アナタを幸せにする世界の伝説シリーズ・ファイナル 音楽劇『ヴィーデン劇場の魔笛~モーツァルト伝説~』滝澤諒・森田桐矢 インタビュー

これまで、アーサー王やドラキュラ伯爵、狼男や北欧神話などを描いてきた「アナタを幸せにする世界の伝説シリーズ」。2024年9月17日(火)からのファイナル公演は、天才音楽家・モーツァルトが遺した謎に若き音楽家達が挑む『ヴィーデン劇場の魔笛~モーツァルト伝説~』だ。フレデリック・ショパンを演じる滝澤諒とフランツ・リスト役の森田桐矢にインタビューを行った。

シリーズの魅力は引き継ぎつつ、今回ならではの作品に

――演じる音楽家の印象、ご自身がショパンやリストを演じると決まった時の思いを教えてください

森田 リストについてまず調べて、「これは、ギアを上げないと演じることを許されないな」と感じました。他の役を演じる時もギアはもちろん上げていますが、当時のヨーロッパ中を魅了した人物を表現するためのエネルギーが必要だなと。

滝澤 稽古前のインタビューなのであえて正直に言いますが、お話をいただいた時は名前しか知りませんでした。ただ、作曲中スランプに陥るというのが一つのファクターになると聞いて。音楽家であり、スランプで身動きが取れない状況は心境的にとても複雑なはず。その中で繊細なクラシックを作り上げた人物ですから、相当いろいろなことを考えたんだろうと感じました。史実や実際の人物像を調べると同時に、人としてのマインド、複雑な状況に自分を追い込むにはどう悩んだらいいか突き詰めて考えたいと思いました。ショパンである前に、一人の才能ある人間がスランプに陥るという状況にどうやって自分の気持ちを持っていけるか。頑張って作りたいと思いました。

――今回はシリーズファイナルと銘打たれています。そこに対する意気込みはいかがですか?

滝澤 僕は今回初参加なんですよ。

森田 私もです。

滝澤 初めてでファイナルですからね(笑)。大事なところを任されているプレッシャーはあります。

森田 焦るよね(笑)。いきなり参加でトリみたいな。

滝澤 でも、今までのシリーズと作風が違うとも聞いています。もちろんシリーズファンのお客様もいらっしゃいますから、アナ伝シリーズの軸みたいなものは意識しつつ、囚われすぎずに、この作品ならではの魅力を作っていけたらと思っています。

森田 過去4回のアナ伝シリーズで受け継がれてきたものはあると思います。でも、今回の脚本を読んだり、これまで出演してきた方のお話を聞いたりした限りでは、ちょっとベクトルが違うのかなと思いますね。前作までの思いを継ぎつつ、単純にこの作品をいいものにしたいです。

お芝居とライブショーの両方を思い切り楽しみたい

――台本を読んだ感想を教えてください

滝澤 『アナタを幸せにする世界の伝説シリーズ』という言葉の印象から、史実を細かく表現していく難しい舞台なのかと思っていました。でも、読んでみたらキャッチーな会話劇で、そのギャップに掴まれました。登場人物は多いけど、クラシックの楽曲に合わせてキャラクター紹介をしたり心情を表現したりもする。全員個性豊かなので、帰る頃には偉大な音楽家全員を覚えていただけると思います。
僕が演じるショパンでいうと、最初がどん底。スランプ状態の中で尊敬してやまない方に関する謎を調べ、改めて音楽に立ち向かう姿が丁寧に描かれています。変な話、1時間でスランプを抜け出すには相当な心情の変化が必要だと思います。

森田 (笑)。

滝澤 変化のきっかけを、ステージにいるいろいろなキャラクターからもらっていこうと思っています。

森田 リストは、ショパンと逆にいろいろな人を繋いだり、みんなの矢印の中継役になったりする面が強いと思いました。その場で起きることがより魅力的に伝わり、よりお客さんが没入できるように。ショパンという軸がある中で、みんなの支えになれるように頑張ろうと思いました。作品としては、『アナ伝』って史実であって史実ではない。見ているお客さんと一緒に謎を楽しめるようにしたいです。

――二部のライブについても少しお伺いしたいです

滝澤 二部は本筋と違ったものになると思いますが、偉人の逸話や歴史的なお話をわかりやすくお届けするという意味では一貫している印象があります。史実と全く同じかは別として、お芝居とショー、それぞれ楽しんでもらえると思います。それに、ここまで振り切ったわけかたは新鮮な印象もあって。まだ詳しいことは全然わかりませんが、楽しくやりたいですね。

森田 私の中ではまだ分離している(笑)。今のところ一部と二部で別作品を楽しむくらいの気分でそれぞれ頑張るという気持ちです。本編とご褒美みたいなニュアンスで捉えています。

――音楽家たちの物語ですが、「音楽」にまつわる思い出、音楽の力を感じた出来事はありますか?

