『VOICARION XVIII~Mr.Prisoner~』|上川隆也、林原めぐみ、山寺宏一、藤沢文翁・合同インタビュー

藤沢文翁が原作・脚本・演出を手がけ、声優界・演劇界の豪華キャストが出演し、美しい生演奏と共に上演される音楽朗読劇シリーズ「VOICARION(ヴォイサリオン)」の最新作、『Mr.Prisoner』が、8月21日(水)から9月1日(日)まで東京・シアタークリエにて上演される。

『Mr.Prisoner』は2016年の「VOICARION」初演時に3日間限定で上演され、好評を受け2019年に再演された演目。19世紀のイギリス・ロンドン塔の地下、光を通さない分厚い鉄扉の独居房に幽閉されている「絶対に声を聞いてはならない囚人」を巡る物語が描かれる。今公演でも初演キャストの上川隆也、林原めぐみ、山寺宏一が集結。原作・脚本・演出 は藤沢文翁、作曲・音楽監督は小杉紗代。

上川隆也、林原めぐみ、山寺宏一、藤沢文翁の合同取材会が行われた。

4人がこの8年で積み重ねてきたもの

――2016年「VOICARION」初演、2019年の再演を経てこれが三度目の上演となりますが、いま改めて振り返ると『Mr.Prisoner』はどんな作品ですか?

上川 僕は、「アニメーション好き」という病を長年わずらっておりまして。

林原 わずらいなんだ(笑)。

上川 はい。そんな僕にとって初演は、降って湧いたようなお声がけでした。しかも共演者は林原めぐみさんと山寺宏一さんだということで、一も二もなくお受けしました。冷静に振る舞ってはいましたが、正直心のどこかでは常に浮足立っていました。

――再演ではそういった気持ちは落ち着いたのでしょうか?

上川 本音を申し上げるなら、毎回浮足立てるのは立てるんです。ですが公演の度に深まっていく親交が格別なんです。林原さん、山寺さん、(藤沢)文翁さん含めこの作品に関わっているみなさんと培っていくチームワークが、最初の浮足立った気持ちとはまた別の楽しみや湧き立つ思いをつくっていってくださるので、長年のわずらいとはまた違う心持ちでいます。

林原 わずらっていただけて光栄です。

上川 不治です。

林原 (笑)。初演の時、上川さんはお稽古の初日だけすごく緊張されていて、だけど2回目からは完全になにもかも掌握しているようでやっぱりすごい方だなと思いました。初演、再演を振り返ると、私たちの仕事って、受けた演出に自分の考えを擦り合わせていけるような柔軟性がすごく大切だと思うんですけど、(本作の共演者の)吸収と加味と放出の速さに、自分はすごいところにいるなと思ったのが初演です。再演は、言葉にするのもちょっともどかしいですが、公演の翌年から新型コロナウィルスが流行し始めたんですね。世の中の空気が少しずつ変わっていって、演劇を観るということだったり、楽屋で挨拶をするということだったりもできなくなっていった。そういう中で、私たちが再演できたことだけでも奇跡だなということをすごく感じていました。

山寺 僕が初演の時に感じたのは、とにかく「一生やり続けたい作品と仲間を得たな」ということでした。林原さんとは、デビューの頃からアニメーションですごく共演させていただいてきましたが、まさか上川さんと一緒にやれると思わなかったので。上川さんは僕が出会った中で一番すごい人格を持った俳優さんで、

林原 うんうん!

山寺 人格者です。こういう3人でチームを作れたことを嬉しく思いました。この作品だけは本当に――求められなければできないことではありますが、声が続く限り、身体が続く限り、やりたいなと思いました。だから再演の知らせがきた時ももちろん嬉しかったですし、次はいつなんだろうと思っていたので今回も非常に嬉しいです。

藤沢 初演の時は浮足立っていました。演出家も緊張するんですよ。やはり上川さん、林原さん、山寺さんというキャスティングになり、その方々が目の前に座った瞬間……の前に想像した段階で浮足立ちました。しかもこの作品の場合、僕は原作・脚本・演出なので「浮足立つ×3」なんですよね。その3つが同時にきた初演という気がします。演出家ってそのキャストの方にどんな言葉が届くのかを考えて、言葉を変えたりするんです。例えば山寺さんなら、僕は「落語」という同じ趣味があるので、(芝居についての)例え話をする時はそこから使ったほうがいいなとか。そういうことをキャストの方それぞれと見つけていく作業が、演出家の最初の仕事だと僕は思っているんです。初演はそこからスタートして、毎晩一緒に飲みに行き、プライベートでも付き合いが始まり、そこがどんどん肉厚に重なっていって、演出をする場でどんどん自分が思っていることを伝えるのが楽になっていきました。初演から8年経ち、再演も経て、『Mr.Prisoner』の演出家として、出てくださるみなさんとより熱いものをつくれる関係値になれたかなと思っています。

『Mr.Prisoner』が生まれた背景と、今作だからこそのもの

――脚本はどんな風に書きあげられたのですか?

藤沢 (プロデューサーに)僕、キャストが決まってから書いたんでしたっけ?

(プロデューサー 山寺さんに対するラブレターだとおっしゃっていました)

林原 おっしゃってましたね。

藤沢 ああ……。

山寺 もう忘れた!?!?

