COCOON PRODUCTION 2023『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』│ノゾエ征爾&竜星涼 インタビュー

物語を受け止め、感じてほしい

2010年に初演されノゾエ征爾の代表作とも言える作品が、多彩なキャストにより再構築して上演される。

ノゾエ 当時、高齢者施設での巡回公演を始めたのですが、なかなか響かなくて。でも試行錯誤をしているうちに、無表情だった観客の顔の筋肉が動いてきて…職員の方が驚くくらい、笑ったり泣いたりしてくれました。それが僕らにもモロに響いて、胸が詰まるような初体験の感激を覚えました。初演の時、心が向かっていた一番の関心がその経験で、あの衝撃を具現化するには?と考えながら稽古していたことを覚えています。

主演を務めるのは、竜星涼。ひょんなことから老婆と奇妙な同居生活をしていく青年を演じる。

竜星 ここ最近は陽気でひょうきんな役が多くて、自分自身もそっちのタイプ。自分とは違うベクトルの青年で、挑戦し甲斐がある役が来たと思いました。舞台をやる時は新たな挑戦が多くて、毎回怖いって思うんです。でも、僕に挑戦させたいと思ってくれたことも縁だし、そういう縁を大事にしたいと思っています。

ノゾエ 僕と息子がキョウリュウジャーのファンだったので、竜星くんとの初対面はミーハー気分でした(笑)。過去何回か上演し、ある程度やり切った感があったので、今回は役と少し摩擦がある人に演じてもらいたかったんです。その摩擦を楽しむ部分がほしかった。そうでないと作品の“進化”と“深化”が難しいと思ったんです。

本作は俳優が壁にチョークで描いていくという斬新な演出も見どころのひとつとなっている。

ノゾエ 稽古では面白いと思ったんだけど、初演開幕の直前に『何でつまらないって、誰も教えてくれなかったの!』と、自信を無くしたりもしました(笑)。結果的にチョークと壁があればできる演劇になっていますが、それをありきにはしたくない。人の営みや距離感、老いなどに向き合い、それが露わになるところを見たくて、それに一番フィットする方法がチョークだっただけなんです。手法に中身が負けないよう、常にハードルを感じています。

竜星 絵はSNSとかにもアップしたことがあって、模写とかは結構得意なんですよ。コロナ禍の時にちょっと描いたりしていたので、チョーク絵もきっと大丈夫!ただ、本番という時間が限られた中で、みんながわかってくれるような絵心かどうかは未知数なので…シンプルだからこそ、役者の腕次第。毎回違うものが生まれる可能性もありますよね。繰り返していく中で、きっと伝わる表現につながると信じて頑張ります。

「老い」と「進化」に斬り込んだこの物語。コロナ禍を経た今だからこそ、より伝わる部分もあるのではないだろうか。

竜星 テーマはシリアスなんですけど、読んでいると笑える部分もあって、僕はそんな物語が好きなんです。その方が演劇として本当に伝えたいことや世の中に言いたいことが伝わる気がします。正解を見つけるべきかもしれないけど、正解なく、そこを面白がることができたらいいですね。

ノゾエ とにかく、響いてほしい。何が響くのかはこちらが決めることじゃないけど、僕らが感じているものを夢中になって投入するので、受け止めて、感じていただけたらと思います。


インタビュー&文/宮崎新之
Photo/篠塚ようこ
ヘアメイク/井手賢司(UM)
スタイリスト/山本隆司(style³)

※構成/月刊ローチケ編集部 8月15日号より転載
※写真は誌面と異なります

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【プロフィール】

ノゾエ征爾

■ノゾエ セイジ
劇団「はえぎわ」主宰であり、俳優、脚本家、演出家。’12年、『○○トアル風景』の脚本が第56回岸田國士戯曲賞受賞。

竜星涼

■リュウセイ リョウ
数多くのテレビドラマや映画に出演する人気俳優。現在放送中のTBS系ドラマ「VIVANT」に出演中。