宅間孝行が作、演出を手掛けるタクフェス第12弾「夕 -ゆう-」が、11月1日よりサンシャイン劇場にて上演される。本作は何度も再演されてきた人気作。主演の夕役を務めるのは、7月に第1子を出産し本作が復帰作となる矢島舞美。そして、これまで宅間が演じてきた夕の幼馴染・元弥をLeadの古屋敬多が演じる。
まさに稽古が進められている10月某日、公開稽古が行われた。集まったメディアを前に宅間は「ニュージェネレーションによる新しい「夕 -ゆう-」をご覧いただける」と、物語の雰囲気はそのままに、若い世代による新しい「夕 -ゆう-」を見せられるはずとコメント。公開稽古を優しいまなざしで見守った。
公開されたシーンは、元弥(古屋敬多)が想いを寄せる相手に用意したプレゼントがダメになってしまい、憲太郎(松本幸大)が慰めるシーンから。
元弥がムキになって用意していたのは、カセットテープ。某アイドルのコンサートを録音したものを、薫にプレゼントして告白するつもりだったのだ。落ち込む元弥を、薫はプレゼントで左右されるような女じゃない、と慰める憲太郎。すると、そこに居合わせた坂田(大藪丘)が、実は薫と夕が親友同士で仲がいいことを2人に教える。夕と薫の関係を知らなかった2人は驚くが、さらに2人がもうすぐこの場にやってくると聞いて、さらに驚く。
まずは、元弥と憲太郎のやんちゃ感が楽しい!2人は地元を賑わすヤンキーで、2人でワチャワチャと会話する様子はまさに、かつてたくさん居たであろう若者たち。気弱な坂田に2人がかりで言い寄る場面などは、実にコミカルだ。会話のテンポもいいので、聞いてるこちらもつい頬が緩んでしまう。
そんな男たちのもとに現れたのは、夕(矢島舞美)と薫(中村静香)。薫から何やら話があるようで、モジモジと話しかけてくる。これは告白に違いない、と沸き立つ元弥と憲太郎だが、平静を装いながら薫からの質問に答えていく。甘酸っぱい空気が流れる中、意を決した薫がプレゼントを差し出した相手は――なんと憲太郎だった。
夕と薫のやりとりも、女子高生特有のキャピキャピ感があり、こちらも頬が緩んでしまう。薫からの、彼女はいるのか、好きな人はいるのか、という質問に、どこかはぐらかすように答える元弥と憲太郎の照れ隠しも可愛らしく感じられる。そして、いつの間にか現れていた信子(三戸なつめ)がこっそり坂田をからかったりしているのもほほえましい。
プレゼントを憲太郎に渡し、薫は走り去る。ショックを受ける元弥を残し、プレゼントを返してくると憲太郎も走っていってしまった。残っているのは、夕と元弥の2人きり。元弥はショックから歌い出してしまうが、元弥が薫を好きなことに気付いた夕は、からかうように大げさに大きな声で話しかける。そして、冗談めかしながらも元弥への想いを口にする夕。だが元弥は真面目に受け取らず、夕の言葉は本当に”冗談”になってしまった――。
そこまでのワチャワチャ感から打って変わって、賑やかだけれども切ない場面。自分の失恋に夢中で、夕の想いに気付かない元弥。元弥の想いを知って、ショックを受けながらも”いつもの2人”であろうとする夕。特に矢島の表情がとても切なく、大きな瞳が本当にうるんでいるように見えた。
公開されたのはわずかなシーンだけだったが、新世代と作りあげる「夕 -ゆう-」への大きな期待が高まる稽古だった。
公開稽古前の各キャストコメント
矢島舞美/三上夕 役
宅間さんの作品の中でも人気の「夕 -ゆう-」は、ファンの方もたくさんいらっしゃると思います。過去の作品を超えられるように、この座組で頑張ります。絶対に、超えます! 観に来てください!
古屋敬多/相川元弥 役
僕が演じる元弥は10年前に宅間さんが演じられていた役ということで、ものすごいプレッシャーを感じています。宅間さん超えをしなければならないので…これがもう、たまらないんですけど(笑)。強敵すぎますが、ぶっ倒したいと思います!
松本幸大/塩谷憲太郎 役
タクフェスに初参加させていただけることを光栄に思っています。その気持ちを表現しながら、稽古から千秋楽までの長丁場ではありますが、健康第一、安全第一でやっていきたいと思います。全員で、チームワークをとって、みんなを信じ切って、宅間さんを信じて、挑みたいと思います!
中村静香/高橋薫 役
私もタクフェスに初めて参加させていただきます。出演が決まってから、たくさんの人に「あの名作に出るんだね」とご連絡をいただきました。言われるたびに、そんな素敵な作品に出られる喜びとプレッシャーを感じています。ですが、宅間さんが本当に1行ごとに細かく演出を付けてくださっていますし、キャストのみなさんが前向きでより良い作品にしよう、オリジナリティを出そうと頑張っているので、一生懸命取り組んでいます。私もみなさんに食らいついて頑張ります!