一同 (笑)

藤沢 『Mr.Prisoner』の数年前に、ある舞台がありまして。そこでメインキャストの方が体調不良になって、開演の24時間前に降板されるということがあったんです。その時に山寺さんがすべての仕事を調整してその舞台に出てくださったんですよ。僕が「どうやって恩返しすればいいかわからないです」と言ったら、山寺さんが「いい作品をまた書いてよ」とおっしゃって。山寺さんは軽口だったかもしれないですが、僕は深く捉え、その数年後にシアタークリエでなにかできることになったので、山寺宏一といえば七色の声を持つ男、というところから発想して「声を聞いてはならない」という囚人の話をつくろうと思いました。これは余談ですが、初演の千秋楽後の飲み会の後に山寺さんからメールが届いて、開いたら「あのときのお礼、確かに受け取りました」って。

山寺 かっこいい!

一同 (拍手)

藤沢 (笑)。どんな風に書いたかを説明するのは難しいですが、この3人+1(藤沢)で和気あいあいとやらせていただいて、とても幸せだったし、書いて良かったなと思う作品です。

――きっかけとなった山寺さんは『Mr.Prisoner』にどんな印象をお持ちですか?

山寺 まず「自由」という言葉がたくさん出てきて。自由とは何だ、生きるとは何だ、っていう。それが根底にあって、僕はとても美しい物語だなと思っています。すごい脚本です。(藤沢は)よく一緒にお酒を飲む友達ですけど、この人がほんとに書いた!?っていう。

林原 (笑)

山寺 美しい作品なんですよ。それが大好きなんです。再再演であるにもかかわらず、黙読しているだけで涙が出てきちゃって。読んでも泣くし。家で泣いてきたから大丈夫かなと思って今日久々に読み合わせしたら、もう、ねえ? 本番どうなっちゃうんだろうって思うくらいです。そういう物語なんです。こんな脚本、世の中にあるのかなって思うくらい好きな物語です。

――なにかブラッシュアップしようと考えていらっしゃることはありますか?

藤沢 ブラッシュアップというのは、普通の舞台なら、演出家が「これ」と決めたところにみんなで行きましょうみたいな感じになると思うんですけど、今日読み合わせをしてみるとそうじゃないなと。みんなそれぞれ時間が経って解釈も変わったりしていて、すごいものを持って来られているんです。それで、そんなふうに成長しているんだったらじゃあこうしましょう、みたいな。とてもじゃないけど僕の想像力の範疇におさめてはならない人たちなので。今日だけでも初めて気付いた箇所がありましたし、「じゃあここもこうしてください」みたいな。つまり、(演者に)もらったものにさらに何か乗せてくような演出になっています。

山寺 もちろん回を重ねるごとに、もっといい物語に、もっと皆さんに伝えられるようにという想いはあるんですけど、我々も脚本からもらっているので、それに導かれるように演じるだけなんですよ。もちろんこうしようああしようっていう気持ちもあったりしますけど、まずは物語に導かれてやっているだけ、という感じが僕はしています。

林原 今回、こういう機会でもないと行かないなと思って、一人で(物語の舞台になっている)ロンドン塔を観に行ってまいりました。当然、ロンドンの街はこの作品の時代のものとは違いますが、コヴェント・ガーデンやオペラ座で実際に見たオペラを「ここなのか」と感じたり、雨の多さだったり天候の変わりやすさだったり、想像だった世界が肌で感じられて、これは血肉になっているだろうなと。それによって声のトーンが変わるとか直接芝居が変わるとかそういうことではなく、自分の中にそれがあるということだけなんですけど、みなさんにお届けする時のエキスになっていればいいなと思っています。

上川 (藤沢に)今回の再再演で演出の新しいプランはないんですよね?

藤沢 ないです。

上川 ということは初演から変わらないものをお届けする事になる。それを踏まえていただいたうえでお話するのですが、「将棋」って何年前にできたものかは知りませんけれども、出来上がって以降は、盤面、マスの数、駒の数、配置、駒の動き、役割などなにひとつ変わっていない。にもかかわらず、今でも新しい取り組みは生まれていますし、藤井聡太さんのような方があらわれると、これまで見たことない「そんな手があったのか」と皆が驚く局面が立ち現れる瞬間も生まれる。この物語も初演から、出演者、演出、音楽、なにひとつ変わっていないにも関わらず、今日の読み合わせでの僕一人の心の中でも、ちょっとした変化から生まれる表現の違いですとか、解釈の拡大や飛躍や深化が生まれてきています。だから“ブラッシュアップ”とは違うかもしれませんが、物語と同時に演者も成長していて、初演と違うものをお届けできる、今ここがそのベースとしてある、ということだけは自信を持って言えます。きっと初演の時にみなさまが目の当たりにした『Mr.Prisoner』とは違うものになっているのではないでしょうか。それともうひとつ。陸上競技のランナーが自分より速い走者と走るといいタイムが出ることがあると聞いたことがあります。僕は初演をそんな状態でずっと走ることができたんです。この作品に出逢って「声で事物を伝える」ことへの意識が大きく変わりました。それが僕が初演で一番得たものです。それ以降、台詞との向き合い方は大きく変わりました、今回、そこからの8年がもたらしてくれたものとしてお届けしたい。そういった2つの意味から、また新たな『Mr.Prisoner』を2024年の夏にお届けできたらと思っております。

取材・文:中川實穗
撮影:岩田えり

<ヘアメイク>
上川隆也:大野真二郎
林原めぐみ:小竹珠代
山寺宏一:岩井マミ

<スタイリスト>
上川隆也:黒田匡彦(KUMSTYLE)

<衣装クレジット>
上川隆也:Losguapos for stylist/03−6427−8654