かなりの再現度になると菊之助が太鼓判! 新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』
1982年に原作漫画の連載が始まり、1984年の映画化後も、足かけ13年間描き続けた宮崎駿監督の代表作『風の谷のナウシカ』が12月、新作歌舞伎として新橋演舞場で上演される。企画に携わりつつ、主人公ナウシカを演じるのは、その美しさ、演技力にますます磨きがかかる尾上菊之助だ。約5年前から準備してきたという菊之助は、「私もジブリ作品ファンのひとりとして、宮崎駿監督、鈴木敏夫プロデューサーから歌舞伎舞台化をご了承いただいた時には本当に興奮しました」と、目を輝かせる。
菊之助「宮崎監督からは題名さえ変えなければどのようにやっても構いません、というお言葉もいただきまして。逆にプレッシャーを感じ、絶対に原作の世界観を大事にしなければ!と強く思いました」
原作は全7巻で、今回はこの全体を歌舞伎舞台化し、昼の部、夜の部を通して完全上演する。
菊之助「舞台となるのは高度な文明が「火の七日間」によって滅んでから千年後の地球。環境問題、エネルギー資源や核、遺伝子操作の問題……。原作が描かれたのは日本がバブル景気に突入していく80年代だったのですが、時は流れ2019年になった今、原作の世界観に現実の世界が追いついてきたような印象があります」
気になる点はやはり衣裳や音楽は、そして王蟲や巨神兵の表現方法はどうなるのか……?
菊之助「すべて漫画通りとはいきませんが、まず衣裳に関してはパッと見て、ナウシカだよね、クシャナだよねとお客様にすぐわかっていただけるよう、原作に寄り添いたいです。音楽は、古典歌舞伎の黒御簾音楽をベースに、映画の曲も一部、和楽器の編成で演奏させていただく予定です。王蟲や巨神兵も、あくまでも古典の技法で表現する予定です。歌舞伎にもキツネやイノシシなどいろいろな生き物が登場しますので、その延長線上で考えています。かなり大きなものになるので、劇場に入るかが心配です(笑)」またジブリ作品といえば飛翔シーンだが、歌舞伎には“宙乗り”という技術が古くからある。
菊之助「やはりナウシカが乗る“メーヴェ”は、この作品の象徴のひとつですから、もちろん宙乗りの場面で、メーヴェも出そうと思っています」
ジブリ映画の脚本を多数手掛ける丹羽圭子が脚本を、歌舞伎演出の経験を持ち、原作をよく知るG2が演出を担当するというのも心強いと語る菊之助。さらに、ナウシカと相対する立場のクシャナに中村七之助が扮するほか人気と実力を兼ね備える面々が揃うことも大いに注目を集めそうだ。
菊之助「丹羽さんには、ともに脚本を手がける松竹芸文室の戸部和久さんとともに、歌舞伎のエッセンスとジブリのエッセンスがうまく融合した脚本を書いていただきました。かなりの再現度だと思います。七之助さんには前回の新作歌舞伎『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』でもお力添えをいただいていますし、気心知れる仲間にも力を貸してもらえることに、とても安心感を抱いています」
これまで歌舞伎鑑賞は敷居が高いと感じていた層にも響く、革新的な舞台が期待できそうだ。
菊之助「『風の谷のナウシカ』を通して歌舞伎を感じていただきたいです。原作のあらすじを押さえておけば、はじめての方でもきっとお楽しみいただけますので、ぜひ新橋演舞場へお越しください」
インタビュー・文/田中里津子
Photo/篠塚ようこ
※構成/月刊ローチケ編集部 10月15日号より転載
※写真は本誌とは異なります
掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
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【プロフィール】
尾上菊之助
■オノエ キクノスケ ’84年2月、歌舞伎座『絵本牛若丸』の牛若丸で六代目尾上丑之助を名乗り初舞台。’96年5月歌舞伎座『弁天娘女男白浪』の弁天小僧菊之助ほかで五代目尾上菊之助を襲名。