MOJO プロジェクト -Musicals of Japan Origin project- ミュージカル『イザボー』|望海風斗&末満健一 インタビュー

望海風斗と末満健一

日本発オリジナルミュージカルにこだわる企画、起ち上げ第1弾がいよいよ発進!!

“百年戦争”の時代、中世フランスで、シャルル六世の妃にして“最悪の王妃”と呼ばれたイザボー・ド・バヴィエール。その強烈なダーク・ヒロインに望海風斗が挑む、日本発のオリジナルミュージカルがいよいよ動き出した。作・演出を手がけるのは、舞台『鬼滅の刃』や『刀剣乱舞』、TRUMPシリーズのミュージカル等で幅広く活躍する末満健一。望海にとってこの作品は、宝塚歌劇団退団後ということでは初めてのオリジナル作品となる。まだ本格的な稽古が始まる前の段階とはいえ、着々と準備は進行中!話題作であり、衝撃作ともなりそうな今作への想いを、末満と望海がアツく、たっぷりと語ってくれた。

――“MOJO(Musicals of Japan Origin、ミュージカル・オブ・ジャパン・オリジン)”という、日本発信のオリジナルミュージカルにこだわるこのプロジェクトの第1弾が『イザボー』になりますので、まずは今回の上演に至るまでのいきさつや狙いなどを教えていただけますか

末満 元々、僕はミュージカル畑の人間ではなく小劇場演劇が出自なのですが、これまでの流れでさまざまなミュージカル作品を手がけてきまして。だけどある時、ニューヨークのブロードウェーまで観に行ったミュージカルのクオリティにうちのめされてしまったんです。自分もそれなりにクオリティの高いものをやっているつもりではいたのですが、レベルの差を痛感しました。自分もいつか、と夢見ていたはずなのに目の前の作品に没頭するあまり忘れていた理想の形があそこにはあったので、やはりもう一度、改めて理想を目指し直したいと決意したんです。だけど振り返ると、日本の国内においてはいまだに輸入ミュージカルが主流なんですよね。若いミュージカル俳優と話をしても将来の目標や夢は大概が『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』に出ることだと言うんです。もちろん、そういう目標となる作品があるのは素晴らしいことだけれども、それと同時にここ20年、30年近くは俳優の目標が変わっていないということにもなるわけで。せっかく日本にもミュージカルという文化が根付いてきたからこそ、ここで新しいミュージカルの価値観を更新したい、と思ったんです。そのために、まず自分のできるところから始めてみようということになりました。

末満健一

――それが、このプロジェクトの起ち上げに繋がった

末満 そうです。だけどそもそもは、このプロジェクトありきでのスタートではなくて。『イザボー』という作品をつくるにあたり、これを1回上演するだけで終わらせるのではダメだ、このチャレンジ、トライアルを連続させて、将来的に発展させたものにしていきたい、それも自分たちだけの内なる目標にするのではなく、お客さんも巻き込んで一緒にこれを育てていきたい、という気持ちになったんです。だから『イザボー』をきっかけにして、この志は誕生したということになりますね。

――“イザボー”という女性、彼女を取り巻く運命に心を奪われたのはどうしてなんですか?

末満 10年近く前、ジャンヌ・ダルクを題材にした作品を取り組んだ時にいろいろ資料を読んでいて、初めてイザボーの存在を知ったんです。ジャンヌ・ダルクが助力して国王にしようとするシャルル7世の実母にあたるのがイザボーで。つまり、ジャンヌは救世主だと言われていますが、救世するからには世が乱れていないといけない。では、その世を乱した人は誰なんだろうと考えると、まあイザボーひとりが世を乱したわけではないんですけど、バックボーンに彼女がいるとわかった時、果たして本当はどんな人だったんだろうととても気になったんです。それで調べてみると、決して良い書かれ方はされていない人だった。その、表層的に評価される彼女の辿った道に、僕は単的に言うとすごく感情移入してしまったんですね。自分のようだ、と思える部分があったというか。僕も学生の頃、特に何も考えていなかったのに「なんであいつはいつもあんな不愉快そうなんだ」と誤解されることが多かったんです。そんなことから、イザボーの内面にすごく興味が湧いてきて。対外的なあの低い評価と、彼女が内包しているものにはきっと差があるはずだ、そしてその差はドラマになりうる、と思ったわけです。

