歌舞伎町大歌舞伎『獨道中五十三驛』開幕レポート

今から199年前、1827年に初演された四世鶴屋南北作の『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』。東海道五十三次を、通常の起点とは逆に“京三条大橋”から出発し“江戸日本橋”に向かって五十三の宿場を舞台にしながら、仇討を主軸に進行していく物語だ。永らく上演が途絶えていたこの作品を1981年に三世市川猿之助(二世市川猿翁)が復活上演させ、それ以降は澤瀉屋所縁の演目の中でもたびたび上演されてきた人気作でもある。“三代猿之助四十八撰”のひとつにもなっている今作が、2年ぶりの<歌舞伎町大歌舞伎>第二弾として、THEATER MILANO-Zaにて5/3に初日の幕を開けた。
今回は市川中車、市川團子、さらには市川笑也、市川笑三郎、市川寿猿、市川青虎ら澤瀉屋一門による歌舞伎と、古典歌舞伎を現代語で読み上げる朗読劇である<こえかぶ>とのコラボレーションという、斬新なスタイルでの上演となる。序幕の“京三条大橋”から二幕目の『岡崎無量寺』に繋がるまでと、三幕目の“掛川”から“箱根大滝”までを<こえかぶ>パートとして人気声優たちが日替りで登場し、語る。この顔ぶれが実に豪華。参考までに出演日順に挙げておくと、置鮎龍太郎、福山潤、細谷佳正、小林裕介、内田直哉、櫻井孝宏、石谷春貴、蒼井翔太、野島健児、山口勝平、速水奨、内田夕夜、東地宏樹、関智一、岡本信彦、森久保祥太郎、吉野裕行という、17名の声のプロフェッショナルたちがそれぞれの個性を発揮しつつ、さまざまな登場人物を一人語りで演じ分けていく。そして澤瀉屋一門の歌舞伎パートでは二幕目の『岡崎無量寺』の古寺に現れる化け猫が題材となった物語で、その化け猫に扮する中車はTHEATER MILANO-Za初の宙乗りを、さらに大詰では常磐津を用いた舞踊『写書東驛路』で、團子はなんと十三役の早替りを、親子揃って初挑戦することも大きな話題だ。
大好評だった初日開幕を終えた翌日の舞台を観劇、その模様をレポートする。
化け猫だけでなく巨大な蛸や鯨と闘う場面なども描かれている、カラフルで眺めているだけでもワクワクしてくる楽しい幕が開くと、そこには定式幕の前に一人座る團子の姿が。『獨道中五十三驛』という演目の成り立ちや今回<こえかぶ>とのコラボレーションであることなどを説明した上で「かしこまらず大いに笑ったり拍手したりしながら、客席から舞台へ向けてエネルギーを送ってほしい」とアツく真摯に口上を述べると、いよいよ物語が開幕。
まずは<こえかぶ>による序幕からスタート。この日の日替り出演者は置鮎龍太郎で、和服で落ち着いた雰囲気を漂わせつつ、主人公にあたる丹波与八郎はもちろん、その父や敵役だけでなく、恋人の姫君や町人などなど、さまざまな役を時にはシリアス、重厚に、またはコミカルに、さらには可憐にと演じ分けることで、このちょっと不思議でドラマティックな物語世界へと観客を誘っていく。当然のことながら世界観としては歌舞伎なのだが、台詞や語りはほぼ現代語を使っている為にとても聞きやすく、多少複雑な人間関係やあらすじを把握しやすい。アクションシーンの盛り上げ方や情景描写も巧みで、一般的な朗読劇とも一味違う面白さがあり、この<こえかぶ>は一種の発明のようにも感じた。とにかく日替りで登場する17人全員が“いい声”であることは間違いないのだが、この物語進行具合は人によってどこまで印象が変わるものなのか興味が湧き、他の声優とも聞き比べてみたくなった。
二幕目の『岡崎無量寺』の場では、花道代わりに客席通路を使ったり、場面転換中に客いじりがあったりと笑いもたっぷりで(ちなみに道中では“五十三次もの”と言えば……というキャラクターである弥次さん喜多さんも現れ、物語の鍵となるアイテムに絡んだりするところも要注目)、スプラッタありスペクタクルありの、コワ面白い展開に客席のテンションも上がるいっぽう。中車は初めての老婆役、化け猫役を見事に怪演、特に正体を見られた時に発する声の凄味に圧倒され、さらに十二単をまとった化け猫姿で歌舞伎座よりも高さのある約12メートル上空での宙乗りのダイナミックさには心躍った。
一方、團子は終盤、大詰の場を演じる前にも“口上”として再び登場し、このあと自らが演じる役を読み上げてよりわかりやすく見どころを紹介。クライマックスに向けて澤瀉屋一門も一丸となり、團子の今回の挑戦をがっちりと支えている。なにせ十三役ともなれば、男から女へ、女から男へとの変身があるだけでなく、女から女へ、男から男へと別人に変わる瞬間もあるわけで、その点では声色や演技の微妙な差異を観察できるというのも一興だ。團子は手足が長くて爽やかな色気があり、立廻りの身のこなしなどにも華があってその将来が一段と楽しみにもなった。


“すごろくのあがり”とも言える『江戸日本橋の場』まで、ちょっとした旅気分も味わえてしまいそうな約3時間。歌舞伎ファンは人気声優たちによる声の妙技を、アニメファンは歌舞伎ならではの宙乗りと早替りなどのケレン、スペクタクルとしての楽しさを、それぞれの視点から新鮮な刺激として受け取るはず。歌舞伎町で繰り広げられる、今この時代にここでしか目撃できない大胆かつ挑戦的な文化のコラボを、ぜひとも体験してみてほしい。

※「澤瀉屋」の「瀉」のつくりは、正しくは“わかんむり”です

取材・文:田中里津子
撮影:細野晋司