ニール・サイモンの傑作コメディ『裸足で散歩』戸田恵子×高田夏帆インタビュー

元吉庸泰演出で2022年に上演された『裸足で散歩』が、2024年9月下旬~11月に再演される。

出演者は、新米弁護士のポールに加藤和樹、自由奔放な妻・コリーに高田夏帆、2人と同じアパートに住む一風変わった住人ヴィクター・ヴェラスコに松尾貴史、コリーの母バンクス夫人に戸田恵子と、前作から引き続き出演する4名に、劇団ラッパ屋の福本伸一が電話会社の男役で新たに参加する。

2年ぶりの再演に向けた今の気持ちを、戸田恵子と高田夏帆に聞いた。

──高田さんは前回公演が初舞台でしたが、振り返ってみていかがですか

高田 挑戦の連続で、本当に大変でした。いくつもの壁にぶち当たって、途中で「もう走り切れない」と思って、泣きながら戦っていました(苦笑)。

──それを乗り越えたことでどのような手応えを感じましたか

高田 千穐楽まで走り切ったときは、「私、何でもできる!」と思うぐらいの達成感はありました。

──そんな作品の再演が決まったときのお気持ちを教えてください

高田 前回公演のコリーを評価してもらえたんだな、と思いましたし、そもそも作品が面白くなかったら再演にはならないので、そこはすごく嬉しかったです。それと同時に、絶対に成長や進化を見せないといけないな、とプレッシャーを感じています。

──前回公演時感染症対策でマスクを付けながらの稽古などいろいろ制限された部分もあったかと思います。そのあたりなにか印象的な出来事などありましたか

戸田 そういえば、みんなマスクしてやっていましたね。今言われて思い出しました。

高田 確かにみんなでマスクしていて、本番で初めてマスクを取ってお芝居したときに、「こんな顔で喋ってたんだ!」みたいな驚きがありました(笑)。

戸田 でも内容はコメディですし、少人数の舞台ということもあってお互い心の距離感は近く、楽しくやれた作品だという印象です。私にとっては、かつてコリーを演じたことがあるので思い入れも強くありました。

──二人親子役ということで、初演のときのお互いの印象をぜひうかがいたいのですが、まず高田さんから見たお母さん役の戸田さんについて。

高田 戸田さんがかつてコリーを演じていらしたとうかがって、コリーはすごいセリフ量な上に、あっちゃこっちゃ行ってかき回す役なので、「えっ、ママ(=戸田)これをやったの、ほんとすごすぎる!」と思いました。でも、前回は感染症対策のこともあって、お稽古が淡々と進んで行くという感じで、戸田さんとお話しする機会もあまりなかったように記憶しています。前回公演のインタビューで、戸田さんが「夏帆コリーは根性がある」というようなことを言ってくださったので、気持ちを強く持って行こうと思いながら演じていました。

──そのあたり、戸田さんからご覧になった高田さんの印象を教えてください。

戸田 まず初舞台でこの作品、しかもコリー役をやるって、ものすごいチャレンジなんですよ。稽古期間中は毎日が本当に戦いで、特に初舞台の夏帆ちゃんは周りの人と話をする余裕もなかったと思います。でもそれを乗り越えて、千穐楽まで頑張れたことは本当に大きな力となって、今回の再演に向かって行けるんじゃないかなと思います。この役はメンタル面でもフィジカル面でも、全てにおいてタフじゃないと乗り切れないんですよ。前回を乗り切れたということで、今回はもうちょっといろんな意味で目標もできてくると思いますし、本人としても楽しみな作品なんじゃないかな、と思います。

──今回は加藤さんと松尾さんも引き続きご出演ということで、再びの共演で楽しみにされていることは何かありますか。

高田 前回公演では、最初のうちは皆さんに対してなにも聞けなかったんです。何を聞いていいのかもわからず、右も左も分からない状態でした。初日を迎えてようやく自我を出せるようになったという感じで、本番中は加藤さんがいつも声をかけてくださり、気持ちをほぐしてくれたのでそれが癒しになっていました。今回は、前回よりも本当にちょっとだけですけど、ステップアップしたところからお稽古を始められるのかなと思います。

戸田 松尾さんは……まあ、あんな感じですから(笑)、楽しくお芝居をやらせていただきました。前回に引き続きの共演ということで、慣れすぎてもいけないところもあるし、芝居においては毎日新鮮にやれたらいいな、と思います。今回も楽しく、さらに上を目指したいですね。より上質なコメディを目指したいというか。今回新しく参加する福ちゃん(福本伸一)も、私は舞台での共演は初めてですが、ドラマではよくお会いしていて、十分に力のある方だから、新たに引っ張ってもらえるんじゃないかな、と思っています。

高田 私は福本さんとは初共演ですが、この作品は福本さんと私の2人のシーンから始まるので、お客さんをうまく「笑っていいんだよ」と和らげる役割をしていきたいと思います。福本さんとのシーンはとても勉強になると思うので、早くお稽古したいですね。

──あらためて、生の舞台のどんなところに魅力を感じますか。

高田 ハプニングがあったりして、毎回違うお芝居だというところが面白いと思います。映像の場合、NGシーンは使われませんが、舞台はNGでも自分で何とかして軌道に戻して進めないといけない。ということを前回公演でとても感じました。

──高田さんは前回公演が初舞台でしたね。

高田 そうなんです!なので、ハプニングが起きたときはもう頭の中が真っ白になりました。私が出るタイミングを間違えて変な間が空いてしまったときは戸田さんが場を繋いでくださったり、ドアノブに洋服が引っかかって身動きできずバタバタしていたら、加藤さんが助けてくださったりなど、もうたくさんありました。ヒヤヒヤするんですが、どこかでもう「どうにでもなれ!」という精神も働くので、少し楽しかったりもして(笑)

──戸田さんは数々の舞台経験がありますが、どんなところが舞台の魅力と感じていますか。

戸田 やはりダイレクトに反応があるということですね。特にコメディは反応がわかりやすいですが、コメディじゃなくてもお客さんの反応を感じることができるんですよ。今年6月に、ニューヨークのカーネギー・ワイル・リサイタルホールで三谷幸喜さんの『虹のかけら ~もうひとりのジュディ』という芝居をやったのですが、劇場ではなくてホールなので、照明がないんですよ。普通だったらここでスポットライトがパッと付くとか、ここは照明が暗くなるとか、そういう技巧的なことが一切ないから、自分で発光するか自分で小さくなるかしかないんじゃないか、なんて思っていました(笑)。

──演劇の一人舞台ということで元々戸田さんにかかる比重も大きい中で、テクニカル面での制限もあるというのはなかなかレアな経験かもしれませんね。

戸田 でも、やっぱり脚本に力があるから、芝居が進むうちに観客がグッとのめり込んできてくれているのが伝わってきて、そのときに「あぁ、演劇ってすごいな」と思いました。照明のこととか心配していたけれども、本の通りにきっちりやっていけば、ちゃんとお客さんはついてきてくれるんですね。そういうことを感じられるのが、生の舞台のすごいところだと思います。

取材・文:久田絢子
撮影:阿部章仁

<戸田恵子さん>
ヘアメイク:相場広美(マービィ)
スタイリスト:江島モモ

<高田夏帆さん>
ヘアメイク:河井清子
スタイリスト:前 璃子(JOE TOKYO)

衣装クレジット
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