――望海さんは、そのイザボー役のオファーを受けた時、どんなお気持ちだったんでしょうか

望海 まず思ったのは、この作品は宝塚時代にずっと自分がやってきたこと、追い求めてきたものに繋がるなということでした。というのも、退団してから女性役をやるようになり、それまで積み上げてきたものを無駄にするわけではないんだけれど、だけどやはり一度新たな気持ちでスタートし直さないと、という気持ちでここ2年くらいはやってきていたんです。だけどこの『イザボー』をやることになり、さまざまなことを調べるにしたがって、宝塚時代にやってきたことを活かして取り組むことがこの作品ではできるんじゃないかな、という気がしてきまして。これは退団後すぐのタイミングでやるのも違ったでしょうし、この2年間でたくさんの作品をやり、勉強もして、いろいろな人や作品や役柄に出逢ってきた今だからこそ取り組める、すごくいいタイミングのように思えました。決して前の自分に戻るというのではなく、さらにこの先に進む一歩になるはずだと思うととてもワクワクします。それと実は宝塚を辞めてからはオリジナル作品には出ていなかったんです、私。だからそろそろオリジナル作品がやりたいな、という気持ちもありました。

望海風斗

――いろいろな意味で、タイミングが良かったんですね

末満 そしてオリジナル作品を上演するからには、そこに望海さんがやる意味も考えます。在団中に演じたことのある役や、退団してからやられてる役とは重ならないものにしたいし、でもどちらの経験も活かせるキャラクターにもしたい。それでいくつか候補作品をあげてみたら、その場にいたプロデューサー陣の興味を最もひいたものが『イザボー』だったんです。僕としては当初『イザボー』は、かなりダークな物語だったんですけどね。でも望海さんがイザボーを演じるとなった時から、この物語は僕の中ではダークじゃなくなっていた。まあ、だからといって明るい物語になることはないんですけどね(笑)。つまり、ダークなものを突き抜けていく力強さが感じられたんです。望海さんがいることで、物語の方向性、思いもよらない道筋が見えた。自分の中では救いようのない悲劇を追っていくイメージだったものが、その悲劇の中でどう力強く生きるかという、生命力のみなぎる物語になってきたんです。

――そうして台本ができてきて、読んだ時の感想はいかがでしたか?

望海 私も最初は、それこそダークな話を想像していたんです。歴史上の人物ですし、きっとすごく重たい作品になるんだろうと思いながら台本を読んでいたら、途中から「あれ? これはちょっとイメージと違うテイストだ」と思うようになって(笑)。一体、どういう最後になるんだろうと思いつつ読み進めていくと、イザボーと言う人が何をして、どんな悲劇になっていくのかということよりも、この人がどう運命に立ち向かっていくのか、さらにどう前に進んでいくのかという前向きさばかりすごく感じて。読むスピードもどんどん早くなって、一気に読んでいましたね。その直後、お会いしてお話を伺う機会があった時に「重たい悲劇をやるというより、元気になれる悲劇にしたい」なんておっしゃっていて(笑)。

末満 ハハハハ。

――元気になる悲劇、って確かにあまり聞かないですね(笑)

望海 でもそれって、やる側としてはものすごい挑戦にはなりそうだけど、その分やりがいがありそうじゃないですか。悲劇を悲劇として演じるのならその道筋をたどっていけばいいけれど、でもその悲劇をちょっと変えていこうとしたら、生命力とか人間力がないと方向転換していきませんから。だからこれは、大変面白いチャレンジになると思っています。それと、この物語の場合は関わっていく人たちが、自分からどんどん関わっていく人ばかりだというか。相手から何かを受けたことで変わっていくというより、自分からどんどん切り込んでいくところに、すごくエネルギーを感じましたし、そういう人物を演じられることにはすごくワクワク、いや、むしろゾクゾクする感覚があります(笑)。また稽古が始まって音楽が加わり、立体的になったら全然違った印象になるんだろうなとも思うんですよね。きっと、想像もしないところにたどり着きそうです。お客様もおそらくいろいろなことを想像してくださっていると思いますが、たぶんその想像とはまったく違った場所に連れて行かれることを覚悟しておいてほしいですね。

末満 ぜひ、連れて行きたいです(笑)。

――ミュージカルなので、音楽がどういう楽曲になるのかも気になります。ジャンルとかテイスト的にはどういうものになりそうですか。

末満 音楽を担当するのは和田俊輔さんという、僕が長年一緒にやっている方なんですが、これまでは「今回はスイングジャズで」とか「ソンドハイムっぽく」みたいな注文の仕方をしていたんですけど、今回は“オリジナル”をやろうとしているので、それをやるわけにはいかないじゃないですか。だから今回は「ジャンルは“和田俊輔”でいってほしい」というオーダーをしました。

望海 おおー、素敵ですね!

