皇帝ロックホッパーの2nd stage performance「音の光る影」|ゲネプロレポート

2024.09.05

2023年5月に小原卓也と三国由佳によって旗揚げした演劇団体・皇帝ロックホッパーの2nd stage performance「音の光る影」が、東京・上野ストアハウスにて上演される。本作は、皇帝ロックホッパー所属の栗原大河が初めて脚本・演出を手掛けており、人生の明暗を色濃く描くシリアスな会話劇が繰り広げられる。本記事では開幕初日に行われたゲネプロの様子をお届けする。上演回によってキャストがAパターン、Bパターンと変化するが、Aパターンのゲネプロの模様をレポートする。

場内がゆっくりと暗くなり、流れていたBGMが大きくなると、いつしか舞台上に2人の男たちが現れる。街の雑踏音が騒がしく響く中、ふいに男の声が響く――「…君を助けてあげる」と。救いを求めているのは、絶望の果てに孤独を選んだ男・慶太(近澤智)だ。

続いて登場したのは、賑やかな弁当屋の面々。店主の佐田(小原卓也)は声を張り上げて接客するが、実は客など一人もおらず店はいつも閑古鳥が鳴くばかり。いつかお客がわんさか来た時のために練習しているというが、店員の梨花(高宗歩未)に鮮やかにツッコまれていた。

そんな潰れかけの弁当屋で働く魅音(平森友捺)は、歌手になる夢を追いかけて上京。いつかチャンスを掴みたいと思いながら、ひたむきな努力を続けており、佐田も梨花もそんな魅音を応援している。

魅音と慶太は、同郷の同級生。慶太が魅音の住む田舎に転向してきてからは、同じく同級生の拓真(瀬川拓人)と結衣(花崎那奈)、そして魅音の妹・奈央(長山琴架)といつも一緒で、ともに青春を過ごす大切な仲間だった。

やがて魅音は夢を追いかけて上京、拓真も東京で働くようになり、今は弁当屋の唯一の常連に。結衣は地元に残って就職、まだ学生の奈央とは今も田舎で一緒に過ごしていた。そして、慶太は――行方知れずとなっていた。

魅音の上京後、慶太の父が仕事で失敗して、その借金を慶太と母に押し付けて蒸発。ショックで慶太の母は情緒不安定になり、いつしか慶太は同級生たちの前から姿を消し、轟(川井雅弘)に拾われて、瀬名(栗原大河)とともに悪事に手を染めてしまっていた――。

歌手になる夢に向かって、初ライブのチャンスを掴み、弁当屋の店長や仕事仲間など、たくさんの人の温かさに包まれながら、ささやかだけれどもキラキラと輝く日常が描かれる一方で、またひとつ、さらにもうひとつと次々に悪事に手を染め、どんどん深みに落ちていってしまう慶太。同じ青春を過ごしたはずなのに、小さな気持ちのすれ違いから遠く離れた存在となってしまった2人の対比は、不平等な世界の残酷さを突き付けられているようだ。

今はバラバラになってしまった仲間たちだが、会えずとも仲間を思う気持ちは強く、尊い。熱い情熱と行動力で手を差し伸べる者もいれば、静かに見守り続ける者もいる。そして、祈りを捧げるように歌声に想いを込める者も――。そのほかたくさんの人々の想いや、一縷の望みを込めた小さな行動が、糸をつむぐよう縒り集まり、奇跡へと向かって結ばれていく。過酷な現実をつぶさに見せつけられる作品ではあるが、人を思い合う温かさや希望も感じられる舞台に仕上がっていた。

また、前作「CHERRY BOYS~GRADUATION~」のコメディ路線とは打って変わって、シリアスでリアリスティックな物語を描き、演劇団体としての振り幅の広さを感じさせられた。初めて脚本・演出を務めた栗原だが、登場人物のキャラクターもそれぞれに魅力的に見せる時間を用意しているように感じられた。内容的に重くなりがちなストーリーだが、弁当屋でのコミカルなやりとりや、刑事2人の軽妙なセリフなど、クスっと笑える展開が清涼剤のように心を軽くしてくれていた。実に丁寧に物語を仕上げていた印象だ。今後の栗原が、俳優としてだけでなく、どのような形で演劇を作りあげていくのか楽しみになる舞台となっていた。

さらに、本作は慶太や魅音など一部キャストがダブルキャストとなっている。キャストが変わることでどのような印象の変化が起こるのかも楽しみなところだ。皇帝ロックホッパーの2nd stage performance「音の光る影」は、9月4日(水)から8日(日)まで、東京・上野ストアハウスにて上演される。

取材・文:宮崎新之