住めないような経済状況でした(笑)」

松居「すき家を食べるのがご褒美なくらいね」

川名「そうそう(笑)しかも奥の部屋はゴミ屋敷だし、隣の部屋は借金取りがものすごく来るしみたいな環境だったんですけど、ある時から新聞が毎月届くようになって」

 

――勝手にですか?

川名「勝手に。何だろうって開けてみたら、宗教的なというか、そういう新聞だったんですよね。しかも中に“鈴木くんへ”って書いてある手紙があって。完全に前に住んでいた人宛てだったんですけど。本当に今回の話のキッカケみたいな出来事だったんです。で、めちゃくちゃ綺麗な人が突然部屋の前に現れて」

 

――本当に今回のお話のようですね。その人は新聞の勧誘の方だったんですか?

川名「勧誘というより多分前の住人が会員でそれを訪ねて来た人で。なんかその時に変な感情というか。・・この恐ろしいほどに鬱屈とした三畳という部屋の前に、すごく綺麗で清楚な感じの人が立っていて、でもこの人は明らかに自分が信じている事とは違うことを信じているっていう違和感というか・・・。ある意味での“恋”だなと思ったんです。純粋に誰かを綺麗だと思うのって。その後の勧誘自体は断りました。でも僕がこの人のことを、すごく好きになった場合どうなるんだとか妄想するんですよね。その時の一瞬の出来事をわりとしゃべったんですよ、松居さんたちに。そしたら「なんでその話を書かないんだ」って言われたんです」

 

――すごいですね、書くことのキッカケにも松居さんはなっているんですね。

川名「『君6』(今年10月のゴジゲン本公演「君が君で君で君を君を君を」)を観て、愛の話だったんですけど。この作品も愛の話になると思うんです。愛の話になる時に、人を信じるってすごく不確かなことだなって「君6」を観て思ったし。信じる難しさみたいなものがすごくあって。それを松居さんが色んなアプローチで愛するだったり、信じるだったりってことを捉えていくというか、色んな所からパンチがとんでくるような印象を受けて。統計とかデータという確実なものがあれば“信じる”ってことは、しやすいですけど。こと人に対しては、物理的にも科学的にもなんの理由もないのに信じるってすっごく・・・」

松居「うんうん」

川名「松居さんが言う『言葉にならない感情』というのにも似ていると思っていて。言葉にならない感情がそこにもあると思うんですよ。『信じる』『信じない』とか。じゃあ何を理由に『信じる』のか、その理由は本当に腑に落ちるのか」

松居「『信じよう』と思っている時点で信じてないんじゃないか、とか。今回の公演タイトルがまさに信じる、信じないを象徴しているよね。世界なんて終わらないのに『世界の終わりで目をつむる』って」

川名「言葉にするのがすごく簡単な世の中だと思うんですよね。例えば“アガる”とか“エモい”とか色々な造語があって、簡単に言葉にしやすい時代になってきている。言葉は自分の心を整理するためなのかなって、僕は思ってるんです。不確かなことが起きた時に、言葉にすれば自分に対して腑に落とせる。納得させる行動だと思うんですよね。それがすごく簡単に行われていると思うんです、最近」

松居「自分のまわりでそういう事が多く見えている?」

川名「そうですね。言葉にならない感情って、実は簡単に言葉にできる。やろうと思えばなるけど、言葉にならない感情って、言葉にするのがもったいない感情なのかなって僕は思って」

 

――本当は言葉にしたくないってことですかね。

川名「したくない感情なのかな。だからお客さんに言葉にしてほしくないんだと思うんですよね、ある意味で」

松居「それは川名くんの考える『言葉にならない感情』だと思う。俺が言ってるのはまた別で、『まだこの世に存在していない感情』という意味だから」

川名「そっか…。そんなことをぐるぐる考えながら作ってます。だからなんの結論もでなくて」

――ちなみに劇団の立ち上げのキッカケにもなった下北ウェーブ2018での反応や感想が、今回のモチベーションに繋がっているところもありますか。批評もあったんですよね?

