善雄善雄が主宰する劇団ザ・プレイボーイズの新作公演『パラレルワールドより愛をこめて』『パラレルワールドでも恋におちて』が、東京・下北沢シアター711にて上演される。同劇団の1年3カ月ぶりとなる本公演で、作・演出を善雄善雄、主題歌をウクレレ高円寺が手掛け、内容の異なる2作品を上演する。
帯金ゆかり、まちだまちこ(メロトゲニ)、砂田桃子(扉座)の3人は、『パラレルワールドでも恋におちて』に出演。恋愛に悩む主人公が、理想的な結末を迎える世界線を求め、別の世界線の自分とともにパラレルワールドを飛び越えていくというコミカルなストーリーとなっている。
はたして彼女らはどのように作品に臨むのか。稽古に励む3人に話を聞いた。
――まずはご出演が決まった時の第一印象を教えてください。
砂田 私、出身が富山なんですが、作・演出の善雄善雄さんも富山出身なんですよ。だからお名前も知ってたし、ザ・プレイボーイズにも知り合いが出演していたこともあるんですけど、善雄さんにお会いしたことはなかったんです。同世代ですし、私は高校演劇部で、善雄さんもおそらく高校生くらいから演劇もされてたんじゃないかと思うんですけど、接点が無くて。だから、お話をいただいた時は即答で「出ます!」って言いました(笑)
帯金 善雄さんとは別の劇団で共演したこともあるし、プライベートでも割と親交があるので、彼の人となりは知っているんです。センスがすごく面白くて、世界の物事を真っすぐには見ずに、斜に構えてるんですよね。それでいて、世界を真っすぐに見ている人への想いもあって…そこに、善雄さんらしい人間臭さが見えてくる。そこが可愛らしくて、抱きしめたくなっちゃう(笑)。いつかそんな善雄さんの作品でご一緒したいと思っていたので、すごく嬉しかったです。それに私とはもう気楽な仲なのに、この話の企画書を貰ったときに「めっちゃ緊張した」なんて言ってて。そういう作品を大切にしているところも、なんだかすごく嬉しかったです。あと、音楽のウクレレ高円寺くんとも縁があるんですよ。そいういうキャスティングもきっと考えてくれているんじゃないかと思ってます。
まちだ 私ももう、率直に嬉しかったですね。さっき、砂田さんが善雄さんと同郷っていうお話がありましたけど、私はこの制作の半田桃子さんと同郷なんです。香川県なんですけどね。そこの縁も感じていましたし、善雄さんのワークショップにも参加させてもらったことがあるんです。今回の稽古場でもそうなんですけど、善雄さんってオリジナルのゲームを作ってやってるんですよ。それがめちゃくちゃ面白くて、だからすごく楽しい人なんだろうなって想像してたんですよね。
――今回は、「パラレルワールドより愛をこめて」「パラレルワールドでも恋におちて」と対になる2作品が上演され、みなさんは後者に出演されます。物語の印象についてお聞かせください。
まちだ パラダイムシフトとかタイムリープとか、いろんなSFの要素ってあるんですけど、割と頭で理解するのって難しいじゃないですか。パラレルワールドもそういう感じで、最初はちょっと難しい感じになるのかも?って想像してたんです。何なら、私は苦手なほうなので(笑)。でも、意外と作品の世界観にスッと入れるように、シンプルな作りになっていて、コメディ要素もたくさんあるんです。だからSFが苦手な人でも楽しく観れそう、っていうのが台本の第一印象でしたね。
帯金 めっちゃ楽しいよね。めちゃくちゃポップ。
砂田 そう、ポップとしか言いようがない(笑)
帯金 だから本当に誰でも見れる作品だな、って思う。こう…恋とか、夢とか、人生とか、人間が誰でも持っているものをそのままポーンと作品に乗っけているような感じなので、その軽快さがすごく楽しい。公演時間も1時間ですし、すごくスピード感があるんですよ。フルスロットルでブレーキなし! …この公演で私、痩せちゃうんじゃないかな(笑)
砂田 私たち3人は、並行世界で生きている同一人物なんです。それが出会っちゃうっていう設定なんですけど、そんな話、今までにあんまりないですよね。いろんな自分が脳内会議するみたいな作品は観たことがあるけど、全員が自分で、でも生きている世界線が違っていて、っていう感じが面白いなと思ったんです。性格もそれぞれ違っていて、それぞれ暴走しちゃう(笑)。この、新しい感じをしっかり伝えられたらなって考えています。
――役どころについては、それぞれどのように捉えていますか? みちる、未知瑠、ミシェルの3人は並行世界の同一人物だけど、違っているところもあるんですよね。
帯金 私の場合は、もう、私でしかないです(笑)。基本は台本なんですけど、稽古の序盤にエチュードで作ったところもあるんです。割とエチュードでやった感じのことがそのまま文字になっていて、そこは割とありがたかったですね。私が私のままでいれば成立してしまうような役になっています。
まちだ 私も、善雄さんとそんなに話したことがあるわけじゃないのに、なんでこんなに私のことをわかっているんだろう?っていうくらい、めっちゃ共感できるキャラクターです。私自身、あんまり物言わぬ人間だし、なんだかやたらと肯定しているところも共感しちゃうんですよね。逆に、帯金さんのほうの役はわからない(笑)
帯金 なんか、ごめん(笑)
まちだ なんでそんなことをできるの?って(笑)。でも、そういうところに憧れている部分もあるんですよ。羨ましいとか、そんなふうになりたいとか。私の役も、だんだん気持ちが変化して成長していくんです。
砂田 私の役は、ちょうど2人の真ん中。2人が何でもめちゃくちゃ実行して思ったことを全部口に出しちゃう人と、なかなか行動できなくて口に出せない人で、私はそのバランスを取るような感じですね。2人の意見が割れることが結構あるんですけど、どっちのこともわかるから「うんうん、わかるよ」ってずっと言ってる。
帯金 そう。全世界を肯定している(笑)
――同一人物とはいえ、違いのあるキャラクターですが、逆に共通しているところは?
