歌舞伎『刀剣乱舞 東鑑雪魔縁』記者会見レポート

写真左から)松岡亮、尾上松也、尾上菊之丞

写真左から)松岡亮、尾上松也、尾上菊之丞

今夏に東京、福岡、京都の3都市で上演される歌舞伎「刀剣乱舞 東鑑雪魔縁(あずまかがみゆきのみだれ)」の記者会見が都内で行われ、脚本の松岡亮、演出の尾上菊之丞、そして出演と演出を担う尾上松也の3人が登壇した。

本作は人気ゲーム「刀剣乱舞 ONLINE」を原案とした歌舞伎作品の第2弾。2023年の第1弾では16世紀に起こった永禄の変にまつわるオリジナルストーリーを展開し、歌舞伎ファン以外にも大きな反響を得ている。今回は鎌倉時代の源実朝暗殺事件を題材に物語が描かれるという。

脚本の松岡は「前作に負けない作品を松也さん、菊之丞先生と一緒に作りあげていきたい」と意気込み、「ただ歴史通りに事件を描いたのでは飛躍がありません。歌舞伎ならではの物語の飛躍がありますので、ぜひ実際の舞台でお楽しみいただきたい」と、本作ならではの物語が展開することを匂わせた。

そして菊之丞も「前作に引き続き、松也さんと一緒に演出と振付をさせていただきます。今回はお芝居だけでなく、最後に大喜利所作事ということで踊りがつくようになっていますので、私も楽しみ」とあいさつ。大喜利所作事は「舞競花刀剣男士(まいきそうはなのつわもの)」と題し、「踊りと言うものはキャラクターによって動き方が変わります。同じ振りであっても衣装や年齢、性別が違えば表現が変わるので、舞踊家として、振付師として、刀剣男士に踊らせてみたいという欲が生まれました」と、その魅力についてコメント。「鎌倉の物語とは別に考えておりまして、踊りの競い合い…すごくライトに言えばパーティなんでございます」と、華やかなステージを約束した。

松也は「実は1作目の企画の頃からシリーズとして何作も作れるようなものにしたいと思っていましたので、第2弾ができますことを嬉しく思っています」と感慨深げに語り、「前作に負けないように、また新たな形で歌舞伎の幅や魅力を知っていただけるようにできれば」と誓った。また、本作から尾上左近、中村歌昇、中村獅童の3人が「新たな刀剣男士のキャラクターとして登場する」と見どころをアピール。そして「先ほど菊之丞さんもおっしゃった通り、1作目では舞踊の場面がわずかだったのですが、今回は思い切って舞踊をしっかりと別立てでやらせていただきます」と前回とは違った見どころがあると紹介した。

松也は今回、前回演じた三日月宗近だけではなく、羅刹微塵の2役を演じるという。羅刹微塵は今作オリジナルの悪役となり「(羅刹微塵が)ラスボスというのか何なのか、僕らもよくわかっていないですけど(笑)、悪役だけではなく、各エピソードに歌舞伎ならではのキャラクターが増えていくといいなと思いながら作っています」と、オリジナルキャラクターへの思いを言葉にした。その上で、「第2弾で終わらせるつもりはありません」と明言。第3弾、第4弾に向けて「いくつかの伏線も考えたりしています」とさまざまな構想を練っていると明かした。

「刀剣乱舞 東鑑雪魔縁」は、新橋演舞場にて7月5日(土)~27日(日)、福岡・博多座にて8月5日(火)~11日(月・祝)、京都・南座にて8月15日(金)~26日(火)まで上演される。

その他、尾上松也の質疑応答など主なコメントは以下の通り。

――前回、初めて歌舞伎を見たファンも多かったのでは?

松也 とても嬉しいですね。僕の耳にも届いています。新作を作るにあたっては、新作を通して歌舞伎を知っていただいて、その魅力を知っていただいて、他の演目も観てみたいと思ってもらえるのが理想。そういう形で歌舞伎人口が増えていくことは、この刀剣乱舞で新作を手がけた甲斐があるし、ひとつの裏テーマでもあるので、とてもありがたいことです。

――歌舞伎と刀剣乱舞の相性のよさは?

松也 扱っている大きなテーマが歴史であるということですね。基本的には、歴史を基に脚色して作っているものが古典には多いわけですし、その時点でリンク性があって作り甲斐があると感じていました。(「刀剣乱舞」の)キャラクターには洋装もたくさんいますが、歌舞伎にインスピレーションを受けて作られている刀剣男士もたくさんいるので、シンパシーもありましたね。原作だけでなく、2.5次元舞台を拝見していると、アナログに作ってらっしゃる作品も結構多かったので、こういう見せ方もできるんだ、していいんだと、歌舞伎化への意欲が湧いてきました。キャラクター造形については、和装については苦労なく形にできるのですが、洋装をどのように歌舞伎に落とし込んでいくのかはいつも大変です。だからこそ非常にテンションが上がると言うか、どう料理してあげようか、と楽しんでいるところでもあります。

――新しいお客さんにも常連のお客さんにも届ける、今作での工夫は?

