
写真左から、萩田頌豊与(東京にこにこちゃん)・野田慈伸(桃尻犬)
2012年に和光大学の演劇研究会で出会い、現在は主宰一人で劇団を運営する同志としてそれぞれ多彩な活躍を見せる劇作家、野田慈伸(桃尻犬)と萩田頌豊与(東京にこにこちゃん)。桃尻犬は7月16日より浅草九劇にて、2年ぶりの新作公演となる『グロリアストラベル』が開幕、その翌日の7月17日からは上野ストアハウスにて劇団4ドル50セント×東京にこにこちゃんのコラボ公演『となりの奪言ちゃん』が開幕する。
ローチケ演劇宣言!では、時を同じくして新作の上演に挑む野田と萩田による初公開トーク満載の特別対談を敢行。その馴れ初めから互いの劇団の印象や劇作家としての魅力、新作の構想や見どころまでをたっぷりと話してもらった。
初対面は、大学の演劇研究会でのカブトムシ作り!?
―お二人は大学の演劇研究会の先輩後輩という間柄だそうですが、最初の出会いはどんな感じだったんですか?
野田 大学にいた時期自体はかぶってないんですよね。
萩田 そうですね。僕が入学した春に野田さんが卒業した感じでした。でも、僕が二浪しているので共通の知り合いはめちゃくちゃいましたし、そもそも僕が大学に入って、まだ演劇のことを何も知らなかった頃に初めて小道具を作ったのが桃尻犬の公演だったんですよ。
野田 桃尻犬が初めて王子小劇場で公演をやった時だ! まだ卒業したばっかりで研究会の後輩たちとの繋がりがあったから、めちゃくちゃ手伝ってもらったんですよ。小道具でちっちゃいカブトムシの模型を紙粘土で使って…。あれ、たしか1万個くらいあったよね。
萩田 そう! すごくないですか?僕、演劇研究会に入って初めてやったのがカブトムシ作りだったんですよ(笑)。たしか、1人100個とかが目標だったんですけど、そもそもカブトムシを100個作る行為がシンプルに怖かったです。だから、第一印象はカブトムシの人です。
野田 あははは! たしか、2012年とかだね。バラシにも手伝いに駆けつけてくれたのをすごい覚えています。スタッフさんに頌豊与くんがめちゃくちゃ怒られてて…。
萩田 そう! バラシって時間との戦いだからピリピリしているんですよ。そんな中で周りはみんな大人だし、どこで何をしていいのかわからなくて、結果的にこの体の大きさで一番邪魔なところに立ったり、運んじゃいけないもの運んだりしてめっちゃ怒られましたね(笑)。

―萩田さんにとって演劇の創作の原体験が桃尻犬の公演だったとは!
萩田 そうなんです。現場としてもそうですし、演劇のDVDを見たり、劇場に演劇を観にいく機会においても、野田さんが出ていたり、作っていることがきっかけだった気がします。高校までは学年が上の人と関わる機会があんまりなかったので、僕にとっては人生初の先輩でもあります。野田さんは演劇研究会において最後の厳しかった先輩のイメージ。ストイックで、愛があって、面倒見がいい方の厳しさですよ。実際、野田さんに怒られたことは一回もなかった。周りの人にはめちゃくちゃ怒られましたけど(笑)。あと、演劇活動を大学内で終わらせず、外へ飛び出している数少ない先輩だったので、憧れてもいました。
野田 その後、僕が日本のラジオの公演に役者として出た時に、頌豊与くんが主宰の屋代秀樹さんと交流があったこともあり、手伝ってくれたんだよね。それが久しぶりの再会でした。その時に初めて劇団をやっているというのを聞いて、同じ大学出身で劇団を主宰している後輩がいるんだって嬉しくなったのを覚えています。
萩田 野田さん、あの時も色々気にかけてくれましたよね。ことあるごとに「大丈夫か?」って聞かれてた気がする。
野田 めちゃくちゃお世話になっている日本のラジオの現場で後輩が迷惑かけるわけにはいかないと思ったんですよ。また運んじゃいけないもの運ぶんじゃないかとか…(笑)。
萩田 あははは! 屋代さんもすごい優しい先輩なので、怒られが発生しない配置で手伝わせてくれていたのを覚えています。先輩に恵まれていますね。
野田 その後2018年に『ヤンキー、海に帰る』って公演を東京にこにこちゃんがやって、その評判が耳に入ってきたんですよ。「ああ、ちゃんと演劇を続けているんだな」って嬉しかったですね。