まちだ そこはもう、芹介(佛淵和哉)の存在。芹介っていう彼氏が大好き、という一点においては全員が共通していますね。あとは…なんか見つけたいよね、って話はしています。
帯金 そうね。近い将来に見つけたい(笑)
砂田 見つけたいんです! でもわかんない(笑)。私はお2人とは今回が初共演なんですけど、このいつもしゃべっている感じはなぜか近しいような、不思議な感覚があるんですよね。
まちだ 初めて会ったとは思えないよね。まだ会ってから1カ月くらい? まったくそんな感じないけどね。
帯金 だからまぁ、きっと見つかると思います、共通点(笑)
――今日の会話をお聞きしていても、楽しい稽古場の感じが伝わってくるようですが、稽古場の雰囲気はいかがですか?
まちだ まさにこんな感じです。話がはずんで、「休憩終わりましたよ」って促されるような…
帯金 「静かになるまで何分かかりました」っていう学校の先生みたいな感じね
砂田 これ、ガチで言われてましたから(笑)
――(笑)。何のお話で盛り上がることが多いんですか?
まちだ 帯金さんがすごい大きな声で、窓のほうを見て「めちゃくちゃ夕焼けがきれい!」って言ってたのは印象的でした(笑)。私もきれいだな~って見てたんですけど、もうダダーって窓に駆け寄ってましたね。
帯金 めっちゃキレイだったんですよ! それで写真もきれいにとってくれたんだよね。
砂田 そしたら、富士山も見えたんだよね。
帯金 富士山って、高円寺のホームからでも端っこまで行けば見えるし、世田谷にも見えるところあるし、東京って見えるとこいっぱいあるんですよね。
帯金 あと、(砂田)桃ちゃんのスマホが、なんかキレイに撮れないんですよ。こんなに美人なのに、桃ちゃんのスマホだと、なんか違う感じで(笑)
砂田 ごめん、ごめんて!
帯金 面白いから、あやまらないで…! まっちー(まちだ)のスマホだと、あんなにキレイに撮れるのに、桃ちゃんのスマホだと全部溶けたみたいな感じになるんだよね。
砂田 自覚はありました(笑) あんまりこだわりもないんですよね…
――お話を聞いていると、キレイな景色に思わず駆け出す人、遠くから眺める人、駆けだした人に驚く人、みたいな感じで、役どころと繋がっている感じがしますね。
まちだ 確かにそうかも。そうやって素直に駆けだせる感じが、羨ましいんですよね。すぐに動ける。
砂田 こんな純粋に夕日を愛でられるって素敵だよね。大好きになりました。
帯金 そこを羨ましいって言えるところもスゴイって私は思うんです。なんか、心がとても広くて大きいから、そう思えるんじゃないかなーって。
――稽古の中で、善雄さんからの言葉で印象にのこっているものはありますか?
