10月2日(水)より下北沢 駅前劇場にて東京にこにこちゃんの新作『RTA・インマイ・ラヴァー』(作・演出:萩田頌豊与)が開幕する。本作は、ゲームクリアまでのスピードを競う “RTA(リアルタイムアタック)”をある男の人生に落とし込んだ物語である。
キャッチコピーは「世界最速で君に会いに行く」。おそらく演劇史上初となるRTAを題材に、東京にこにこちゃんならではの笑いとハッピーエンド、そして人生へのビッグハグを携えて、愛らしさに満ちたキャラクターたちが“最速”の世界を生きる。
キャストは、前田悠雅(劇団4ドル50セント)、野上篤史、加藤美佐江、木下もくめ(破壊ありがとう)、藤本美也子の、期待のふくらむにこにこちゃん初参戦組の面々に加え、過去作でも数々の名キャラクターを演じてきた高畑遊(ナカゴー)、立川がじら(劇団「地蔵中毒」)、てっぺい右利き(パ萬)の8名。
男が目指す人生の到達点とは? そして、加速すればするほどに変化する人生と物語のラストは果たして…。8名のキャストが所狭しと駆け巡る稽古場から、後編では座談会の模様をお届けする。
『RTA・インマイ・ラヴァー』の魅力とは?
――まずは、稽古の感触やご自身の役どころの印象をお一人ずつお聞かせ下さい
立川 最高傑作かと。過去をどんどん越えてきています。僕はにこにちゃんの演劇を全部観ているのですが、こんなに衰えを知らないなんて。さらなる新境地に仕上がっていると思います!
萩田 どうしよう、がじらさんに一発目にしゃべってもらったらハードルが爆上がりしてしまいました(笑)。初参加組のみなさんはどうでしょうか?
野上 僕は主人公・瞬を演じます。初めての東京にこにこちゃんということで不安もあったのですが、来てみたらすごく楽しくて、いい現場だなと感じています。瞬は字で分かる通り「速さ」が全てのキャラクター。元気で明るいやつなので演じていて楽しいですね。
前田 私が演じる早笑は、瞬とは対照的なのんびり屋です。今日の稽古では、物語の山場や魅力がはっきり見えてきた感じがして高まりました。ゲームをやらないので「理解が追いつけるかな」と不安に感じていたのですが、その不安が、周囲のスピードについていけない早笑という役に活きる感じもあって…。この後回収されていく伏線もあるので、明日からの稽古も楽しみです。
高畑 今回は題材の性質上、ストーリーを一度最後まで辿ってから、要所要所をなぞっていくという手順で進めているのですが、私も今日の稽古でまさに全貌が見えた感じがあって楽しかったです。
萩田 そうですね。ようやく「RTA」の世界が立ち上がって、芝居に落とされた時の反応が見えてきました。めちゃくちゃカオスで、我ながら「これどうなるんだろう」と笑ってしまったんですけど、RTAを題材にした演劇自体がほとんどないものなので、お客さんにどう伝わるのかなってワクワクします。
高畑 役の名前もみんないいですよね。
前田 名前もキャラもすごく個性的で面白いです。私はのんびり屋なキャラクターだけど名前に「早」がついているんですよ。これにはどんな思いがあるのでしょう?
萩田 早笑っていう名前でゆったりしている子がいいなと思ったんですよね。「そういう子がいてもいいじゃないか」という思いで。結果的にみんなにRTAっぽい統一感が生まれて気に入っています。
高畑 私の役の名前は最初「急(いそぎ)」だったんですけど、自分の本名の「遊(あそぶ)」と同じ動詞の終止形にしたいと相談したら「急(いそぐ)」に変えてくれました。とても気に入っています!
木下 私が演じる音波は、周囲に振り回されながら、真面目に生きようとするちょっと不憫な女の子です。破壊ありがとうのコントでは、どちらかといえば、相手を振り回すキャラに回ることが多いので、演じていてとても新鮮です。
てっぺい RTAはなんとなく知っているけど、細かいルールは分かってなくて、まだ意味を分からずやっている部分もあるかも。でも、やっていけばわかるかなと思ってお芝居をしています。毎回最初は「難しそう」って思うけど、やっているとどんどん楽しくなっていくので心配はしていません。今、ちょうど楽しくなってきたくらいです!
木下 台本も、俳優さんがちょっとふざけたら、それが採用されたりとフレキシブルに作っている感じが面白いですよね。私は演劇に出演するのが初めてなのですが、フィクション感を上手に利用してコメディに仕上げている点も興味深かったです。にこにこちゃんの世界はフィクションの積み上げの中にリアルがある感じ。
萩田 嬉しい。すごく豊かに分析していただいて!
藤本 私は毎回緊張しつつ、とにかく必死でやっているといった感じです。RTAという言葉も初めて聞いたのですが、あんまり考え過ぎずに本に書いてあることに忠実に一生懸命やっていきたいと思っています。素直に真面目に…。
加藤 そうですね。一生懸命やるのみですね。今回私は複数の役をやるのですが、お気に入りの役は酔っ払い役。私は一滴も飲めないのですが、アル中だった亡き父を降臨させました。酔っ払い役だけは誰にも負けません!稽古は毎日とっても楽しいです!
