Tom’s collection vol.2『業界~恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます~』│小御門優一郎×徳田公華 インタビュー&稽古場レポート

写真左から)徳田公華(プロデューサー)、小御門優一郎(演出・脚本)

808株式会社が企画・制作するTom’s collectionシリーズの第2弾は、ノーミーツの主宰・小御門優一郎が描く「表現を生業とする人々」の物語。キャストの顔合わせと本読みを終えたばかりのタイミングで、演出・脚本を手がける小御門優一郎と本作のプロデューサー・徳田公華にインタビューを行った。

――まずは今回の企画の経緯からお伺いしたいです

徳田 元々、ニッポン放送×ノーミーツで上演した『あの夜を覚えてる』、2作目の『あの夜であえたら』でご一緒しました。私は以前ノーミーツに在籍していたこともあり、小御門作品が好きだったんです。演劇を作る新プロジェクトを立ち上げ、声をかけたのが始まりです。

小御門 僕はこの4〜5年、作品を作ることで生計を立てています。言ってみれば「物作りで食べていく」という夢は叶った。ただ、「思っていたのと違うな」という気持ちも蓄積していて。それまではプロって「各ジャンルのランキング上位何人」みたいなイメージがあったんです。でも実際はそんなに単純じゃなくて、実力があってもやりたいことしかやらないとプロでやっていくのは難しいし、実力が足りなくてもクライアントの要望に応えて売れっ子になる人もいる。「物作りで生きていく」という夢の叶え方にもいろいろあると実感しましたし、僕自身、実力でプロになったわけじゃないという負い目もある。その思いが閾値を超えたので、作品化することでアウトプットしたいなと思いました。

――今回の脚本を書く上でこだわったことはありますか?

小御門 基本的にはフィクションが好きなので、今までの作品は設定から世界観を空想して書くことが多かったんです。でも今回はかなり実体験を盛り込み、現実にいる人や出来事をモデルにしている。実感が持てるシーン・やり取りで繋ごうと思いながら書きました。

徳田 内容的に広告業界と演劇業界をスイッチしながら進んでいくので構成が難しくて、完成した初稿を読んでも小御門の悩みが見えるところがありました。意見を出したり、演出助手の石塚さんにも読んでもらったりして、2稿はかなり整った印象です。

――顔合わせをしたばかりのタイミングですが、本読みの手応えはいかがでしたか?

徳田 キャストの皆さんも「あ、見たことあるかも!」と感じたのか、本読みの段階でキャラができている人もいて、嬉しかったしワクワクしました。プロットからアイデアを出したので、「実在してる!」という感覚があって、(小御門と)二人ですごく笑いながら本読みを聞きました。

小御門 ちょっと揶揄するような感じで書いたところもあるんですが、オーダーを出す前からキャラが立っていましたね。それって、その人がどう見ているのかという目線でもある。偏見はスパイスとして入れるぶんにはすごく面白いなと思いました。

徳田 初見の本読みって、個々が持っているイメージがすごく出るから面白いですよね。

――キャストオーディションも行ったということですが、今回のカンパニーの印象、キャストの皆さんへの期待はいかがでしょう

小御門 オファーとオーディションが大体半々です。そんなにわかりやすいお話でもないので、演技力はもちろん、話し合って一緒に作って行けそうな人というところを意識しました。

徳田 愛されキャラの方々に集まっていただきましたね。今回は一人ひとりが何役も演じるので、演じ分けは楽しみの一つです。

小御門 主人公以外は2役以上あります。複数の業界を描くこともあって、片方にしか登場しない人は作りたくないなと。あと、ちょっと打たれ弱い・精神的な圧が強いなど、性質が反対なキャラクターをそれぞれに2役以上振り分けています。初めて見る役者さんだと、演技が上手いのか本人の雰囲気なのかわからなくなったりしますが、今回は俳優さんの演技の切り替え、複数の役をどう描画していくかを楽しんでいただけると思います。

――作品の見どころを教えてください

小御門 キツさと痛さを楽しんでいただきたいと思っています。僕は今こうしてものづくりを生業にはしているけど、大学から演劇を志し、順当に階段を登って身を立てることはできなかった人間。「今楽しいけどこれはきっと商売にならないよね」という稽古場の空気や、「夢に近づけてなくない?」みたいな感覚も知っています。広告業界も、演劇業界と比べたらお金はあるかもしれないけど、いろいろな事情があって、それぞれの苦労がある。そういった現場のリアルをミクスチャーしています。揶揄の目線を持ちつつ、僕を投影した主人公がいろんな業界を小狡く渡り歩くダサさ・滑稽さを笑っていただきたいですね。

徳田 そうですね。夢を叶えるためのお話って結構あると思いますが、これは夢を叶えた後の話。そこからの道のりも意外と長くて、戦いが続いていく。それが巧みに描かれていると思います。

――徳田さんがプロデューサーとして感じる小御門さんの魅力はどこにありますか?

