9月開催『お囃子プロジェクトvol.12』
邦楽囃子演奏家 望月秀幸・望月左太寿郎インタビュー

左:望月左太寿郎、右:望月秀幸

歌舞伎や日本舞踊など、伝統芸能と言われる舞台で活躍する“お囃子”。その邦楽囃子の魅力を、もっと大勢の方に伝えたい!そんな想いを込めて、2010年から邦楽囃子演奏家の望月秀幸と望月左太寿郎が始めた邦楽囃子音楽ライブ『お囃子プロジェクト』が12回目を迎える。

「興味はあるけれど敷居が高い」と思われがちな伝統芸能のイメージを払拭し、ポップス、洋楽、ジャズなど幅広いジャンルの楽曲を取り入れ、若い世代にも気軽に楽しんでもらえるようにと、魅力的な“お囃子エンターテイメント”の世界を展開している二人に話を聞いた。

 

お囃子が主体になって、お客様を喜ばせたい


――『お囃子プロジェクト』を始めようと思ったきっかけを教えてください。

望月秀幸(以下秀幸)「僕たちは歌舞伎よりも日本舞踊で演奏することが多かったんですが、「いつどこに行ったら演奏を聞けるんですか?」と聞かれることが多くて。限られた場所でしか演奏を届けられない、その状況を自分たちで打開していかなくてはいけないと思い、自主活動を始めることにしたんです。僕が古典とは別に、個人的に洋楽器のアーティストと組んでいるバンドがあるんですが、そこで出会った人たちが持っている、邦楽にはない世界観や考え方が刺激的で、一緒に活動することで自分たちのいい経験になるんじゃないかと感じて、初めての公演のときにゲストで来てもらったんです」


――最初の公演では、どんな方とコラボレーションされたのでしょうか。

秀幸「第一回目の公演では、二トロン虎の巻、という、アウトローだけれどとてもハートフルな、ドラムとパーカッション二人編成のバンドを呼んで。
彼らがいつも、「秀ちゃん、音楽はココ(胸を親指で叩く)だよ!」って必ず言うんですが、それがカッコいいな、と思っていて。
僕たちは普段、“先生に認められる音楽”や“舞踊家さんが踊りやすいような演奏”を目指していて、“お客様を喜ばせる演奏”というのをやってきていないので、ライブで何をやっていいのかわからない状態だったんです。お客様と向き合ってきたニトロン虎の巻のお二人の、「ココだよ!」って言っていたパフォーマンスが素晴らしくて、お客様もすごく盛り上がって、「俺たちもあれを目指さなくちゃ!」って思いましたね。そこから、お囃子というものが主体になって、お客様を喜ばすことってできないかな?という考え方になっていったんです。同時に、お囃子や古典、邦楽というものの普及活動にもなるといいな、という想いもあり、このプロジェクトを始めました」

望月左太寿郎(以下左太寿郎)「言いたいことはもうほとんど彼が熱く語ってくれたんですが(笑)、そういった想いから始めたプロジェクトで、古典というベースがあった上でこういう演奏の活動ができるのは僕らの強みかな、と思います」


――実際にライブでは、その“古典”がどのように活かされているのでしょうか。

秀幸「映画の『スターウォーズ』でダース・ベイダーが出てくるときに、必ず流れる曲があるじゃないですか。歌舞伎音楽の世界は、神様が出てくるとき、幽霊や動物が出てくるときはこのお囃子、って決まっているんですね。ケンカのシーンは祭囃子が流れる、とか」

左太寿郎「お芝居の登場人物、意味合いに音楽が付いている、というちょっと変わった構成なんですね」

秀幸「僕はプロレスが好きなので、お囃子とプロレスの曲をミックスしたものを演奏して、「これは僕がプロレスラーは人間じゃない力を持っていると信じているので、ここで神様が出てくるときのお囃子を使いました」っていうと、お客様が笑って喜んでくれるんです」


――お二人はどんな種類の楽器を演奏されるのでしょうか。

秀幸「四拍子と言われる、鼓、大鼓、締め太鼓、笛、の4種類の楽器をメインにしつつ、細かい楽器を加えて使ってみたりもします」

左太寿郎「小鼓は左手で紐の握り具合を調節しながら音を出すんですが、(実演していただきました!)下から上に打つ、打面が見えない、チューニングが難しい、左手を動かす……と、なかなか複雑な楽器なんです。この前ネットで世界で一番難しい楽器は何か調べてみたら、「コンガ」って書いてあったんです。でも、コンガより鼓の方が音を出すのは難しいんじゃないかと思いますね。(実際に取材班が試しに叩いてみると、全く音が響かず!音を鳴らすだけでも相当な技術が要ると実感しました)未だに、“ちゃんとした音”を探し続けている感じです」

秀幸「人間国宝の先生でも、半年ぶりにお会いすると、打ち方が変わっているんです。それぐらいのクラスの方でも、まだ“音”を追求しているんですよね」

左太寿郎「難しいからこそ、おもしろい。そこが魅力でもあるんだと思います」

小鼓はもともと皮と胴の部分が別々。演奏する際に組み立てる。

■プロレスファンも必見のライブ!?


