舞台『モンスター』|風間俊介インタビュー

日本でも上演され話題を呼んだ『LUNGS』、『エブリ・ブリリアント・シング』の作者ダンカン・マクミランの初期作を、杉原邦生の演出で上演。主人公のトムを、舞台、映像、キャスターと幅広く活躍する風間俊介が務める。心の壊れてしまった少年ダリルと、彼と対峙することになった教師のトム。ダリルは本当に“モンスター”なのか。それとも……。稽古開始を控える風間に、作品への想いを語ってもらった。

――ダンカン・マクミランの初期作ですが、台本を読まれて風間さんの心をざわつかせたもの、引っかかりを感じたものとは?

すごく僕好みの作品だなと思いながら読んでいました。わかりやすいモンスターではなく、潜在的な“モンスター”を描いている点にすごくワクワクして。ただ僕自身そうでしたし、お客様もきっと最初は迷うと思うんです。登場人物たちの会話が成り立っていない感じや、潜在的になにか覆いかぶされている感じが、果たして確信的なものなのか。まず作品を疑う、というところから始まるのが僕好みだと思いました。

――ラストも非常に衝撃的ですが、読後感はいかがでしたか?

僕はそこまでの後味の悪さは感じませんでした。というのも、映画『セブン』的なセンセーショナルなショッキングさではなく、ある種のリアルさがあったことがむしろ怖くて。前者の場合は、あ、お芝居だなと割り切って考えられますが、後者だったので、これは本当に日常に潜む話なんだって体感を持つ。しかもそれが水や氷みたいに触れられるものではなく、気体や霧みたいに触れられない怖さなんですよね。霧って前が見えないから怖いって表現されることがありますが、それとはちょっと違う。湿度があって、そこにあることは分かっているのに視認出来ない、そういう怖さなんですよね。

――風間さんが演じるのは新米教師のトム。母の自死により心が壊れてしまった、14歳の少年ダリルと向き合うことになります。トムの目にダリルは、どんなふうに映っていると思いますか?

それはこれから稽古が始まってから、どんどん深層に触れていくものだとは思うのですが……。今思うのは、トムはダリルに対応したいのではなく、対応するのが仕事というか、ある種のドライさをもって接しているのではないかと思います。それでも徐々にダリルとの対話というものに心酔していくのですが、それってダリルに心酔しているのではなくて、ダリルに対峙するという仕事に心酔している。だから一見すごく寄り添っている感じはありますが、トムの中では常にドライで、それがダリルからトムへのディスコミュニケーションを生んでいるのかなと思いました。

――そのドライさは、ある意味で彼の婚約者であるジョディ、ダリルの祖母であるリタにも向いているのでしょうか?

そう感じます。でもトムって、自分の感情に対しては恐らくウェットなんですよね。そのアンバランスが面白いですし、稽古に入ってからそういったところをみんなとたくさん話し合っていきたいです。

――演出の杉原邦生さんとは初タッグとなります。その杉原さんは美術も手がけ、さらに音楽は近年若者を中心に圧倒的な人気を誇る原口沙輔さんが担います。風間さんが舞台で演じている時、美術や音楽に助けられること、引き出されることはありますか?

僕は映像も舞台もどっちもやりたいと思っている俳優ですが、映像のお芝居をしている時って、そのシーンでどんな音楽が鳴っているのか知らないんですよね。でもそれによって、現場で自分が思い描いていた色とは違う色が足されたりして、すごく素敵なことだなと。でも舞台上でお芝居をしている時って、お客様と音楽を共有しているので、同じ色を描きにいく。その違いがいつも面白いなと思っていて。結局舞台ってひとりでやっているものではないですから。誰がどう描きたいかっていうのを知りたくてやっているので、そういう時に美術が助けてくれる部分は大きいと思います。

――開幕はまだ少し先ですが、本作でまた新しい風間さんを見せていただけそうで今から楽しみです

新しい自分ではあると思います。でも今までやってきた役、いわゆるダークサイドの役であったり、いい人の役であったり、そういったもの全部を煮込むとトムになるんじゃないかなと思っていて。それがどんな表現になるのか、自分でも楽しみです。

取材・文/野上瑠美子