古典を新しい感覚で
2015年から始まった六本木歌舞伎。今回は『ハナゾチル』(『青砥稿花紅彩画』より)。六本木歌舞伎では初めて古典を題材とする。共演する戸塚祥太への期待も交えながら、市川海老蔵が開幕への思いを語った。
――今回の六本木歌舞伎は、『青砥稿花紅彩画』を題材にされます。通称『白浪五人男』で知られるこの演目を選ばれた理由からお聞かせください。
「六本木歌舞伎はこれまで比較的新しいことをしてきました。第1弾は宮藤官九郎さんに脚本を書いていただいた『地球投五郎宇宙荒事』。第2弾がリリー・フランキーさんの新解釈で描いていただいた『座頭市』。第3弾は芥川龍之介の『羅生門』を歌舞伎にしました。もちろん新しい挑戦は大事なことですが、一方で古典の演目も尊重すべきものですから、今回は、古典を新しい角度で楽しんでいただけるような試みをしてみようと思い、『白浪五人男』を選びました。何しろ、『ゴレンジャー』などの戦隊モノの元になったのが『白浪五人男』だと言われているくらい、古くから多くの人に親しまれてきた演目ですから。」
――それを『ハナゾチル』というタイトルにされたのは?
「『白浪五人男』の、悪の花を咲かせて生きている男たちの姿を、寄せては引いていく波になぞらえて『白波』とし、潔さとか儚さの表現を今回は桜の花になぞらえてみました。散ることを知りながら咲くことを恐れない桜が、『白浪五人男』の時代の若者たちの生きざまに似ていると思い、『ハナゾチル』としたわけです。」
――そして、今回ご一緒されるのが、A.B.C-Zの戸塚祥太さんです。どんな役どころを務められるのでしょうか。
「戸塚さんには二役演じていただきます。まず戸塚さんご本人として登場し、現代から『白浪五人男』の時代にタイムリープしてきます。そこで、その時代の人々とコミュニケーションを取り、当時の若者たちが持っていたポテンシャルや心構えを現代に持ち帰るといったお話になる予定です。また、その時代の役でも登場します。こちらは、五人男の内の私が演じる弁天小僧菊之助がゆすりたかりに行く呉服店・浜松屋の跡取りの宗之助。最初に戸塚さんとして登場するので、ファンの方々もストーリーに入っていきやすく、古典作品も面白いと思っていただけるのではないかと思っています。」
――戸塚さんに期待することは?
「身体能力の高さを活かして、パルクールのようなこともやってほしいなと思っています。まだご本人にはお話していませんが(笑)、アクロバットの要素を作品に入れていけたらと考えています。」
――これまでも、前回の『羅生門』に三宅健さんが出演されたり、2017年「ABKAI」に中山優馬さん、2019年「ABKAI」にSnow Manの宮舘涼太さん、阿部亮平さんが出演されるなど、ジャニーズ事務所の方々との共演を経験されてきました。皆さんに共通する強みを感じられたりしますか。
「ジャニーズ事務所の皆さんは情熱があり、あきらめないといつも思います。歌舞伎には独特な演出方法もありますから、やはりすぐにはできないこともあるんです。でも、皆さんあきらめない。稽古が終わったあとも残って稽古をしたり、どこを直せばいいのか聞いてこられたり、何十回も稽古を重ねていかれる。その姿には胸を打たれますね。」
――また、これまでの六本木歌舞伎は三池崇史監督が演出をされてきました。三池監督と仕事を重ねてきてどんな刺激を受けられたでしょうか。
「監督が映画を撮る目的は、お客様や映画、ご自分のためだけでなく、スタッフの方々のためでもあるとおっしゃるんです。撮影が終わって家に帰ったときに『今日もいい仕事をしたな』とスタッフの方々が思えるような現場でありたいんだと。強面ですが(笑)、いつも周囲を気遣って下さる方です。監督の作品は、どちらかというと暴力が出てくる作品が多いですが、映像からしっかりと人の痛みが伝わってくるのは、監督がやさしい方だからなのだと、改めて気づきました。今回の『白浪五人男』も今で言ういわゆる不良の話です。監督の作品には『クローズZERO』という映画もありますので、そのような点でもアドバイスをいただけるのではないかと思っています。」
――今回は、その三池監督が監修として入られ、演出は日本舞踊の宗家藤間流八世宗家で舞踊・振付・演出と幅広く活躍されている藤間勘十郎さんが務められます。さらにどんな魅力が加わりそうでしょうか。
「勘十郎さんとは、もう10年以上一緒にお仕事をしてます。非常に音楽的センスが素晴らしい方です。さらに、近年は宝塚歌劇など歌舞伎以外の作品の演出もされていて、この脚本からどういう世界観を作ろうかという独自の世界観をお持ちなので、とても楽しみにしています。どうしてもこうしたいというところが出てくれば私も稽古で言うかもしれませんが(笑)。」
――最後に、海老蔵さんご自身の見どころもぜひ!
「弁天小僧菊之助としてはやはり、女性(女装姿)から男性になるところですね。女性のふりをして浜松屋にゆすりに入ったものの男性と見破られ、『知らざぁ言って聞かせやしょう』と正体を現す、有名な場面です。そして、最後の立廻りは理屈抜きで楽しんでいただけるのではないかと思います。感染対策をしっかり考えた上で、花道を客席に近いところに作れると思うので、歌舞伎らしい臨場感を味わっていただけたらなと思っています。」
取材・文:大内弓子