――今回の公演で12回目となります。回を重ねていくごとにどのような変化がありましたか?

左太寿郎「回を重ねるごとに楽曲の完成度は高くなってきていると思います。あと、邦楽の演奏会と違うのは、「拙いトーク」ですね(笑)。拙いながらに自分たちのキャラクターを出してトークをしている、というところがお客様にたのしんでいただいているんだと思います」

秀幸「こういう話し方をすると滑るんだなあ、とか、毎回勉強になります(笑)。プロレスの決めゼリフをお客様と一緒に言うと盛り上がる、とか(笑)」

左太寿郎「最終的にはいつもプロレスネタに持っていかれるんですよね(笑)」

秀幸「最後は毎回古典の曲で終わらせよう、と5回目くらいまでやっていたんですが、プロレスがいちばん盛り上がるので、途中からそっちがメインになりました(笑)」

左太寿郎「古典音楽ってどうしても難しいので、オペラなどもそうですが、勉強してある程度音楽の知識があって初めて楽しめる音楽なので、なかなかその場にパッと気軽に行って「おもしろかった!」っていう感想が出てこないのですが、このプロジェクトに関しては「おもしろかたったね!たのしかったね!」って言ってもらえることが多くて。そう感じてくれたお客様がまた次の公演も観に来てくれる、というのがうれしいですね」

 

――昭和歌謡、ジャズ、ポップスなど様々なジャンルの楽曲を演奏されていますが、一番盛り上がる曲はなんですか?プロレス以外でお願いします(笑)

秀幸「プロレス以外ですと(笑)、やっぱりみなさんが知っている曲、『お祭りマンボ』や、『Born to Be Wild』などを演奏すると盛り上がりますね。
「佃」という、隅田川の川の音を表す三味線のフレーズがあるんですが、それを『Born to Be Wild』にミックスして、ギターの代わりにしてみたり。そういったアレンジはけっこう喜ばれますね。古典を洋楽に寄せない、古典をそのまま使って洋楽とミックスさせることがおもしろいんじゃないかな」

 

――オリジナルの楽曲も作られていらっしゃいますね。

秀幸「作曲に関しては苦悩しかないですね(笑)。逆にアレンジはすぐできるんです。アレンジはある程度の進行を決めてしまえば、あとは他のメンバーたちに相談すればきるので」

左太寿郎「パーカッションの方たちは、邦楽のお稽古をしている経験もあって、邦楽のニュアンスをわかってくださるんですね。彼らが洋楽との掛け橋になってくれるんです。今では何も言わなくてもこちら側の意図を汲んでくれるのでとても心強い存在ですね」

 

――今回、新たに挑戦される楽曲はありますか?

秀幸「新たにやってみようと思っている曲は、『暴れん坊将軍』です。そろそろプロレスの曲をやめてみようか、という流れが我々の中で出てきたのもあって(笑)。あと、『木綿のハンカチ―フ』を和楽器チームと洋楽器チームで分けて交互に演奏しようかな、と考え中です。アンコールの内容は……秘密にしておきます!アンコールは明るい曲で盛り上がっていただけるようにいつも考えているんです」

左太寿郎「今回は邦楽器が僕らだけなので、よりみなさんが親しみのあるポップスや懐メロを中心に、オリジナルの新曲も披露する予定です」

秀幸「個人的に楽しみにしているのが、ウッドベースの田島真佐雄さん。この方、原曲がわからなくなるくらい、すごく攻めてくるんです(笑)。田島さんにも演奏したい曲を一曲提案してもらうので、どんな曲を選ぶのか、とてもワクワクしています」

左太寿郎「あまりにもアグレッシブで、最悪我々囃子隊は参加できない場合もありますね、難易度が高すぎて(笑)」

 

――それでは最後に、お客様へメッセージをお願いします!

左太寿郎「銀座にフラっと遊びに来がてら、気軽な気持ちで『お囃子プロジェクト』を観に来ていただけたらうれしいです」

秀幸「自分たちの世界観を追求するというだけではなくて、邦楽の世界をお客様にたのしんでもらいたい、いろんな情報や知識を提供して、たのしんで帰ってもらえるように頑張っていこうと思っていますので、ぜひ足を運んでいただけたらうれしいです」

 

インタビュー・文/古内かほ
写真/ローソンチケット