中村勘九郎・中村七之助が5年ぶり博多座に登場!
『二月花形歌舞伎』中村勘九郎・中村七之助 合同取材会レポ
寒い2月の博多を熱くする、『二月花形歌舞伎』が博多座で間もなく初日を迎える。今回は、中村勘九郎、中村七之助とそして普段から交流の深い、尾上松也の若手が中心。初めて歌舞伎を観る人にもわかりやすいという、楽しみな演目を引っさげての公演だ。ローチケ演劇部は、12月某日、京都にて公演の合い間に取材会を行なった中村勘九郎・中村七之助に見どころと意気込みを伺った。
――お二人は5年ぶりの博多座の登場になります。待ってました!という感じですが…
勘九郎「ずっと来たかったんですよ。『三人連獅子』や『四谷怪談』、父の代わりに勤めた『夏祭浪花鑑』など、博多座さんには思い出がたくさんあります。早く博多座で芝居をしたかった。うれしいですね」
七之助「(しばらく)出てないなーというのがありまして、常に出たい、出たいと申しておりました。プライベートでもよく博多に行くので友達が多いのですが、みんなから『なんで来てくれないの?』っていわれてました。そういう矢先、5年ぶりに来られることになりました。しかも若手です。ずっと、若手でやったらいいんじゃないかと提案し続けていたので、うれしいですね」
――今回かける演目にあたっては、わかりやすいものを!とまず考えられたとか?
七之助「もちろん、歌舞伎にはちょっと難しくても素晴らしいものはいっぱいあるんです。でもそういったところからではなく、わかりやすいところから歌舞伎を知って頂こうと。博多は “山笠 ”(7月に開催される博多の祭り)に命をかけている熱い街でございますので、お祭り気分というか、楽しく、かつ素敵な作品を並べたいと思って選びました」
――昼の部の『お染(そめ)の七役(ななやく)』は、文字通り、七之助さんが一人七役をこなすという演目です。内容もさることながら、娘役から芸者、奥女中など七つの役を一人が演じ分けるという、歌舞伎ならではの醍醐味があります。
七之助「どの役もすごく難しいですが、基盤となる”お染”をしっかり演じたいですね。今回は台本も少し書き換えていて、前半はほとんど新作です。これが世に出るのは博多座が初めてですから、”お染の七役”を観たことがある方もそうでない方にも、楽しみにしてもらいたいです」
勘九郎「台本が変わって、お家騒動のあたりが、わかりやすいようになると思います」
七之助「うちの兄も早替わりをします」
勘九郎「えっ?!」
七之助「だから、早替わり合戦」
勘九郎「今初めて聞いた…」
七之助「同じ演目で二人の役者が早替わりするというのはなかなかないので、面白いと思います」
(ここで「顔の色はどうするんですか」と、驚いた様子の勘九郎が七之助に小声で化粧について質問。「大丈夫だから」と七之助。そんな二人のやり取りに笑いが起きる場面も)
――夜の部の『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』は、三島由紀夫の歌舞伎作品。六世中村歌右衛門とお祖父様の十七世中村勘三郎が初演をし、のちにお父様である十八世中村勘三郎さんと坂東玉三郎さんのお二人のコンビでも、大変話題をよんだ作品ですね。
勘九郎「ファンタジーありの、逆シンデレラストーリーというかハッピーエンドの作品です。この作品について父から何かを習ったことはありませんが、子どもの頃からこの芝居は観ていました。父と玉三郎のおじさまがおしゃべりをしながら仲良く楽屋に帰ってくる、可愛らしい様子をよく覚えています。芝居が終わってからも二人の世界が続いているという、素敵な思い出があります。チャーミングさが必要とされる舞台ですね」
――夜昼の部は幕末の薩摩藩が舞台の『磯異人館』。もとは昭和62年(1987年)の初演で、十八世中村勘三郎さん(当時は五代目中村勘九郎)が主演した舞台。こちらも勘九郎さんと七之助さんが受け継ぎ、過去に博多座でも上演されました。今回は中村橋之助さんが岡野精之介という主人公を勤めます。見どころを改めて伺えますか?
勘九郎「岡野精之介は薩摩切子を作っているガラス職人で、とても魅力的な青年。琉球王女との恋や友情についても描かれます。大河ドラマの主人公にはなりにくいですが、命とプライドをかけて生きた。私がとても好きな青年で、好きな芝居です。今まで中村屋でしか演じていないのですが、今回、橋之助が演じたいといってくれたのはうれしいですよ。いろんな精之介像が生まれ、そうやって古典になっていくのですから。しっかり演じてほしいですね。期待しています」
――夜の部では平知盛を尾上松也さんが演じる『義経千本桜 渡海屋・大物浦』も楽しみです。フィナーレが特に印象に残る作品。お二人は鎌倉方の家来・相模五郎役と、平知盛の敵である源義経役で出演されますね。
七之助「義経は何度か演じせていただいております。格式高く、憂いがありつつも凛としたところをもった武将です。そういうところを出していきたいですね」
勘九郎「時代物には美しいものが残っています。ほろびの美学をしっかりお見せしたいです。知盛役の松也が最後に碇を持ち上げて海に入水しますが、そこを壮絶に美しくするためには、(脇を固める)私たちが一生懸命やらないと」
――この作品に限らず、普段から仲の良い三人。息の合ったところが見られそうですね。
勘九郎「弟を除いたら、同世代の役者は(尾上)松也しかいない。子供のころから知ってる仲です。彼は大変ですよ。全部の演目に出ていますからね(笑)」
七之助「僕は最初は『お染(そめ)の七役(ななやく)』と『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』だけだったんです。ある時楽屋が一緒のときに彼から「義経出てくれる?」といわれて、「あ、もちろん」と。それで決まったぐらい。それぐらい仲が良いです」
――最後に福岡・九州のみなさんにメッセージをお願いします!
七之助「私たちが浅草公会堂でやっていた、新春浅草歌舞伎を初めて呼んでくださったのが博多座さんでした。とてもうれしかったし、そのご恩は忘れません。役者のやる気が伝われば、博多のお客様も絶対ついてきてくれると思っています」
勘九郎「自信をもって提供できるものをやります。楽しんで帰っていってください」
七之助「表面的にわかりやすいというだけではありません。情愛の深いものを受け取って、楽しんでいただければ。他のお客様にご迷惑になってはいけませんが、どんどん騒いでいただいて。若手が多いので怒られませんから(笑)」
勘九郎「出ていただく先輩方はみんな寛容な方ばかりです(笑)」
本作は、いよいよ博多座にて2月2日(金)より上演開始。熱のこもった舞台は話題沸騰となり、きっとひと足早く博多に春を連れて来てくれることだろう。
取材・文:山本陽子