徳田 小御門さんは締切を守らないし遅刻もする(笑)。でも、今回、本多劇場で『背信者』を上演した時のスタッフがベテランさん含めてみんな集まってくれましたし、オファーしたキャストの皆さんも「小御門さんの作品なら是非!」と言ってくれました。悔しくも愛されキャラだと感じます。作品の表に出てくるのは皮肉な感じの役が多いけど、最終的には愛される登場人物が描かれているのも魅力だと感じます。

小御門 せっかく人徳みたいなものがあるのに、今回それをネタにしているっていう(笑)。

徳田 でも、それをネタにしても「小御門め!」って思わずに面白がってくれる人が周りに多いなと思います。

――『あの夜』シリーズは配信やイベント形式でした。今回のような小劇場でのお芝居の魅力はどこに感じますか?

小御門 『あの夜を覚えてる』は配信で、「一連のお芝居を生でやっている」という触れ込みで見ていただきました。演者さんが冒頭から毎ステージ順撮りでバトンを繋ぎ、熱量が高まっていく様子は映像でも感じてもらえたと思います。劇場は開演してからどんどんボルテージが高まってカタルシスがあって終わるのを空気感つきで味わえるのが魅力です。

徳田 独特な空気だと思いますね。

小御門 大劇場だとある程度「舞台鑑賞」ってちょっと高尚な趣味な感じがしますが、小劇場は演者の唾がかかるかもという距離感。

徳田 「巻き込まれるかも!」っていう緊迫感を持ちながら一緒に物語を追えるのは、小劇場ならではの楽しみ方だと思います。そもそもあれだけ近い距離で見られるのは小劇場だけだよね。

小御門 そうですね。僕もそれに圧倒されて、大学一年の時に演劇サークルに入ったところがある。全然興味がなかったけど、新歓公演に誘われて行ってみたら圧倒されて。

徳田 私も以前は役者をやっていたんですが、役者として立つのは小劇場が一番好きでした。お客さんが集中して見てくれている視線を感じられて。みんなが一つのものに集中しているいい空間ですよね。

小御門 客席の中も仲間意識がある気がしますね。

――最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします

小御門 今回、僕としては新しいことをやっています。あらすじなどに「こんな作品です」という説明は載せているので、「その気持ちわかるかも」という引っ掛かりを感じる人は見に来てくださったら嬉しいです。娯楽要素が強い作品ではないですし、もしかしたらキツい思いをされるかもしれません。でもそのぶん何かが残る作品になると思います。

徳田 表現を生業としている方々には絶対に見てほしいと、自信を持ってお伝えします。もちろん別の業種の方でも、社会生活の中で似たような出来事ってあると思うんです。それぞれの立場でそれぞれの役目みたいなものがあって、誰かに共感しながら観ていただけると嬉しいです。

小御門 連日芸能界における加害や失脚にするニュースもあるので、作品タイトルを見て「そこに切り込んでいるのか?」と思う方もいるかもしれません。でもそうじゃなくて、かつて許された「あの人、人間性は最悪だけどクオリティは高いから」という人たちが失脚し、空いた椅子に僕みたいな半端者が座っている。その比率が上がったら、現場の空気は良くなるかもしれないけど、でも……。

徳田 業界全体のレベルやクオリティは下がっていくんじゃないか……みたいな。それでサブタイトルが『恥ずかしながら、ボクらがこの世をダメにしてます』。

小御門 僕らみたいな人が溢れることで、少しずつ業界を腐敗させていっていますという。

徳田 笑って見てほしいですよね。これを見て自分が今後どう生き残っていくかを考えられる作品になっていると思います。

稽古場レポート

インタビュー後、稽古場の様子も取材した。

まだ顔合わせをしたばかりということもあり、スタート前に高野ゆらこの提案でお互いの呼び方を確認することに。雑談を交えて愛称を決めると、和気あいあいとした雰囲気で稽古が始まった。

舞台セットの模型を見ながら動線を確認したり、使用する小道具について話し合ったりと、小御門を中心にそれぞれが意見を出して組み立てていく。稽古2日目ながらチームワークの良さが感じられた。

また、インタビューでも出ていたように、キャスト陣がそれぞれの役に対してイメージをしっかり持っていることが伺える。短いシーンでも「こういう人、いそう」と思わされたり、演じている本人たちから「こういう人がいるとありがたいよね」と声が上がったり。芝居を見ている小御門が楽しそうな表情で頷いている場面も多く、ここからの稽古でどう進化していくか楽しみになった。

表現者たちの“業”をこのカンパニーがどう描き出すのか、ぜひ劇場で見届けてほしい。

取材・文・写真/吉田 沙奈