10/21(水)・22(木)2日間限りのスペシャル企画公演『ザ・グレイト文楽』が大阪・国立文楽劇場で開催が決定。この道30年の人形遣い・吉田簑紫郎(よしだみのしろう)さんへのインタビュー後編です。
――文楽の世界に入ってくる方の年齢はどのくらいの方が多いのでしょうか。
「大体20歳前後ですね。僕は中卒でこの世界に入ったのですが、僕の後輩に桐竹勘介がいるんですけど中卒かつ研修生じゃない入り方した人は僕以来20年ぶりなんです。みなさん高校行ってからという人が多いですね。人形遣いは足遣いから始め、子役であったり、斬られてすぐ死ぬ脇役であったりだとか、一人で扱うツメ人形というものがあるんですけど、それを持ちながら主遣いになるための下積みをしていきます。そうやって20年、30年かけて主遣いになるという流れです」
――20年を長いと感じたことはありますか。
「やっぱりありますね。僕は下の世代が入ってこなかった時期があったので、足遣い21年しましたが、今だから言えますけど、腐った時期もありましたね。でもその年月の甲斐あってほとんどの芝居を舞台につきっきりだったことだったりして、覚えることができました。そういう得した部分があったので、今になってからこそ分かる良い修行、財産になったなとは思いますね」――そのくらいの期間かけないと一人前になれる世界ではないということですか。
「そうですね。自分にはそれしかないという思いもあったのでやり続けていてよかったなと思います」
――今回の公演『ザ・グレイト文楽』では日本の四季をイメージした舞踊4部作『花競四季寿(はなくらべしきのことぶき)』が上演されます。お話を聞いた時の第一印象はいかがでしたか。
「演目は国外にも発信するということで日本の四季を世界の方に、1時間くらいで四季を感じてもらえる良い演目だなと思いました。やっぱり『花競四季寿』は大夫・三味線・人形遣い三業ともベテランの方も交えないと成り立たないお芝居なので、桐竹勘十郎さん筆頭ということもあって、すごく楽しみにしています!テンション上がります。」
――コロナ禍で休止していた国立文楽劇場での上演ですが、吉田簑紫郎さんは何ヶ月ぶりに出演されるのでしょうか。
「僕も、みなさんも国立文楽劇場は初春公演ぶりですね。年内は劇場に立つのは無理だと思っていたのですが、今回の再開で日常が徐々に戻っていくんだという期待と、慣れ親しんだ舞台に本公演前に立たせてもらえる、というのは特別な思いがありますね」――今回の『ザ・グレイト文楽』の見どころはどのようなところにあるのでしょうか。
「『花競四季寿』は日本の春夏秋冬を『万才』『海女』『関寺小町』『鷺娘』というそれぞれ対応した四場で構成されています。僕も『海女』『鷺娘』を初役で出演させてもらっていますが、桐竹勘十郎さんも『関寺小町』に初役で出演されているところですね。勘十郎さんも初役で出ることに僕自身も驚きでした。左遣い、足遣いも初めての経験ばかり。なにもかもが初めてなんですよ。出演者みんなが挑戦、本公演より2つ3つ先のことに挑戦できる、これまでに見られないような配役のなので、いつも見にきてくれている観客の方には新鮮に見えると思います。本公演とは違った空気感を感じてもらえたら。今回初めての方にも、その新鮮な雰囲気が伝わるように頑張りたいなと思っています」
――桐竹勘十郎さんも初役ということですが、ベテランの方が演じる違いがあるのでしょうか。
「『関寺小町』は僕みたいな若手では、役にならないんです。『花競四季寿』の中でも『関寺小町』から『鷺娘』に入る場面が一番印象に残る場面なんですね。勘十郎さんの作り出す愁いを帯びた空気感から、華やかな場面へと移り変わる様にメリハリがないと完成されたものができない。そういう意味で今回、勘十郎さんに入ってもらわないと演劇として成り立たないなとは思います。僕の経験値ではそれができない、やったとしてもそういう風には見えないという部分があって、勘十郎さんに入ってもらって、勘十郎さんの持つ深みが舞台をより一層引き締めると思いますね」――国立文楽劇場で演じる意味とはどのようなものでしょうか。
「本拠地・大阪で演じられる嬉しさ、楽しみな気持ちが入りますね。9月に東京国立劇場で再開したときにも同じ気持ちがありましたが、戻ってきた、という気持ちですね。今回の演目は、舞台装置も春夏秋冬の転換があって大道具さんも舞台転換が大変なんです。文楽のために作られた国立文楽劇場だからこそ出来る舞台装置の設置もあるので、そういう意味でも、贅沢な公演を条件の揃ったなかで演じさせてもらえるというのはありがたいですね」
――最後に今回の『ザ・グレイト文楽』の意気込みを教えてください。
「みんなが初役なので、初めてだからこその新鮮さを感じていただけるものをお届けしたいです。また今年はコロナでお家にいた方が多かったと思うので、せめて舞台で春夏秋冬を感じていただけたら良いかなと思います。」
――ありがとうございます。『ザ・グレイト文楽』楽しみにしています!
取材・文=さくらいけんたろう