宮崎秋人、溝口琢矢、伊達暁、大石継太の四人芝居│『彼方からのうた -SONG FROM FAR AWAY-』稽古場レポート

2024.07.30

『彼方からのうた -SONG FROM FAR AWAY-』が、8月2日(金)から8月13日(火)まで東京・吉祥寺シアターで上演される。

本作は、日本では『桜の園』(’23年/ショーン・ホームズ演出)、『Birdland』(’21年/松居大悟演出)、『FORTUNE』(’20年/ショーン・ホームズ演出)などで知られる劇作家サイモン・スティーヴンスと、ソングライターのマーク・アイツェルが脚本を手がけ、イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出で、2015年に初演された作品。

急死した弟の葬儀に出席するため、アメリカ・ニューヨークから故郷のオランダ・アムステルダムに帰ってきた34歳のウィレムがしたためた弟への手紙を描く作品で、イギリスでは一人芝居として上演されたが、日本初演となる今回は、宮崎秋人、溝口琢矢、伊達暁、大石継太の四人芝居として上演される。演出は桐山知也、翻訳は高田曜子。

稽古序盤、立ち稽古が始まったばかりという稽古場を取材した。

稽古開始時間になると演出家の桐山が前に立ち、「気分はどうですか?今日は日本の都市で」とキャスト、スタッフに話しかける。それに対し、例えば宮崎は「北海道。とても穏やかな気持ちです」、大石は「香川。うどん的な」、伊達は「千葉の勝浦。移住したい。行ったことないけど」、溝口は「浅草。これまでで一番おいしいウナギを食べた場所なので」と、スタッフも含めそれぞれが自由に答える。その一つひとつにワイワイとした会話と笑いが生まれ、空気がほどけ、そのまま稽古が始まった。

一人芝居だったはずの作品を四人芝居でやるということでどんなつくり方をするのだろうと見ていると、舞台上では、宮崎がウィレムとして手紙を読んでいるかと思うと、溝口が読み、伊達が読み、大石が読む。4人のトーンは揃えられており、どうやら全員がウィレムらしいとわかってきた。まだ稽古は序盤で手探りの段階ということであったが、役者の肉体がそのまま役に生かされ、宮崎は手紙を書いている34歳のウィレム、溝口はそれより若いウィレム、伊達は40~50代のウィレム、大石は50~60代のウィレム、といったイメージでそこに存在している。

読んでいるのは、弟を亡くしたばかりのウィレムが、その弟に向けて書いた日記調の手紙だ。それを34歳のウィレムは今の自分として、年齢を重ねたウィレムは数年後や数十年後のウィレムとして、若いウィレムはちょっと不思議な存在だが若いウィレムとして、それぞれに読んでいる、というような光景が見えてくる。では4人が一人ずつ登場するのかといえばそうではなく、違う時間軸で同じ場に存在していて、いたりいなかったり、溝口はふと弟を演じたりもする。

それを少しずつ地道につくっている。桐山はシーンを止めるごとに俳優の側まで行ってリクエストを伝え、俳優も4人それぞれ桐山とよく話して確認をする。

この時は伊達が「今のところは目線はぼんやりとかじゃないほうがいいですか?」と尋ね、桐山が「ぼんやりしないほうがいいです。手紙を読んでるみたいな風情だけにならないようにしたい」と伝えていた。そして同じシーンを繰り返すと、伊達のウィレムの視線の動きにハッとさせられる瞬間があった。

動きに関して桐山は「なるべく思わせぶりじゃない喋り方がいい」や、「(その状況をつくりだすのではなく)結果こうなっている感じがいい」、「そうすると意味が出てくるからやらないほうがいい」、「動きすぎないほうがいい」というようなことをよく伝えていた。丁寧にそぎ落とすことで、動きが見えるものがありそうだ。

あるシーンでは、桐山が「父親と母親とは何年ぶりに会ったんでしたっけ?」と尋ね、そこから4人+桐山でいくつかの描写から推測し、「じゃあ14年会ってないということでやってみますか」と認識を共有していた。そのほかのシーンでも、コップを右手で持つか左手で持つか、それを決めるか決めないか、そんな話し合いをしていた。4人で同じ人物を演じるため、ウィレムの一つひとつの記憶や癖を共有する必要があるのだ。その会話中、最年長の大石が話すとふと場が和んでいたのも印象的。

いろいろな部分が試行錯誤の真っただ中という感じではあったが、この時点でハッキリとおもしろく感じたのは、ウィレムを違う世代の4人で演じることで、手紙を書いている34歳のウィレムとほぼ同年齢の宮崎の存在がやたらとリアルに見えたことだった。これが例えば一人芝居であれば、これほど意識しないように思う。違う世代の3人が存在することで、手紙に書かれたエピソードの一つひとつが「こういう肉体を持った人間がこういうことを行い、こういうことを思っている」という生々しさで迫るような感覚があった。そしてそこがひとつの軸となって、この未来、この過去、というものにリアルな手触りが生まれる。そこがとてもおもしろかった。

また、稽古場には翻訳を手がけた高田がいるため、桐山とキャストたちがちょくちょく翻訳について確認をしていた。高田はその都度原文を確認しながら柔軟に対応しており、これはきっとこれまでサイモン・スティーヴンスと高田が重ねてきた信頼関係があってのことだろうが、海外戯曲ではとても珍しい現場なのではないかと思う。

この日の稽古の最後には、ロンドンにいるサイモン・スティーヴンとオンラインで顔を合わせて話す時間もあった。ちょっとしたお喋りをしたり、この作品は歌もあるためそのことについて話し合ったり、それぞれが聞きたいことを尋ねたり。一人一人が好奇心を持ってその場にいる。そんな現場でこれからどんなふうに本作がつくられていき、どんな世界が生まれるのか、楽しみにして開幕を待ちたいと思う。

取材・文/中川實穂

※高田曜子(翻訳)の「高」の字は、(ハシゴダカ)が正式表記