末満 テキストだけ読むと荘厳な悲劇をイメージするけれど、そこにはとらわれずに、内包している部分、底辺を流れる熱さを汲み取ってほしい、と。イザボーの中で常に炎がくすぶっている状態なので、その内燃するエネルギーを表現してほしかったんです。だから「言葉を選ばずに言うと、熱血ものだと思ってください」とも言いました(笑)。和田さんは、そのオーダーを多角的に捉えてくれて。オープニングナンバーは初めて聴いた時にかなりビックリされると思います。「え、こんな感じで来るんだ」と。でも一気に、物語世界に引き込むだけのパワーがあるナンバーになっています。僕なんか、曲が届いた日はもう一日中それを聴き続けましたしね。もう、一刻も早く劇場で聴きたいくらいです。

――まだ稽古も始まっていないというのに(笑)。望海さんは曲を聴かれていかがでしたか?

望海 オープニングの1曲目、2曲目を聴きましたが、確かにまったく想像とは違う楽曲でした。台本を読んだ時は「一体どういう音楽が付くんだろう、きっと普通の音楽ではないんだろうな」と予想していましたが、それ以上の普通じゃないことが起こっていました(笑)。私もあまり触れたことのないジャンルの曲なので、とても新鮮に思っています。みなさん、最初はちょっとポカーンってされそうな気がします。

末満 とにかく一言でいうと、エネルギッシュです。「最悪の王妃」というコピーを書いた僕が、どの口で「エネルギッシュです」なんて言うんだって、自分でも思いますけど(笑)。イザボーは確かに政治的にとても大きく批判をされた人ではあるんですけれど、それに伴う困難とか苦しみばかりを描こうとすると、どうしても今の時代の場合は目の前にある現実において辛いことが多過ぎる。だから、悲劇的な物語がそぐわなくなってきているように思います。私生活の上で起きる困難や苦難や悲しみは対面せざるを得ないし、それを飲み込んで生きていくしかないから。だけど、そんな風に苦しい社会情勢の今だからこそ、苦しみを飲み込みながらも前に進もうとする物語をエネルギッシュに届けることができたら、時代的な価値に結びつくんじゃないかと思うんです。

――今、やる意味が大きくなりますね。そして共演者も、とても豪華な面々が揃いました

末満 しかし、まさかこんなに『ムーランルージュ』のメンバーと重なるとは!とビックリしました。

望海 本当にそうですよね(笑)。だけど、私としてはずっと同じメンバーで舞台を作る環境で育ってきましたので、今はひとつ作品を終えると、次はいつ会えるかわからないまま「じゃあ、また」とお別れするのが実はちょっと淋しかったんです。せっかく長い時間をかけて一緒に作品を作ってきて、ようやくそれぞれのことが理解できるようになったところなのにって。そういう意味では、この『イザボー』には『ムーランルージュ』でご一緒したばかりの方々や『ガイズ&ドールズ』でお世話になっていた方もいますし、甲斐翔真くんに至っては今回3度目の共演になりますからね。こうして一緒に作品づくりができた面々がいてくださることは本当に心強いですし、安心できますし、とても嬉しいです。

末満 カンパニー形成というものは作品づくりにとって大事なポイントになりますから、こうやって座長が安心できる材料が確実にあるということに僕も今、大変ホッとしています(笑)。

――では改めて、お客様へ向けてお誘いのメッセージをいただけますか

望海 とにかく、きっとお客様が「こういうイメージよね?」と想像されたところから、おそらく飛び抜けた世界が舞台上に広がるんじゃないかと思っています。キャストもスタッフも本当に豪華な方々が揃いますし、そのメンバーでオリジナルを作ろうというんですから、とてもエネルギーに溢れた作品になるはずです。たぶん観なかったら後悔する“伝説の初演”になるのではないでしょうか!(笑)。

末満 わざわざ“日本から発信するオリジナルミュージカル”と銘打つからには、観に来てくださるお客さんにも「日本のオリジナルミュージカルもここまで来たんだ!」と思っていただけるものにしなければと強く思いますし、今もまさにキャストさんなり、スタッフさんなり、この神輿を一緒に担ごうとしてくださるみなさんのエネルギーをひしひしと感じているところです。思い切って大きいことを言わせていただくと、日本のミュージカル界の新たな一歩になると思いますから、それをぜひ目撃してほしいですね!

インタビュー・文/田中里津子
Photo/村上宗一郎

★本インタビューは、月刊ローチケ10月15日号にて別バーションの掲載有り!こちらも要チェック!!
※月刊ローチケは毎月15日発行(無料)。ローソン・ミニストップ・HMVにて配布

【プロフィール】

望海風斗
■ノゾミ フウト
宝塚歌劇団雪組トップスターとして活躍。’21年に退団後は舞台やミュージカルを中心に活躍中。

末満健一
■スエミツ ケンイチ
劇作家、演出家。演劇オリジナル作「TRUMPシリーズ」や、舞台『刀剣乱舞』『鬼滅の刃』、アニメ脚本など活動は多岐にわたる。