演劇ユニット「ストスパ」新作舞台『キロキロ』|白鳥雄介 インタビュー

白鳥雄介が主宰する演劇ユニット「ストスパ」の新作舞台『キロキロ』が2月12日(水)より下北沢「劇」小劇場にて上演される。ストスパとしては5作品目となる今作は、窓のない小さな部屋で生まれる友情と恋と夢の物語だ。

近年『カリスマdeステージ おかえり!カリスマハウス』や『超ハジケステージ☆ボボボーボ・ボーボボ』などのエンタメ作品の演出も手がける白鳥雄介だが、それらとはまた違ったワンシチュエーションの会話劇ということで、話を聞いた。

――――本作を創作したきっかけ、着想について教えてください

僕は現在、35歳なのですが、ここ数年、結婚、妻の妊娠、出産、育児と人生の中でも特別なイベントを経ました。妻の支えや周りの方々の手助けを借りて演劇を続けてきましたが、20代の頃とは違い、演劇と生活のバランスを考えざるを得なくなりました。本当は追い続けたかった夢、妻と二人で行きたかった旅行先、日々幸せをくれる子ども、疎遠になった友達……バランスが変わってくる30代半ばの僕がどうこの先を生きていけばいいかを見失いそうになり、この作品を創ることにしました。僕が選ばなかった人生を11人の役者それぞれに表現してもらっています。

――――ストスパとしては5作品目となりますが、今までの作品と比べてみた時の印象は?

初めてワンシチュエーションの会話劇を書くことに挑戦しました。コロナ禍に入ってまもない頃に受けた扉座の横内謙介さんの戯曲塾で、脚本家はワンシチュエーションを書き切る力が必要だというお話を頂き、ストスパではこれまでやってこなかったので、今回挑戦してみようと思い立ちました。

結果、とてもいい群像劇が書けたと思っています。

お互いが少しずつ関係し合って、まるでビリヤードの球のように、誰かにぶつかり、方向を変えられたり、ポケットに落ちたりします。カラオケボックスの小さな部屋で影響を及ぼし合う人間関係を覗き見て欲しいです。

――――“友情と恋と夢”というとなんだかキラキラしたイメージがありますが、本作の登場人物は三十路を超えているということで何か意識をして描いたことはありますか?

実は僕には友情も恋も夢もキラキラしている印象がなくて、どれもが「儚い」イメージなんですよ。特に三十路を超えてからの儚さは増すばかり。そのキラキラしてそうでしていないものを描こうと思いました。僕は「ゆとり世代」と呼ばれる世代に生まれ、バブル崩壊後の不況、失われた30年を生きてきました。結局ゆとりある生き方なんてできていないんですよね(笑)毎日必死に生活を守るだけ。その中でもなんとか一筋の光を見つけたいと思い、登場人物を動かしてみました。11人に訪れるラストが大きなものなのかは、劇場で見た人に判断してもらいたいです。

――――稽古を通して、役者さんから受け取ったものもあるということですが、稽古場で印象に残っているエピソードなどはありますか?

役者さんみんなが同世代。できる限り対等な立場を意識し、対話を繰り返しながら創っています。この時の気持ちはどうなのか……群像劇だからこその、整合性をかなり求めています。

初稿の台本を書き終えたころに、セリフを説明し過ぎている印象が稽古場内に充満しました。役者さんと話して、セリフのカットを敢行したところ、恥ずかしいくらい下手でいらないセリフが見つかりました。

それまで一度もそんなエピソードは出てこなかったのに、「うちの母ちゃん高血圧だし」という、とってつけた情報を言わせている箇所があり、演じていた役者が「やっとカットしてくれたー!」と安堵していました。間や情感で伝えられるように調整を試みています。

――――これから、岐路を迎える人や様々な岐路を経て今を生きる人がいるかと思いますが、楽しみにしている方へメッセージをお願いします

ここ数年、僕は人生の行く先が見えませんでした。彷徨える人生で、突然やってきた岐路に右往左往しました。本作『キロキロ』は、『今思えば岐路だったあの日』の話を、『まだ岐路ではない今日という日』に11人が語り合います。少しずつ関わり合い、惹かれ合う人間たちを覗き見て、あなたの人生と重ね合わせてほしいです。見終わった後、誰かと一緒にいたくなる、そんなお話になっていると思います。下北沢の街で語り合ってから帰路についてください!

劇場にて、お待ちしています。

取材・文/中島千尋
撮影/金子裕美