松也 どちらに対しても、いい意味の裏切りというものがないと、と思っています。前作では、予想とは違うけど、馴染みがあったり、懐かしさを感じたり、心地よかったり、というところを目指していました。今回もその方向性は変えずに
歌舞伎の持っている力、幅に挑戦していきたいし、お客さまに観ていただきたい。宝塚歌劇でも物語があってショーがあるという形がありますが、歌舞伎も歌舞伎というジャンルの中にいろいろなものがあって、そこにいわゆるダンスと言う見せ方もある。いろいろな選択肢を混ぜて、歌舞伎の底力、良さを作品構成としても見せていきたいという意図はあります。

――羅刹微塵についてもう少し教えてください

松也 羅刹微塵という存在は、我々の中でもちょっと謎が多いキャラクターでして、彼が一体何者なのか、本当は何なのか、どんなかかわりが誰とあるのかは、まだまだ謎。ただ、この歌舞伎としての刀剣乱舞は第2弾で終わるつもりはございませんので、そういう意味でも壮大なキャラクターになる可能性は十分に秘めている気がします。いろんな考察をしていただいて、楽しんでいただけたら。

――前回初めて演出を手掛けたことについて、その難しさなど手ごたえは?

松也 ゼロからスタートしたところから関わっていて、何年もかけてそれが形になっていくという経験はなかったんですが、自分がやりたいこと、みせたいことをワクワクしながら形にしていくのは楽しかったです。けど、実際にそれが皆さんにどう見えるのか、評価されるのか、というところに至るまでは、難しかったというよりも、怖かったところですね。自分が信じてきたものが間違ってなかったのかを見定めるまでが、一番難しかったです。蓋を開けてみたときに、ファンのみなさんにも好評で楽しんでいただいていることには、自分が純粋に楽しい、ワクワクすると思ったところを多くの人に共感していただけるとわかりましたし、自信にもつながりました。第2弾をやるにおいて、思い切って大胆にやれるステップにもなったと思います。どうしてもやりたいことは、みんなで動くと何かができるような気もしています。決してあきらめずに、みんなで作っていきたいと思います。

――新たに加わる3人についての印象は?

松也 ビジュアル解禁のときはすごくワクワクしていました。それもおかげさまで皆さんに好評でした。左近くんと歌昇くんに関しては、以前お会いしたときに「ぜひ出たい」と言ってくれていて、それはすごく嬉しかったですね。特に左近くんはこういった新作に出るのは初めてとのことで、それを経験したいという意欲をもって来てくれていることが本当にありがたいし、頼もしいなというところです。折角来てもらうからには、ただただ楽しんでいただきたいですね。今後の役者人生を歩む中で、いい影響を与えられる現場になればと思います。歌昇くんについては、最近は歌舞伎じゃない舞台を演出されるなど意欲的になっていて、一緒にクリエイティブにできることが楽しみ。浅草歌舞伎でご一緒していましたが、新作を一緒に作っていくのはもちろん初めてですから、それがどういうふうになるのか楽しみです。獅童さんは、僕がこうやって新作を作るようになりたいと思うきっかけを作ってくれた先輩です。獅童さんがお若い頃に、いつかやったほうがいい、とアドバイスをいただいていたことがずっと頭にあって、こういう企画が生まれたというところもあるので、非常に感謝しています。前回は声で参加していただいたんですが、ある種の恩返しという意味でも、僕がやらせていただく作品には出ていただきたいというのが夢でしたので、今回は非常に光栄です。でも、刀剣男士の中では比較的”ご年配”ですね…なるべく負担のないようにしてあげたいです(笑)

――時代背景の選択について、決め手は?

松也 次の作品をやる時は三日月宗近とはまた違う縁のある時代がいいと思っていました。それで前作をやっているときから、なんとなく髭切・膝丸がいいなと思っていまして、源氏に縁があるので、その歴史のポイントがあったらそこで扱ってみたいと思って考えました。真っ先に浮かんだのが、この時代でしたね。僕もドラマ「鎌倉殿の13人」という作品で少しご縁を感じましたし、あの時代の面白さも感じていましたので、そういう影響もあって今回のようになりました。

取材・文/宮崎新之
写真/ローチケ演劇部