三戸なつめ/信子 役
私はタクフェスに参加するのは2回目。またメンバーになって、いろんな地方に行って観ていただけるのが楽しみです。私が演じる信子は、とても個性的で面白い女の子なので、楽しんで、お客さんに笑ってもらえるよう、ごはんをいっぱい食べて頑張ります!
宅間孝行/相川登 役
今回、10年ぶりに「夕 -ゆう-」という作品を再演することになりました。これまでとはガラッと変わって、新しい世代が中心となって大きなマイナーチェンジを行っています。物語自体は変わっていませんが、ニュージェネレーションによる新しい「夕 -ゆう-」をご覧いただけるかと思いますので、みなさんぜひ来ていただければと思います!
矢島舞美&古屋敬多インタビュー
公開稽古の前に、矢島舞美と古屋敬多の2人にインタビューを敢行! 作品の魅力や役どころについてなど、話を聞いた。
――出演が決まった時は、どのようなお気持ちになられましたか?
矢島 宅間さんの作品は、人情物などの温かい作品が多いですよね。この「夕 -ゆう-」も温かさと切なさがすごく詰まっていて、その中で夕という主人公を演じさせていただけるというのは、すごく嬉しかったです。やりがいもあるだろうなと思いましたし、何度も再演されていますが、やるからには前作を超えたいという気持ちにもなりました。それに、ファンの方にも人気のある作品なので、プレッシャーもより感じています。
古屋 お話をいただいて初めてタクフェスを知って、ちょうど上演している時期だったので劇場に観に行ったんです。もう、ものすごく感動して…めちゃくちゃ笑えるんですよね。基本はコメディベースなんですけど、すごく自然で、演技っぽさがなくて。個人的に、そういう自然な演技を自分のモノにしていきたいと思っていたので、挑戦したくなりました。「夕 -ゆう-」の舞台は長崎なんですけど、僕は生まれが九州・福岡。割と方言が一緒なんですよね。ちょっとイントネーションが違ったりもするんですけど、空気感はそのまんま。本当に懐かしい気持ちになりました。13歳で上京していることもあってか、地元がむちゃくちゃ恋しいんですよ。「夕 -ゆう-」の雰囲気は、地元の集まりというか、おじいちゃんおばあちゃん家にいったときの感じというか…。そこは自分が活かせるんじゃないかと思いました。
――台本などを読まれて、物語の印象はいかがですか。
矢島 最後の最後まで切ない部分はあるんですけど、実はずっと通じ合っていたような温かさもあって…。私はもっちゃん(元弥)が居てくれたら、っていうもどかしさをものすごく感じたんです。だから、私たちが演じる夕ともっちゃんを見ても、そう感じて涙を流していただけるように演じていきたい。やっぱり幼なじみって、結構この2人みたいな関係性ってあるんじゃないかって思うんですよ。本当は恋愛としての好きなんだけど、幼なじみとして好きなんだろうな、って思ってしまう。結婚するならこういう人って思うくらいの安心感があって、2人にしか出せない空気もあって…。きっと、そういうことって周りにもあるんじゃないかって思えるんですよね。
古屋 夕はずっともっちゃんが好きで、もっちゃんはその想いに気付かないまま親友だと思っていて。そういう感覚に共感もできますし、なんとなく九州の人の特性なんじゃないかな、って思うんですよ。あんまり素直じゃなくて、本心を秘めたまま冗談にして流しちゃって、強がってしまう。夕を見ていると、本当に九州の女性っぽい。ちょっと母親を見ているような気持ちにもなるんです。本当は辛いのに、ずっと笑顔でいたりするんですよ。いつもカラッと元気で、辛気臭くない。ここまでリアルなキャラクターになっていることも、スゴイですね。もっちゃんがまったく気付かない、鈍感なところも九州男児っぽい(笑)。2人のタイミングが噛み合わなくて、本当に歯がゆいです。
――この役を演じるにあたって、芯になるような大切な部分はどのようなところになりそうですか。
矢島 まずは、もっちゃんが大好きっていう気持ち。これが大前提ですね。あとはその都度、周りの方からもらって演じていくことになると思います。どれだけの気持ちをもって言ってくれたのかとか、それによって変わってくる。そのひとつひとつで、違う気持ちになったり、違う情景が浮かんだりすると思いますし、毎回そういう違いがあることが舞台の楽しさだとも思うので、毎日発見がありそうな気がしています。
古屋 根本の性格は自分自身とはちょっと違っていて、もっちゃんはもっと明るいんですよね。常に楽しい、がベースにある。その上で、自然さを心掛けたいです。本当に日常であって、このセリフの会話をしたときに、どう思っていて、何を言葉にして、どう動くのか、と言う部分は、宅間さんから常にご指導いただいているので。そこをしっかり考えつつ、いかに自然に演技するのか。お芝居っぽくしたくないんです。そこに向かって、日々頑張っています。