滝澤 桐矢くん、好きな音楽は何?

森田 なんでも聞くけど、歌のない曲だけのサントラが好き。ドラマとか映画、アニメのもいろいろ聞きます。作品で役を演じる時、そのキャラにあった曲を1つ見つけることをよくします。それを稽古の時とかに聞き込んでいると、本番で「今日はアップしても心が起きない」って時にそれを聞いて無理やりあげることができる。そういう意味では仕事にも密に関わっていますね。

滝澤 面白い。自動で切り替わるスイッチみたいになってるんだ。

森田 歌をやってる人としては?

滝澤 僕自身もアーティスト活動をしていますし、学生時代や10代前半にハマっていた曲って定期的に聴きたくなる。バックストリート・ボーイズとかマイケル・ジャクソンとかMr.Childrenがすごく好きで、不意に聞いて「やっぱこれだよね」となって、また数年後に「なんか聴きたいかも」って。

森田 (サブスクなどで)聞きやすくなったもんね。

滝澤 当時好きだった曲を聴くことで童心に帰れるというか。いろいろなお仕事をして、自分の変化も感じるけど、学生時代の友人に会うと昔の自分に戻れていると感じる。音楽でも同じことがあって、その瞬間に救われますし、音楽ってすごいと思いました。ただ、どうしてもジェネレーションギャップが生まれるんですよね。そのギャップから無意識で「そんなのよりこっちでしょ」とか言われて少し嫌な気持ちになったこともあるので、そういう風にならないように気を付けようと思ってます(笑)。

森田 確かに。知らないことを勉強不足と言われちゃうのは嫌だったな。

滝澤 いろいろな音楽を昔より聴くようになったからこそ気をつけようって。関係ない話になっちゃいましたけど(笑)。

難しいことは抜きで楽しめる作品になるはず

――ちなみに、お二人が考える生の舞台の魅力、面白さとは

滝澤 壮大だよね。

森田 考えると大ごとになっていくんだよね。

滝澤 この質問には大切に答えたいな。例えば演者の呼吸とか、画面越しではない迫力とかも一つある。でも、もっと単純に考えるべきだと思います。映画館で映画を観るのに近いですよね。今はスマートフォンなんかでも手軽に観られるけど、映画館だとその作品にだけ没頭し、集中すると思うんです。舞台も同じで、時間を作って劇場に行って観るという制限があることで、そこから何かを得ようという気持ちがより膨らむ。そこが生で舞台を見る魅力の一つだと思います。

森田 いろいろな舞台を見て、出演するようになって、感覚的に変わったことはたくさんありますが、私が初めて見たのは『テニスの王子様 2nd』の比嘉戦。当時15歳くらいでしたが、それまでは「テレビなどを通して見るもの」だったお芝居が、なんのフィルターもなく自分の目で見られることに面白さを感じました。映画やドラマと違って、見たいところを自分で選べる。テニミュでいうと中央で試合をしている人じゃなく、ベンチにいる気になるキャラクターを追うこともできる。私が考える舞台の根本的な面白さは、その場で行われているものを自分で見て聞いて直接摂取できることですね。

――そろそろお時間なので……

滝澤 えー。

森田 (笑)。

滝澤 こういうのも書かれるのかな。

森田 じゃあ私も一緒に入れておいてください(笑)。

滝澤 せーの。

二人 え~!

――(笑)。最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします

森田 ファイナルではありますが、世界観としては独立した1本の作品となっています。どなたにも楽しんでいただけますし、有名な作曲家ということを取っ払っても純粋に楽しめる内容になると思います。気軽にきていただけたら嬉しいです。

滝澤 僕も音楽に携わる一人として、芸術家は捻くれ者の集まりだと思っています(笑)。自分の美学や譲れないものを持っている中でも最たる人たちの集まりなので、混沌と化すことは間違いない。やっていることはシンプルかもしれないけど、それを音楽家の集まりがするだけでこんなに話が膨らむんだっていうのを楽しんでほしいなと。それぞれがモーツァルトをどう思っているのかというのもあるし、音楽家特有の空気が劇場に流れたら面白くなると思う。その空気感を楽しんでいただくことが先ほどお話しした生の舞台の魅力にもつながると思うので、ぜひ舞台上で音楽家たちの混沌を楽しんでください。

インタビュー・文/撮影:吉田 沙奈