紀伊國屋ホール開場60周年記念公演『見知らぬ女の手紙』│行定勲&篠原涼子&首藤康之 インタビュー

写真左から)首藤康之、篠原涼子、行定勲

篠原涼子が迸る感情を“手紙”として語り、
首藤康之が身体表現する、行定勲の美しき舞台

世界的作家、シュテファン・ツヴァイクの短編小説をもとに、映画監督の行定勲が翻案・演出するモノローグドラマ『見知らぬ女の手紙』。2008年に初演後、再演を重ねてきたこの舞台が、キャストを一新して再降臨する。ある男に届いた、1通の分厚い手紙。そこに書かれていたのは、深すぎる愛と孤独と未練に満ちた、見知らぬ女の半生だった……。
これまで様々な愛の形を“ラブストーリー”として撮る機会の多かった行定だが、今回は「いわゆる“甘酸っぱくて素敵な恋愛”とは真逆な印象を持つ物語になる」と語る。

行定 恋愛劇ではあるけれど決してスイートではないからこそ、人間の根源的な感情が炙り出されてくると思うんです。ホラー的に感じる部分もあるかもしれませんが、その瞬間も含めて美しさが必要な作
品で、キャスティングは非常に重要でしたから、この二人が揃ったことはとても心強いです。

行定作品に初出演の篠原涼子と首藤康之はオファーを聞いた時の心境について「嬉しかった!即決でした!!」と異口同音に打ち明ける。主に篠原は“言葉”で、首藤は“肉体”で、繊細なこの物語を演じていく。

篠原 私が演じるのは、すごく一途で狂気めいたところもある女性で、そこに魅かれて私は食いついてしまったわけですが(笑)。言葉だけでどう表現するのかは行定さん、首藤さんにも助けていただき、たくさん考えながら稽古していきたいです。

首藤 最初読んだ時は、怖っ!と思いました(笑)。だけどこの男も怖いなら手紙を読むのを辞めればいいのに、最後まで読んでしまう。そこに彼の面白さや少し変態的なところがあるように思えて。そのくらい、彼女のひたむきさ、切実さに心を奪われたんでしょうね。

行定 この二人ならではの表現が混じり合う瞬間を見極める、というのが今回の稽古の一番のポイント。朗読としてスタートしながらも、肉体が動くことで見えてくるものもあると思うんです。演劇でも
映画でもなく、コンテンポラリー的な要素のある不思議な作品にしたいです。

篠原 舞台を客席から拝見していて圧倒されてしまう経験があります。この作品で、同業者の方に“自分もこういう役をやりたい”と思っていただけたら嬉しいですし、お客様にも強いインパクトを残せるような、そんな存在として舞台に立てたらと思っています。

首藤 二人きりですからとても濃密な時間になるはずです。僕自身もそのことを楽しみつつ、答えのない脚本でもあるので、観ていただく方とも一緒に答えを探せるような作品にできたらいいですね。

ベートーヴェンのピアノソナタが流れる中、静かに激しく語られていく絶対的な美と哀しさ、そして怖さ。ぜひ、じっくりと味わってみてほしい。

インタビュー・文/田中里津子
Photo/矢野寿明

※構成/月刊ローチケ編集部 10月15日号より転載

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【プロフィール】

行定勲
■ユキサダ イサオ
映画監督、脚本家として数々のヒット映画、ドラマを手掛ける。監督賞の受賞歴多数。

篠原涼子
■シノハラ リョウコ
1994年発売の「恋しさとせつなさと 心強さと」が大ヒット。女優として映画、ドラマ、舞台に数多く出演。

首藤康之
■シュトウ ヤスユキ
1989年、「眠れる森の美女」で主役としてデビュー。バレエダンサー、俳優として活躍。