カンパニーデラシネラ 松本清張 点と線│小野寺修二 インタビュー

フランス生まれのアーティスト、ニコラ・ビュフが松本清張の大ファンだということから企画がスタートし、2009年にカンパニーデラシネラで上演した『点と線』。15年の時を経て、小野寺修二とニコラ・ビュフが再タッグを組み、改訂再演を行う。公演を約3週間後に控えたタイミングで、小野寺修二にインタビューを行った。

骨太な物語を丁寧に伝えていきたい

――まずは改訂再演に対する意気込みからお伺いしたいです

初演と今は興味が随分変わってきているので、元々やっていた・面白いと思っていたことと、15年経った自分の変化を自分でも楽しみにしています。普段はあまり言葉を使わない表現をしていますが、この作品はセリフが多いので、演劇で活躍している方々にご協力いただき、いつも以上に言葉と身体の融合を進めていきたいと思っています。

――作品紹介に「デラシネラ版SF」という言葉がありました。また、特に若い方には、初演の時以上に物語の背景が伝わりにくくなっていると思います

そうなんです。ただ、丁寧に話を進めることで理解していただけると思っています。社会が高度経済成長に向けていろいろなものを獲得していく時期のお話で、良い・悪いではなく、そういった時間に生まれる混沌や熱という豊かさをうまく出せたら。そういう意味では、現代でもなく日本であるかすら疑って作っていこうかと思い、「SF」と謳っています。

――改めて、『点と線』という物語の魅力はどう感じられましたか?

お話自体はシンプルでわかりやすく、ベストセラーとして人を惹きつけてきたのがわかります。汚職事件や社会問題を挟みながら、人がどう生きていくのかを描いていて、光の当たらない人たちに対する愛情も感じます。松本清張さんの独特な文体が助けてくれている気もするので、できるだけ原文に近いセリフでやりたいと思っています。

――この舞台は、美術のニコラ・ビュフさんが『点と線』をお好きだというところから始まったということですが…

彼は僕がフランスに留学していた時に出会った友人。今は世界的にも有名になってきているので当時と同じように軽く声をかけていることに恐縮していますが、変わらず引き受けてくれました。ニコラは日本の良さを教えてくれる存在で、僕よりも愛情を持っているくらい。改めてこの作品をやれるのはニコラのおかげでもありますし、当時と同じく、もう一度自分の足元や自分がいることに意識を向けて、丁寧にやろうと思っています。

キャスト同士の化学反応も魅力

――今回、地域の方々も公募で参加されていますね

人に会えること自体すごく楽しいです。大人数でしかできない形を模索しています。前向きな方達が集まってくださって、どんな効果をもたらすかまだわかりませんが、人の熱というものは実際あって、とても贅沢な時間だと感じています。

――演出家・出演者両方の視点から、見どころを教えてください

演出家としては、演劇的な要素の強い方々が入ってくることで言葉の重みが圧倒的に充実してきた気がします。視覚的な表現に言葉が絡まることで+αが見えてきて、舞台表現の新しい形にタッチしていると思うので、是非期待していただきたいです。同時に、総勢38名のキャストになるので、人が集まって「空気」を動かす部分も視覚的に表現できると思います。自分でも楽しみですね。演者としては、いっぱいいっぱい(笑)。頑張って本番までに整えようと思います。

――いつも以上に演劇的な方が集まったとのことですが、皆さんの印象はいかがでしょう?

皆さん素晴らしいです。成河さんと武谷(公雄)さんは、デラシネラにとって新しい才能の出会い。普段喋るお芝居をメインにしていて身体表現にも興味のある方々との作業は、「演劇とは」、「どうしたら面白くなるか」と考える上ですごく助けになっています。加えて、デラシネラの手法をよくわかってくれている人たちが集まってくれている。その2組の出会いによって、大きな化学反応が起きています。いつも素敵な座組ですが、今回は特にチャレンジングであり、新しいことを見つけるのにすごく良いですね。

――キャストが増えたことで、舞台セットや美術も変わってくるのでしょうか?

美術の見立て方については、それほど変わってないんです。ただ、ニコラ自身は「前回の反省を活かしたい」と言っていましたから、新しい世界観が描かれるのかなと思います。また、劇場がずいぶん大きくなったので、舞台機構の力を使おうと考えています。

――今回ならではの発見、パワーアップした部分はありますか?

前回は身体表現がベースで、抽象的にイメージを広げていくことを重視していました。今回はそれをもう少し具体的な仕草や間に変換しています。成河さん演じる主人公、三原刑事の頭の中という切り口をベースに、複雑な謎解きを解いていくさまを、身体で視覚化しています。初演とは全然違う角度の表現になっていたり、動きや振りの意味を深めていったり。小さい発見の繰り返しですね。

原作の良さと演劇の魅力を掛け合わせた作品に

――舞台をあまり見たことがない松本清張ファンに向けたアピールポイントを教えてください

ファンの方にはできるだけ清張さんの言葉を届けたいなと思っています。硬質でオリジナリティのある書き言葉をうまく舞台に乗せることで何か新しいものが生まれるんじゃないかと思います。それにプラスして人が動きますし、松本清張さんの大ファンであるニコラが描く美術も見ていただけると嬉しいです。舞台ってとっつきづらいと思いますが、一歩踏み込んでもらうと、新しい見方ができたり新しい考え方に出会えたりする。僕らの演目は物語を説明するだけの世界ではないので、自分なりに解釈し、空気を感じてもらえるとすごく嬉しいです。

――小野寺さんが考える生の舞台の魅力・面白さはなんでしょう?

目の前で実際に人が動き、セリフを言うのを見るのは、もしかすると脳にいいかもしれないと思います(笑)。
これは舞台全般ではなく僕らの場合ですが、“見立てる世界”なんです。映画や文章のリアリティというよりは、人の想像力を借りて形にしていく仕事。普段は受け取るだけになりがちですが、自分で「こういうことかな?」と考える機会になる気がします。
思わぬものに出会えたり、めちゃくちゃムカついたり、すごく楽しんだり。「つまらない」を含めていろいろな見方・考え方があるのを体感していただき、「自分の好き嫌い、自分はどんなことをやりたいか」を考えるきっかけになれば。特に演劇っていろいろな形があるので、「これをこんなふうに表現するのか」という楽しみもある。頭の体操というか、リフレッシュの場にもなっている気がします。ただ、チケットが高くなってしまっているので、もう少し安くできるように努力していきたいですね。

――楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします

いつも以上に身体の表現と言葉が絡み合った、不条理な世界が立ち上がっていると思います。そこにプラスして松本清張さんの独特な世界、重厚で硬質な世界を自分たちの身体で立ち上げられたら。ニコラ・ビュフさんの美術もすごくいいですし、清張さんの言葉、国広和毅さんのオリジナル音楽、自分たちの身体など、見ていただけるものが多い気がしますから、「原作通り」と思わず、目の前で起きていることをいろいろと想像しながら見ていただけるとより楽しめるはず。そしてこれだけ盛りだくさんでありながら、成河さん演じる主人公、三原刑事の一人芝居とも言える構造となっており、そこはステージングの妙、見どころです。劇場でお待ちしています!

インタビュー・文/吉田沙奈
撮影/鈴木穣蔵