―互いの劇団や、劇作家としての魅力はどんな風に感じられていますか?
野田 頌豊与くんはすごいですよ。自分にはあそこまでの度胸がないです。だって、堂々とスベるじゃないですか。
萩田 あははは! スベりたくてスベっているわけじゃないですけどね!(笑)。
野田 いや、あれだけボケの分母が多いからスベるのは仕方ないんですよ。スベることを厭わずに仕掛けて行く度胸がすごい。自分には絶対できないです。しかも、そういうくだらない瞬間を最後に昇華させる力があるから、ちゃんと成立しているんですよね。くだらない瞬間が多ければ多いほどに、それが集まって結果的に崇高にすら見えるみたいな…。そこは東京にこにこちゃんの演劇の魅力だし、頌豊与くんの劇作の好きなところでもあります。
萩田 初めてかもしれないです。野田さんにこんなに面と向かって褒めてもらったの。嬉しい…。一見全然違う作風に見えるかもしれないのですが、桃尻犬の作品や野田さんのスタイルにシンパシーを感じている部分もあるんですよ。
野田 それも初耳かも!
萩田 最後に絶対にどうにかしなきゃいけない、してしまうっていうエンターテインメント性や、お客さんへの作品の開き方にも自分のセオリーと通じる部分があります。野田さんの作品は「死」へと突っ切ることもあるけど、それは、僕が「ハッピーエンド」というゴールに向かって疾走していくこととどこか似たよう感覚があると思うんです。僕もラスト10分に命をかけているので、桃尻犬の公演を観る度に勉強になりますし、演劇を美しく終わらせる野田さんの心意気を尊敬しています。

野田 たしかに、演劇の系譜的にもシンパシーはありますよね。当時勢いが凄かった、いわゆる現代口語演劇とか静かな演劇というところとは違う方向に舵を切っている感じというか、半ばその逆張りを目指すというか…。その感じは確かに似ています。
萩田 あと、東京にこにこちゃんも桃尻犬も劇団員のメンバーを持たない、一人で運営していくスタイルの劇団じゃないですか。そこにもシンパシーを感じています。和光スタイルと言っていいかは分かりませんが、二人いるのでこれが和光スタイルってことで(笑)。
東京にこにこちゃん節全開で描く、言葉を奪われた世界
―東京にこにこちゃんは、まもなく劇団4ドル50セントとの初コラボ公演『となりの奪言ちゃん』が開幕しますが、その新作ではどんな演劇を構想していますか?
萩田 僕はこうしたコラボ公演自体が初めてなので、すごくドキドキしています。いつも出て下さっている常連の俳優さん4名以外に10人も初めましての方がいるんです。でも、今まで通りの東京にこにこちゃんの演劇をやるつもりです。早回しとかもガンガンやります!
野田 14人出るってなかなかの大所帯だよね。桃尻犬も今回10名の俳優さんに出てもらうんですよ。出てもらうからにはやっぱり全員を輝かせたいですよね。
萩田 そう、全員目立たせたいんです! でも、恐ろしいことに現状で上演時間が60分予定なんですよ。それで今まさに台本の執筆に苦戦しているところです。
野田 たしかに、それは結構な挑戦かも。
萩田 でも、稽古をやりながら手法が掴めていくようなところもあると思うんですよね。これまではナンセンス演劇に馴染みのある方ばかりに出てもらっていたんですけど、今回はそうではないので、だからこそ見えてくる発見もあると思います。あと、基本的に東京にこにこちゃんの演劇は早回しなので、詰めようと思ったら詰められるじゃないかなとも思っています。ただ、4ドル50セントのファンのお客さんにそのスピードについてきてもらえるのかっていうのが不安ではあるんですけど…。
野田 それは多分大丈夫じゃないかな。東京にこにこちゃんの演劇はただ雑に速いっていうわけじゃないし、その「速さ」に意味があるっていうのは観ていてもわかるし、頌豊与くんがちゃんと伝わるよう作っていると思うんですよ。
萩田 兄貴、優しい…。
野田 お話としてはどんなストーリーなんですか?『となりの奪言ちゃん』ってすごいインパクトある言葉ですけど…。
萩田 「奪言」は僕が作った造語なんですよ。文字通り「言葉を奪う」という意味なんですけど、最近はSNSでも汚い言葉が溢れすぎていて、「もう、こんなんだったら、みんなから言葉を奪っちゃえばいいのに」って思っちゃったんですよね。そんな実感から着想を得て、「青春ど真ん中の高校生の子達が言葉を奪われたらどうなるんだろう?」というお話を書いてみようと思ったんです。「となりの」と付けた理由としては、「奪言ちゃん」というキャラクター自体は出てこなくて、隣の誰かから言葉を奪われるという現象が起きてみんなが慌てるんですよね。ちょっとミステリー要素も含んだ感じの作品にしようと思っています。
野田 なるほど! 物語が進む内に奪言ちゃんの狙いや目的とかが見えてくるのかな。面白そう。
萩田 っていう風なことを野田さんと話しつつ、今この瞬間も脳内で必死にストーリーや展開を練っています(笑)。
野田 奪言ちゃん、進化したりする?
萩田 どうでしょう! ただ、いつものにこにこちゃんらしい、分かりやすくアホな話にしたいとは思っているので、「見るからに悪!」みたいな描写は出てくるかも。まだ分からないですけど。
野田 地底人とかも出てきてほしいなあ。
萩田 出てきません! ってか、野田さん、地底人好きですよね。
野田 だって、宇宙人は結構出てくるんだから、下の方からも出てきてほしいじゃん。でも、宇宙人にはみんなの共通のイメージがあるけど、地底人にはないからフォルムとか難しいのか。
萩田 そうですね。「地底人だよ」って自分で紹介するスタイルしかないですね。
野田 「地底人だよ」と自ら言われると、それはなんかもう地底人じゃないよね。
萩田 一体何の話なんですか! 『となりの奪言ちゃん』に地底人は出てきません!
野田 『グロリアストラベル』にも出てきません(笑)

