舞台『悪魔と天使』稽古場レポート

2019.01.16

‟マンガの神様”と呼ばれ、『鉄腕アトム』『リボンの騎士』など、現在も親しまれているさまざまな傑作を遺した巨匠・手塚治虫。その作品の中でも‟未完の名作”といわれているのが、死者多数の大事故を生き延びた8人のその後を描いた『ダスト8』だ。当初は『ダスト18』として発表されタイトル通り生還者18人のエピソードが入る予定だったが、当時の手塚作品としてはあまりにもセンセーショナルな内容だったこともあり、紆余曲折を経て8人のエピソードにまとめられたといういわくつきの作品でもある。

手塚治虫生誕90周年である今年、さまざまな手塚作品を舞台化してきたモトイキ シゲキの手により、『ダスト8』の登場人物たちが織りなす人間模様をもストーリーに織り込み舞台化されるのが『悪魔と天使』だ。今回は、1月19日の開幕を控えたその稽古場にお邪魔した。

11人の登場人物たちは事故に遭う直前、「生命の山」と呼ばれるスポットに接触し、不思議な力を持つその破片「生命の石」を手にしたことで再び命を得る。しかし元々定められている彼らの運命を勝手に変えるわけにはいかないため、死神のボスは生還者の中の海江田沙月(精霊の悪魔キキモラとの二役/観月ありさ)、岬 慎吾(精霊の天使キキモラとの二役/白石隼也)に、他の生還者を探し出して「生命の石」を取り返せば、2人の命は助けると約束する。死に直面した人間たちが見せるさまざまな姿、そして「生命の石」の回収係に命じられた2人の中に渦巻く葛藤が、どのように描かれていくのだろうか。
 稽古場に入ると、演出のモトイキ、観月、白石、そしてやはり事故の生還者の大女優・九條小百合を演じる高島礼子が熱心に打ち合わせ中。原作の漫画にはない登場人物たちのやり取りをどう見せればより客席から見て自然に映るのか、意見を交わし合っているところだった。

稽古が公開されたのは、事故ののち、生還者たちの間で「生命の石」をめぐるやり取りが行われているシーンから。実業家・大前田十蔵(ぼんちおさむ)と、大前田の援助で初の個展を開くことになった画家・渋井 新(佐藤B作)が、「生命の石」の持つ不思議な力について話し合っている。実は幼馴染みという設定の2人、どちらかがセリフをトチると顔を見合わせて豪快に笑いだしたりと、すでにコンビネーションは抜群といった雰囲気だ。

そこに事故の真相を追う記者・渡辺役の松澤一之も加わってやや和やかなムードでシーンが進んでいくのだが、海江田(観月)が石の回収にやってくるとその空気が一変!
 実は切れ者の判事である海江田の役に入ると、背筋をすっと伸ばして低めのトーンで語り始める観月のスイッチングがなんとも鮮やかだ。海江田はなんとしても死にたくない大前田の顔を鋭く一瞥。ベテラン俳優3人もそのクールな演技を受け、立ち回り方を固めていく。

 続いて舞台となるのは、彼らと同じく事故の生還者である外科医・柏木 守(野村宏伸)の勤務先である病院。女優の九條(高島)は、‟過去のあやまち”について、主治医の柏木にほのめかしていく。ここではセリフのやり取りを確認しながら、その言葉の裏に込めた心情を表現するように、目線を外したり、相手に背を向けたり……という見せ方を固めていくのだが、稽古しながら少しずつ流れが変わっていく中でも、2人のセリフ回しの安定感はさすがの一言だ。
 そこに海江田が、柏木の石を回収する日を確認しに現れる。
  さらに柏木のもとには、生還者の1人・新山 徹(矢部昌暉<DISH//>/木全寛幸<SOLIDEMO>のWキャスト)からの小包が送られてきていた。事故をきっかけに新しい人生の道を歩もうとしている新山は、手紙とともに“あるもの”を海江田宛てに同封していたのだが……?
 続くシーンでは、ある目的のもとに石の回収を続ける海江田とは別に、生還者たちをなんとか救えないかと奮闘するカメラマンの岬(白石)が登場。母親の借金を返済するために叔母(黒田こらん)にただ働きをさせられている、吉沢エリ子(黒川智花)を常々励まし、岬とエリ子は次第に心を通わせていく。
 このシーンでは岬とエリ子が目で会話を交わすような箇所も多いのだが、演出のモトイキを交え、2人が少ないセリフをどう交わすか、そしてそのときの目線や口調についても丁寧にディスカッションを重ねていく。気持ちを強く持ち、自分の運命に立ち向かおうと決めたエリ子は強いまなざしで、母親のもとへと戻っていく。
 このほかに、事故ののちサラリーマンからミュージシャンへと転じる小島 忠(鍵本 輝<Lead>/向山 毅<SOLIDEMO>のWキャスト)、やはり生還者の1人で小島の活動を応援しようとするラジオDJの有坂 瞳(中島早貴<元℃-ute>)といった面々が登場。この日は聞けなかったが、オリジナル曲の披露もあるとのことなので楽しみだ。

また、この舞台のために再レコーディングされたという河村隆一によるテーマ曲「Hope」(1997年のアルバム『Love』に収録)も注目ポイントの1つ。スケール感のある美しいバラードを聴きながら、あるシーンで海江田は遠い昔の記憶をよみがえらせていく。

2019年を舞台に、オムニバス構成の原作にはない登場人物同士のやり取りやその後のストーリーなども楽しみつつ、大どんでん返しが起こる(?)ラストまで気が抜けない『悪魔と天使』。戦時中に青春時代を過ごした手塚は、自らの作品について「生きるということに執着を持ったものが多い」と分析していたが、この作品もまた“生命のきらめき”を強く感じさせるもの。ぜひ劇場で登場人物たちのさまざまな生き様を見守りつつ、あなた自身の人生を振り返ったり、立ち止まって考える時間を過ごしていただけたらと思う。

取材・文/古知屋ジュン