萩田 突然、すごいエピソードが折り込まれました。
前田 でも、加藤さんのお芝居本当にすごいです…。今までの人生で出会ったことのない方。どういう風に役を組み立てたらあんな風にできるのかなって圧倒されちゃって…。
萩田 高畑さんと美佐江さんの酔っ払いたちのシーンは今日できたばかりで稽古も初めてやったんですけど、一発目からすごいものを見せてもらって…。初回であのテンションに二人で合わせていくのはやっぱり凄まじいなと思いました。さらに、前田さんはそんな二人に前後挟まれながら一人でシリアスなお芝居をするシーンもあって。みなさん素晴らしいです。
木下 現状、全員が笑わなかった瞬間がないから本番がちょっと不安なくらいですね(笑)しかも、この間私の誕生日に加藤さんがケーキを焼いてきてくれて。シャインマスカットのホールケーキですごく嬉しかったです!
加藤 次はてっぺいくんが誕生日なので、またケーキを焼こうと思っています。
てっぺい やった!楽しみです!
萩田 みなさん芸達者で楽しく、素晴らしい俳優さんたちなので、稽古も楽しくて仕方ないです。
てっぺい 今日も寝っ転がって笑っていましたね。
立川 椅子から転げ落ちて笑う演出家の姿がにこにこちゃんの稽古場の恒例の景色になっていますね。
萩田 自分で書いたんですけど…これ、めっちゃ面白くないですか?
立川 僕も自分のセリフ言いながら笑っちゃいますよ。なんか、ホアキン・フェニックスみたいですね。にこにこちゃんのホアキン・フェニックスってことでいいですか?
萩田 そんないいものじゃないよ!さっきもなんてことないシーンで笑っちゃってたから!(笑)。でも最高に変わりはないですけどね。そんながじらさんの役柄の印象は?
立川 今回僕は本筋にはあまり関係のない、とにかく迷惑なキャラですね。キャストバランスの都合上そうなったようです。ホアキン・フェニックスなのに。
萩田 あははは!重要な役ですよ!
立川 でも、個人的には新境地であり、にこにこちゃん好きには喜んでもらえるキャラだと思います。迷惑なことができる人を毎回呼んでいるのが東京にこにちゃんというカンパニーなので。
萩田 迷惑を託します!(笑)。今回の作品はどうでもいいような時間、忘れていいような時間がテーマの一つでもあるんです。そういう飛ばしちゃってもいいような時間って、人生において絶対にあるんですよね。それでいて本当はすごく大事な時間。だから、そういう時間のことをすごく考えながら作っています。
――そんな物語にちなんで、みなさんが一日や人生において飛ばしたい時間、もしくは飛ばしたくない時間は?
てっぺい け、稽古?
萩田 え、いきなり本番でもいいの?
てっぺい …稽古って反射的に言っちゃったこの今の瞬間を飛ばしたいです。
全員 あははは!
萩田 移動時間とかかな。でも、そう考えると、目的地に向かうドキドキする時間はやっぱり必要なんじゃないかと思ったりする。寝ている時間とか?
藤本 それは飛ばしたくないかも!寝ている時間、絶対大事。強いていうなら、高いところが苦手だから飛行機に乗っている時間かな。
野上 僕は全部飛ばしたくない派ですね。役では最速で生きていますけど、どの時間も堪能したいし、キツい時間も大事かなって思います。
高畑 私もないかもなあ。基本マイペースだし、なんでもゆっくりな方だから、何か一個飛ばしたら全部自分ごと飛んでいっちゃいそう。
前田 ありました!お腹がいっぱいになって苦しくなっている時間。「美味しい」って感じている時間で終わっておきたいのに毎回その時間になってしまう!
木下 私は爪切りの時間かな。あとは、向かいに人が座っていて、自分から見て相手の顔の右側の頬にまつ毛がついていて、「ついてるよ」って教えるんだけど、相手が反対の頬を触って「逆逆」って言っている時間。
全員 あははは!
萩田 あるね!美佐江さんは?
加藤 更年期かな…。更年期はちょっと飛ばしたい…。
萩田 また、予想もしない時間を…。
立川 今みんなのを聞きながらずっと考えていたんですけど、仕事の依頼いただいて予算聞かれて、それに答えて、「上に聞いてみますので待ってみます」って言われて、「やっぱダメでした」って言われるまでの3日間に決めました。
萩田 それは飛ばしたい!なくしたいね。
立川 フリーランス代表として言いました!
――個性豊かな回答ありがとうございます!では、みなさんが思う『RTA・インマイ・ラヴァー』とは?一言でお願いします
立川 何かが終わってからの物語!
てっぺい 全てが大事!
高畑 置いてかれるなよ!
野上 これがRTA演劇です!
前田 最後まで諦めないでみて下さい!
木下 急げっ!
藤本 がんばります!
加藤 RTA、体験しにきてね!
――では萩田さん、最後に見どころを締めくくって下さい
萩田 完全な新ジャンルを打ち立てようと思っています。にこにこちゃんならではのバグを用いた笑いとバグによって進んでいくRTAというゲームとの調和性は非常に高いはず。ついてさえきて下されば、最高の物語にさせます。今回もハッピーエンドでお待ちしております!
取材・文/丘田ミイ子