桃尻犬の新作は、ロードムービーの概念を覆す!
―地底人は出てこないということですが、同時期に開幕する桃尻犬の新作『グロリアストラベル』についてもお話を聞かせていただけたらと思います(笑)。野田さんはここ数年プロデュース公演や外部での作・演出、ドラマ脚本など多方面で活躍されてきましたが、劇団公演は久しぶりですよね。やはり外部公演と劇団公演とではアプローチも変わりますか?
野田 そうなんです。2年ぶりの劇団公演です。やっぱり劇団公演でこそやりたいテーマやテキストみたいなものはあって、間口を狭くするわけではないのですが、深度を深くしていくような感覚はありますね。外部でやらせてもらう時は脚本も演出もちょっと分かりやすくしたり、受け取りやすくしたり、汎用性の高い表現を選ぶこともあるんですけど、ホームでは「分かりやすさ」よりも「作家性」を追求したいという気持ちがあります。物語もギュッと凝縮するような感じですかね。
萩田 今回はどんなお話なんですか?
野田 僕の書く話は基本的にあんまり立派じゃない、情けない人たちがいっぱい出てくるんですけど、今回もそういう人たちがいっぱい出てきます。あと、今回はロードムービーを作る気概で挑んでいます。「演劇でロードムービーは無理だよ」ってみんなから言われているんですけど、その固定概念を覆したいなと。
萩田 たしかに、ロードムービーの演劇ってそんなに観たことないかも。
野田 僕は『リトル・ミス・サンシャイン』という映画が大好きで、あんな雰囲気の作品を目指そうと思っています。「バカな人たちだったな」、「でもなんか切なかったね」って笑ってもらって、最終的には「ああ、空が青いな」って思ってもらえるような作品にできたらと思っています。
萩田 『グロリアストラベル』っていうタイトルも、チラシのビジュアルもめちゃくちゃいいですよね。
野田 これもロードムービーを意識して作りました。
萩田 タイトルに関してはちょっと裏話があって、『グロリアストラベル』と決まる前に野田さんと僕と俳優のてっぺい右利きとかで飲んでいた時に「タイトル何がいいと思う?」みたいな話になって、みんなで考えたんですよ。結構盛り上がったんですけど、しっかり全部不採用になっていて、このかっこいいタイトルに決まっていました。
野田 そうだったね! めちゃくちゃふざけたタイトルだったから、ちゃんとお酒も冷めて冷静になったよね(笑)。
萩田 公演期間が結構なドンかぶりなんですけど、どうにかして行こうと思っています。稽古はどんな感じですか?
野田 まだ序盤なんですけど、結構ガシガシやっていますよ。次の稽古ではみんなでパン作りをします。
萩田 ロードムービー×パン作り?!
野田 パン作りの稽古がどんな風にこの演劇に絡むのかも含めて楽しみにしていただけたら…!
萩田 最後に、これはローチケの白川さんが気づいたことなんですけど、野田さんが今日着ているTシャツ、ジャニスジョップリンじゃないですか。劇団4ドル50セントの劇団名もジャニスジョップリンの逸話に由来しているらしいんですよ。
野田 すごい! じゃあ間接的に今、『となりの奪言ちゃん』を宣伝してるってこと?!
萩田 先輩、ありがとうございます! 秋元康さんにも届きますように!(笑)。

インタビュー・文/丘田ミイ子