川名「批評というのが下北ウェーブのひとつのテーマになっていたので批評を直接、公開で受けました。
3団体出ていたんですけど、他とトーンが違うんですね、最初から」

松居「ひとこと目から?」

川名「ひとこと目から。『舞台のオープニングの第一声目から、これダメだって思った』と言われて」

松居「うわぁ」

川名「じゃあもうダメだと思って(笑)第一声からダメだと思ったんならもうダメじゃん、そのあと一生懸命なにやったってダメじゃんって(笑)」

松居「ひとこと目にダメだって思われたならダメだよね。もうなんにもできない(笑)」

川名「もういくらやったってダメだなぁって。でもその時いろんな方に詰め込み過ぎたと批評をいただいて。肩に力が入っていたかなと。僕も初めて動き出したので、気合いが入って全部自分のできることを出そうと。当時は全部やりきれることをやるっていうのが正義だと思ってたんです。そう考えるとあの時しか出来ないことではあったんですけど。自分の言葉に流されすぎたというか、自分のやりたいことを追及し過ぎて自分本位ではあったかなと。でもそれは旗揚げ(公演)だから、それをすごく喜んでくださった方もたくさんいたんですけど」

松居「川名くんらしかったと思うし、旗揚げって基本全部詰まってるって言うから」

川名「それこそ(休止している前の劇団の)ヤコウバスを観ていてくださった方々とか、演出助手として関わった方々で観に来てくださった人たちに、すごく喜んでもらえたというか。その舞台の存在と、僕が作ってるっていうこと全部ひっくるめてすごく喜んでいただけたので、批評としては厳しい言葉ももらいましたが、すごく意味のある公演でした」

松居「むしろ褒められなくてよかったって思うけどね。悔しいじゃん。そしたらまたやろうと思うし。あの場で褒められたり賞を取ったりしたら、満足しちゃってやらなくなることもあるから。最初に思いきり厳しい言葉を投げかけられるのは、俺もそういうのあるけど、エネルギーになると思う」

川名「そうですね。肩の荷は下りました。批評されてよかったかな」

 

――下北ウェーブ2018での「裸足の思い出」という舞台で「詰め込みすぎた」というのを経て、活かしていきたいことや今回チャレンジしてみたいことはありますか?

川名「前回は身近なお客さんに届けられたらなと思っていて。自分の一番大事な人たちに観てもらって泣いてもらおうとか、笑ってもらおうとか、恩返しをしようっていうところが自分の中ではあって。そういう気持ちが大事だというのはもちろんあるんですけど、今度は自分の知らない人たちに届けていかないといけないなと思っています。この作品が、自分とは違う生い立ちや身近ではない人たちに観ていただいた時に、どんな届き方をするのか。今はそれが気になっています。間口というか、作品の間口を広げたいです」

松居「この「世界の終わりで目をつむる」は、東京夜光という名前が付く前から書いていて。それから2年と少し経ってから上演するわけじゃない。その間に東京夜光を立ち上げたり、環境が変わったこともあったと思うけど書き直したりとかは?」

川名「松居さんに一番最初に見せた時のものは、当時ついていた「イヌの日」もそうですし、実際に観てはいないですが、資料でもらったゴジゲンの「極めてやわらかい道」の、小劇場の鬱屈とした焦燥感のようなものが自分の中に流れてきて。それが住んでる場所にもすごく重なって、一気に書き始めたというか。黒いものが自分の中から出てくるように書いたというか。怨念とか、闇や業みたいなものが戯曲の中に詰まってたんですよね。だからお見せした第一稿は3時間くらいの作品になっていて。ただ今は引っ越しもしたり、その時の自分を「こう思ってたんだな」と思うようになって」

松居「俯瞰して見れるようになってきたんだ」

川名「俯瞰するたびに書き直して。ただ俯瞰しすぎるとすごく空っぽになっていくんですよね」

松居「中で描かれていることが?」

川名「中で描かれていることが。でもその業の良さというか、闇の良さってやっぱり僕も好きだから書きたいんですけど、それが俯瞰すると露骨に薄まっていって。あの時のことをまた思い出して、また書く。それを今の闇というか、今の鬱屈としているその段階での思っていることを足して、それやりすぎるとまた引いてっていうのを繰り返して」

松居「すごく客観的にやっているんだ。ポップにも暗くもなりすぎないように一番伝わりやすい状態にして」

川名「そうですね。だからこの作品においてはいろんな実験が繰り返されています、自分の中だけで。例えばこの作品を100年前の人が観たらどうだろうとか」

松居「へぇ~!」

川名「だって僕らシェイクスピアの作品を観るわけじゃないですか。でもたぶんシェイクスピアは僕らのことを想像してなかったと思んですよね。なんかそれと同じように100年前の人が観たらどう思うだろうとか、100年後の人が観たらどう思うだろうとか考えたり」