砂田 1発目の芝居で、もう「パーフェクト!」って。めちゃくちゃ肯定してくれるんですよ。海外演出家のやり方だって言ってました。
まちだ 2回目は「モア パーフェクト!」ね(笑)
砂田 そうやって肯定してくれてから、もっとこうしましょうか、みたいなところに持って行ってくれるんです。私たちからの、したいこともちゃんと聞いてくれて、違うときは違います、って言ってくれる。すごくフラットに捉えてくれます。
帯金 だから、私たちも”みんなで作っている”感覚を味わえていると言うか。それをちゃんと提供してくれている感じがしています。私はもう、思ったことを全部言ってしまうタイプなので、それを拾ってくれるし、いらない時はいらない!って言ってくれて、そこを信頼できるというのはすごくありがたいですね。言っていいんだよ、っていう雰囲気にしてくれているんです。
まちだ それはありますね。年齢的には私って下の方だと思うんですけど、私ってこんな感じで大丈夫?って思いながら稽古に入ったんですよ。そしたら、お2人がこんな感じで迎えてくれて、善雄さんも演出家としてフラットに接してくれるんで、もともとそんなにガンガン意見するようなタイプじゃないんですけど、そんな私が「これってどうですか?」って何のストレスもなく言えてるんです。創作しやすい雰囲気がすごいんですよ。そこは実感しています。
――今回、パラレルワールドのお話ですがみなさんが行ってみたい、見てみたいような、別の選択をして進んだ並行世界はありますか?
まちだ 私が俳優じゃなくて、CAだったパラレルワールドは行ってみたいですね。なんとなく、無くはない分岐だったんじゃないかと思うんですよ。中高生の時にCAになりたかったとかは無いし、俳優になりたいって思っていたんですけど、海外旅行がすごく好きで割といろいろなところに行ってるんですね。最近はYouTubeでCAさんのチャンネルを見たりもしているんですけど、サービスをするのもすごく好きだし、もし英語とか頑張ってたらそういう未来もあったのかもな~なんて、ちょっと思いました。もう大人になってから気づいたけど、もっと前に気付いていたら、アリだったかも知れない仕事だな、って。
帯金 CAさんの機内安全の実演とかすごいよね。緊張しないのかな。
――あれも言わば、お芝居みたいな感覚ですよね。
砂田 CAって客席めっちゃ近い! 緊張する(笑)。私は大学が工学部で、周りは大学院に進むとか就活とかしてる中で、私も親からのプレッシャーもあって1カ月だけ就活したんです。地元銀行だったんですけど、どんどん試験をパスしていって…たぶん、理系だったことも珍しくて「理系なのに銀行受けにきたの?」なんて言われたりもしてて、やばいやばいと思いながら最終まで進んだんですね。そのときに「私が生半可な気持ちでもし通っちゃったら、私の枠に入るはずだった人が落ちるんだ」と思ったら、怖くなったんです。すごく銀行員になりたい人がいたかもしれないのに、って。それで最終面接の前で辞退しました。もし最終面接に行っていた時の自分を見てみたいかと言うと…複雑ですけど、大きな分岐点になったのは間違いないですね。
帯金 2人の話を聞いていて、そういえば…って思ったことなんだけど、私、大学進学で上京したんだけど、浪人してるんです。早稲田の演劇研究会に入りたくて、狙ったんだけど見事に落ちて(笑)。でもいろんな大学を受けていて、桜美林大学には受かってたの。当時の私は知らなかったんだけど、桜美林には(劇作家の)平田オリザさんがいらっしゃったそうなんですよ。演劇やりたいくせに知識が無くて、早稲田じゃないと演劇できないくらいに思い込んでたんですけど、桜美林に行ってたら平田先生の指導を受けられたんじゃん!って、ずいぶん後になって気付きました(笑)。すごく薄い知識で浪人してしまいましたね。きっと、今の私の演技もぜんぜん違ってたと思います。
――「別の選択をしている別の世界線の自分」に、誰しもちょっとは興味が湧いてしまいますよね。今回はそんなパラレルワールドの自分と行動をともにする物語になっているかと思います。最後に、楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします!
まちだ 今回、私たちのチームとは別に、もう1チームありまして、それぞれ1時間ずつの公演になります。両方を観劇して「こういうことなのか」とリンクしているようなところも散りばめられていますので、ぜひ両方をご覧いただきたいと思います。キャッシュバックもありますので、ぜひ楽しんでください!
帯金 ノンストップで動きまくる、サイエンスフィクションならぬ”スポーツフィクション”なので(笑)、本当に気楽に、細胞を緩めてきていただきたいです。何も考えずに、ゆるゆるでOKなので、浴びるような気持ちできていただければ、きっとご満足いただけるんじゃないかと思います!
砂田 今回の座組は、だいたい同世代なんですよ。劇団にいると、2回りくらい上の先輩とお芝居していることが多いので、演出の善雄さんを含めて、これだけ同世代なのは久しぶり。それを私自身が楽しんでいるし、この女3人がスポーツフィクション…いや、”スポーツファンタジー”を存分にやっています! そこは他と違うところなんじゃないかと思うんで、楽しんでいただきたいです!
取材・文:宮崎新之
写真:堀山俊紀