――特に古屋さんは、これまで宅間さん演じてきた役なので、指導にも熱が入っていそうです。
古屋 本当にプレッシャーです。以前の公演には永井大さんが憲太郎役で出ていらしたんですけど、ずっと永井さんは「いつかもっちゃんやりたい」って言っていたそうなんです。それを宅間さんから聞いてしまって、先日、永井さんが稽古場にも顔を出してくださったんですが、少し気まずくて…。だからこそ死ぬ気でやらないと、って思っています。物語の中で、もっちゃんは中心にいる役なので、それだけの存在感をしっかりと出せるようにしたいですね。
――稽古場の雰囲気はいかがですか。宅間さんの個性が光るようなエピソードがありましたら教えてください。
矢島 宅間さんって、演者にしっかりと考える時間をくださるんです。ここまで時間をかけてくれることって割と珍しいというか、ワークショップのような感じもあって、すごく面白いです。なんで今の私はこう動いたんだろうとか、どういう気持ちになったからここで1歩前に出たんだな、とか、ひとつひとつに見つめなおす時間を改めてくださるので、すごく大事なものが詰まっている感じがします。私にだけじゃなく、他のキャストも全員、1人1人にそれをやってくれるので、どんな気持ちでその役がセリフを言っているのか、気付くことも多いんです。私はもう、劇団に入ってみんなで芝居上手くなろうぜ、みたいな感じになってますね(笑)。今後も、そうやって考えるクセが付きそうな気がしています。
古屋 そうそう。本当に成長できそうな感じがするよね。きっかけをたくさんくれるし、気も抜けない。稽古が始まったら、ノンストップな感じです。本当に、宅間さんとかはトイレ休憩とかちゃんと取ってるのかな?ってくらい。楽しい漫談?というか、お話もしてくださいます。稽古は、そのシーンに入る時からセリフを全部入れてから行くのが前提なので、結構頑張って覚えています。でもその方が理解も早い感覚はあるし、稽古のテンポ感がすごくいいんですよね。毎日、作っている実感はあるし、充実しています。
矢島 古屋さんはセリフ量も多いし、いつもイヤホンを付けて覚えてますよね。
古屋 不器用なんですよ。覚えるスピードも人より遅めなので。
矢島 もっちゃんって元気だし、口数も多いから、なんだかんだでアクションが多いんだよね。いろいろ考えることもいっぱいだから。
――ちょっとした隙間時間でも、セリフを覚える時間にしているんですね。
古屋 僕はわりとそうです。やじ(矢島)は人のお芝居をしっかり見て、周りを観察していることが多いんじゃない? それでさりげないフォローとかをしてくれて、本当に気配りができてるんですよ。
矢島 えー! 私にそんなこと感じる?(笑)。
古屋 毎日、見ていて感じますよ。いろんな人に声をかけていて、優しくて、芯が強くて…やじが夕で良かった、って日々思います。
矢島 単純に、いろいろなシーンがあって、稽古の前に後ろでちょっと打ち合わせしよう、っていう感じなんですよ。私に限らず、みんなそれぞれにシーンを作っていって、宅間さんに見せるみたいなところがあるんです。それで「心が動きと合ってないな」みたいに指摘をされて、またみんなで考えて…ってなっているのが多いかな。
――力を合わせて稽古しているんですね。本番が楽しみです! 最後に、公演を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします。
古屋 バブル前くらいの80年代のお話で、本当に青春のカラッとした青春の空気、そして夏の空気が感じられる作品です。名シーンもたくさんあって、たくさん笑えて、たくさん泣ける、とても充実した舞台だと思います。1回目も楽しいけど、2回目はもっと楽しい、そんな作品でもあるので、以前にご覧になった方もぜひ。今回は、長崎でも公演があるので方言で緊張しそうですが、頑張ります!
矢島 日々、みんな稽古を頑張っていますし、みんな前回を越えたいっていう気持ちがあると思っています。以前の作品をご覧になっている方にも、観に来ていただいて「やっぱりいい作品だ」って思ってもらいたいし、キャラクターのそれぞれが複雑な想いを抱えていたりもするので、今日は誰の心に寄り添って観てみようか、っていう楽しみ方もできると思います。80年代のワードも散りばめられていて、世代じゃない方もきっと後で調べたくなったりするはず。いろんな楽しみ方ができる作品です。観て後悔はさせません!
――楽しみにしています! 稽古も頑張ってください。
取材・文:宮崎新之