松居「ロマンチックだな」

川名「なんか、そういうあらゆる「目」を尽くしてこの作品を観続けているという感じですかね」

松居「普遍的なものにしたいんだ。俺はできるだけ今の時代に必要なもの、と思って書くから。今の人たちのコミュニケーションにおいて描かれていないことを描きたいとか。川名くんは人間の普遍的なその“ 信じる ”“ 信じない”っていうのを描きたいんだね」

川名「2018年に生きている時点で、今の時代というかニュアンスは漏れ出ちゃうから漏れ出るくらいにしとこうかなという思いはあるのかもしれないです。まず普遍性を求めて、時代の息みたいなものは自然と漏れ出るくらいで、自分の中ではちょうどいいのかなって」

――今回の舞台の見どころをや、伝えたいことなどはどんなところですか。

川名「お客さんが終わったあとに、分かりづらい舞台にはならないと思うんですよね。話は単純だし。僕もですけど、人を信じるのをすごく怖がってる中で、少しでもいいのでちょっとしたことでも人を信じることの助けになればいいな、と思います」

 

――人を信じることが今回テーマにあるんですね。

川名「そうですね・・・。信じることで少しだけ先に明るい気持ちが待っているような。いや、明るくなくてもなにか生きる糧やきっかけに少しでもなれば。半月くらい前に役者さんに台本をお渡ししたんですけど、その日の気分や体調によって、すごく笑える日もあれば、一切笑えなくてつらくなる日もある。読む日によって全然見え方が違う作品になっているって言っていて」

松居「すごくいいじゃん!もしかしたら男女でも感じることがだいぶ違うかもしれないね」

川名「ありがとうございます!そういう意味で、どうやってこれを演出するかによっても違ってくると思うので。見え方で全然違うっていう良さをきちんと舞台に出せたらな、と思ってます」

松居「観た人の数だけその作品があったら素晴らしいよ」

川名「なので稽古前からワクワクしています。どういう稽古になるのか自分でもまだわからないし。それこそ神谷(大輔)さんはめっちゃ・・最初笑ったって言っていて」

松居「神谷がこの間ゴジゲンで手伝ってくれた時に(台本を読んで)「好きな表現がある。俺が出ているところじゃないけど、すっごい好きな会話があって、それだけでもこの作品に出られることが幸せだ」って言っていて。それは素敵なことだなと思った」

川名「よかった・・・」

 

――松居さんから見た川名さんの作品の魅力はどんな所ですか?

松居「優しさが溢れているんですよね。でもその中で気を遣い過ぎているところもあって。どこかで伝えたいことが爆発する瞬間が、この戯曲を書いた時にも溢れているんですけど。優しすぎる所と、でも表現したいんだって葛藤がぶつかるところがあって。ただ優しいだけの人じゃないし、ただ表現したいだけの裸の王様でもない。そのふたつがぶつかる瞬間が東京夜光だったらいいなと思います。僕は優しい川名くんしか知らないから、表現したい川名くんがぶつかり合って胸が震えたいなあと思ってます」

 

――川名さんから見た松居さんの作品の魅力はどう感じますか?

川名「松居さんの作品の魅力・・・」

松居「面白いところだよな?」

川名「おもしろいところです(笑)松居さんの作品って、それは助手として僕が隣にいて思うことでもあるんですけど。松居さんの体自体が裸で作品に入っていっているというか。さっきの時代を切り取るじゃないですけど、作品自体が松居さんと一緒に呼吸しているような、なんの雑味もなく生で伝わってくる良さがあって。なので作品に向かっている姿っていうのももちろん面白いし、それが作品になっていっているのが、とってもおもしろいなって観ていて思います」

松居「(以降10分続く)って書いてください」

 

――最後に公演へお誘いの言葉をお願いします!

松居「ひとこと目で心が折れないでほしい(笑)」

川名「あははは(笑)それこそ、三畳の部屋に住んでいる人はごくわずかかもしれないですけど、でも同じように狭い中で思い悩んでいる人はたくさんいると思うんです。助けるっていうとおこがましいですけど。希望という言葉すら思い浮かばないような状況の中で、希望とか光という言葉が少しよぎるくらいの作用になれたらなと思います」

松居「公演がある12月下旬は世の中が煌びやかになるので、さみしい人を抱きしめる劇にしてください(笑)」

川名「愛の物語なので、ひとりでも生きてる!って少し暖かい気持ちを持って帰ってもらえるように頑張ります!」

 

インタビュー・文/清水美樹