舞台『暗くなるまで待って』が1/25(金)、東京・サンシャイン劇場にて開幕した。
本作は、1966年にフレデリック・ノットが書き下ろし、ブロードウェイで初演。1967年にはオードリー・ヘプバーン主演で映画化もされたロンドンのアパートの1室で繰り広げられる、スリリングな密室のミステリー。2009年版以来、約10年ぶりの上演となる今回は、深作健太が演出を務め、加藤和樹と凰稀かなめがW主演で挑む。
初日前日、公開稽古と囲み取材が行われ、加藤和樹、凰稀かなめ、高橋光臣、猪塚健太、松田悟志、そして演出の深作健太が登壇し、意気込みを語った。
ロートを演じる加藤が「稽古で様々なチャレンジをしながら、みんなで試行錯誤して作り上げました。この舞台がお客様に果たしてどう見えるのか。プレッシャーも感じつつ、いい緊張感があります」と現在の心境を語り、スージーを演じる凰稀も「今日の舞台稽古までかなりの変更点がありました。それは、この作品をもっとよくするために、スタッフの方々や出演者のみんなで意見を言い合いながら作ってきたから。サスペンスは初めてでドキドキしていますが、この世界に引き込めるように自分自身も楽しみながらやっていきたいです」と言葉を重ねた。
マイク役の高橋は「音や静寂がテーマの舞台なので、お客様の咳にも反応してしまうかもしれません(笑)来てくださったお客様もこの空間を一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです」と笑顔を見せた。
「照明や音、みなさんの芝居を含めて、すごいものができたなという確信を持ちました。観に来た人を早くゾクゾクさせたいですね」とクローカーを演じる猪塚が力強く語ると、一同から「Sっ気が出てる(笑)」とツッコみが入り、会場は笑いに包まれた。
スージーの夫・サムを演じる松田は「些細なことでも積極的に話し合う素敵な現場になっています。このチームワークが舞台上でどのように花開くか。スタッフキャスト一丸となって、緊張感を作っていきたいと思います」と意気込みを見せた。
演出を手掛ける深作は「多くの先輩たちが作ってきたこの作品を、自分が演出することに対して喜びと同時にプレッシャーを感じています。戦友の加藤和樹くんや、とっても頼りになる凰稀かなめさんをはじめ、キャストのみなさんが今までのキャラクターのイメージを一新して、新しいキャラクターを作ってくださっています。映像のホラーやサスペンス作品が世界中に溢れている現代に、ナマで体感する舞台でしか感じられない“本当のサスペンス劇”をお届けしたいです」と自信をのぞかせた。
見どころを聞かれると「暗闇での対決も見どころですが、それぞれの登場人物が生きて来た過程も見どころの一つ。人間性を感じてもらえたらと思います」と加藤がコメント。
「人と人との関わり合いや一つの言葉をきっかけに感情が変化していく様子に注目していただきたいです」と凰稀、「最後の暗闇のシーンまでにお客様をこの作品の世界に引き込めるよう頑張りたいと思います」と高橋が続けた。
猪塚は「この作品は“体感型サスペンスエンタテインメント”だと思います。一緒に体感していただき、この『暗くなるまで待って』の世界にどっぷりつかってもらいたいと思います」と声を弾ませた。
松田は「共犯者、被害者どちらの視点に立ってもハラハラ、ドキドキすることは間違いないです。それぞれの思惑が重なり合って、複雑な流れになっていますので、観に来てくださる方それぞれがいろんな見方で、この作品を味わっていただきたいです」と作品の魅力を語った。
最後に深作が「これだけいろんなメディアが溢れている時代ですが、演劇という劇場でしか体験できないエンタテイメントで、この作品の面白さや怖さをたっぷり体験していただけたらと思います。みなさんぜひ劇場へ足をお運びください」とコメントし、会見を締めくくった。
囲み取材終了後、公開稽古が行われた。
物語は、スージーの家であるアパートの一室に、スージーの夫・サムの友人と名乗るマイク(高橋光臣)、続いて刑事・クローカー(猪塚健太)が訪れるシーンから始まる。2人は後から来たロート(加藤和樹)にサムが持ち帰った(麻薬が仕込まれた)人形を、奪うための詐欺の手伝いを依頼される。
3人は盲目の若妻・スージー(凰稀かなめ)を言葉巧みに騙そうと、あれこれと手を尽くす。次第に彼らの言動に不審を抱いたスージーは、買い物の手伝いをしてくれている少女グローリア(黒澤美澪奈)と協力しながら、目が見えないからこそ身についた鋭い感覚で、男たちの正体を次々と暴いていくが……。
本格的な悪役には今回が初挑戦という加藤だったが、ラスト20分で加藤から溢れ出る狂気は観ている我々を恐怖の渦に巻き込んでいく。劇中、スージーを騙すために変装し、いくつかのキャラクターを演じ分けるのも魅力の一つ。全くの別人に見えるその様を、是非とも注目していただきたい。
一方、目が見えないスージーを演じる凰稀の演技は、加藤が「あっちこっちにぶつかって、こっちが心配になるレベルで、本当に見えてないんですよ」と語るほど、本当何も見えていないのでは?と感じさせる。
終始スージーに寄り添いながら人形を見つけ出そうと尽力するマイクを演じる高橋は、その駆け引きの中で、完全なる悪人になりきれない心の揺らぎを見事に演じてみせた。
猪塚は、鋭い眼光と威圧感のある声でスージーを追い詰めるも、気づかれないように自分が付けた指紋を必死に拭き取ろうとするなど、小心者の一面を持つクローカーを巧みに表現。サムを演じる松田は、限られた出番の中で良き夫の姿を深く印象付けた。
ラスト20分は、舞台上だけでなく劇場全体が暗闇に包まれる。ロートやスージーがどこにいて、どのような状況なのか。我々は「音」を頼りに想像力を働かせる。当たり前のように見えていたものが突如失われたら、人は何を感じるのだろうか。暗闇の中で巻き起こる展開は、息をするのも忘れてしまうほど緊張感が漂う。それを肌身で感じることができるのは、 “生モノ”である舞台だからこそ。猪塚が“体感型サスペンスエンタテインメント”と語るように、この作品は是非とも劇場で体感していただきたい。
東京公演は2/3(日)まで東京・サンシャイン劇場にて上演。その後、2/8(金)から2/10(日)まで兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール、2/16(土)・2/17(日)には愛知・愛知県産業労働センター ウインクあいち、2/23(土)には福岡・福岡市民会館 大ホールで上演される。
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