ミュージカル『ある男』|濱田めぐみ&ソニン&知念里奈 インタビュー

映画化もされた人気小説を初めてミュージカル化

人間存在の根源と、この世界の真実を描き、読売文学賞を受賞した平野啓一郎による長編小説を初めて舞台化する、ミュージカル『ある男』。不慮の事故で死んだ男・谷口大祐が全くの別人だったという、奇妙な事件を調査することになった弁護士の城戸章良の姿を通し、アイデンティティはどこにあるのかを問う。
濱田は谷口大祐の元彼女・後藤美涼、ソニンは亡くなった谷口大祐の妻で城戸に大祐の調査を依頼する谷口里枝、知念は城戸の妻・香織を演じる。

濱田 私が演じる美涼は、どのような人物にも変化していくことができる役柄だと思います。なので、稽古の中で変わってくるものだとは思いますが、彼女の心の中にある傷やクレバーさをしっかりと表現し、ひらめきや直感によって物事の根幹に近づいていく運命に重きを置いて演じていきたいと今は考えています。

ソニン 里枝は、ある男・Ⅹの本質や根底にあるものを知っている人物です。彼が亡くなった後、彼の知られていない面をどのように見てあげられるのかを表現していきたいと思います。Ⅹを演じる(小池)徹平は『里枝の言葉や歌詞がすごく響く』と話していました。彼女たちに確かな時間があったことを説得力のある演技でお見せしていかなければいけないと思っています。悲観的でもなく、めちゃくちゃ強い心を持っているわけでもない。素敵な女性像を作り上げたいです。

知念 香織たち夫婦はこの物語の中では、普通の夫婦として描かれています。すれ違うこともあれば、『何年か前のアレが嫌だった』というやりとりをすることもある。どんな仲良し夫婦にもあるような関係性なので、お客さんにも共感していただけるのではないかと思います。

2018年には映画化もされ、大きな話題を呼んだ本作。それだけにミュージカル化への期待も高まる。

濱田 とても繊細なテーマが描かれている作品ですので、きっと皆さん、口を揃えて『どうやってミュージカルにするの?』と思うと思います。全く別物として作るのではなく、『ある男』の世界観をミュージカルにしたらこうなりましたというものをお届けしたいです。原作の持っているテイストや匂い、質感といったこの作品の良さがミュージカルでも出れば良いなと思っています。

知念 原作を最後まで読み、国籍や年齢、性別など何もなくなった〝ただの自分〟とは何なのだろうとすごく考えさせられました。ミュージカルでも、見終わった後にさまざまなことを考えていただける作品になるのではないかと思います。

ソニン そもそも私はラベリングが大嫌いです。この物語の中で『自分は居場所を感じたことがなかった』というフレーズが登場しますが、私自身もそれを強く感じたことがありました。この物語は、国籍や名前、戸籍がテーマとなっていますが、それを変えたからといって中身は変わりません。でも、人は別人物になったと考える。本作は、ラベリングすることで安心して、人をジャッジすることを皮肉っているのだと私は感じました。私は、そうしたものを排除して自分自身を見てほしいし、人を見たいと思って生きています。そうした意味でも、原作に共感しました。舞台作品として、どのような形で届けたらこの作品が成立するのか、これからのお稽古でそれぞれが意見を持ち寄って、カンパニーで答えを見つけていきたいと思います。

インタビュー&文/嶋田真己
Photo/村上宗一郎
スタイリスト/飯田恵理子
ヘアメイク/高原優子(濱田)・真知子(ソニン)・大西花保(知念)

※高原優子の「高」は「はしごだか」が正式表記

※構成/月刊ローチケ編集部 6月15日号より転載
※写真は誌面と異なります

掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
ローソン・ミニストップ・HMVにて配布

【プロフィール】

濱田めぐみ
■ハマダ メグミ
数多くの作品で主演を務めるミュージカル女優。代表作は「レ・ミゼラブル」「アイーダ」「ウィキッド」など。

ソニン
■そにん
2000年に歌手としてデビュー。女優としてミュージカルだけでなくストレートプレイ、テレビドラマでも活躍する。

知念里奈
■チネン リナ
1996年に歌手としてデビューし、日本レコード大賞最優秀新人賞を獲得。近年はミュージカルを中心に活躍。