
写真左から)中島かずき、いのうえひでのり
劇団の45周年を記念する最新作は、
オールスターキャストの豪華絢爛“チャンピオンまつり”!
なんと今年で結成45周年を迎える、劇団☆新感線。それを記念する秋冬公演の新作舞台『爆烈忠臣蔵~桜吹雪 THUNDERSTRUCK』にはお馴染みの劇団員に加え、お久しぶりの元劇団員、準劇団員と呼べる客演3名が大集合、歌って踊って立ち回る!という新感線ならではの魅力が満載の、否が応でも盛り上がる極上エンタメ時代劇がここに誕生する。
舞台は江戸、財政立て直しを図る改革の真っ最中で人々は贅沢の禁止や歌舞音曲の自粛を強いられていた、天保の時代。そんな時代を生きる芝居好きな人々が、力を合わせて『忠臣蔵』を上演しようと奔走する物語だ。
ちなみに、新感線が本公演で『忠臣蔵』をモチーフに選ぶのは初挑戦であり、ストーリー重視の“いのうえ歌舞伎”と笑い重視の“チャンピオンまつり”が合体する!というのも劇団史上初めてのこと。果たしてどんな破天荒な“忠臣蔵”モノとなるのか、脚本担当・劇団の座付き作家である中島かずきと、演出担当・劇団主宰でもあるいのうえひでのりに、そのヒントを語ってもらった。
――劇団☆新感線で『忠臣蔵』モノに取り組むのは、これが初めてとのことですが
中島 そうなんです。『忠臣蔵ブートレッグ』(1995年に上演されたプロデュース公演。脚本・戸田山雅司、演出・いのうえひでのり、出演・古田新太/他)を観た時から、自分が『忠臣蔵』を書くとしたらどうするかなということは、ずっと考えてはいたんですけどね。でも今回、女の子が歌舞伎役者を目指すシチュエーションを思いついた時に「だったら『忠臣蔵』だ!」と思ったんです。
――それにしても、なぜ日本人はこんなに『忠臣蔵』が好きなんでしょうね
中島 江戸三座の時代でも『忠臣蔵』をやればお客さんが入ると言われていましたしね。
いのうえ 当時は、江戸市民も鬱憤が溜まっていて、その溜飲が下がる、みたいなこともあったのかもしれません。まあ、ストレートではないにしても幕府を批判するような部分もありますから。
――登場人物の名前を変えたりしながら
中島 当時、江戸のご政道を直に扱うのはご法度だったから、直接じゃなきゃいいよねってことで。
――匂わせるくらいなら、と?
中島 誰のことなのか、人々はみんなわかってるわけなんだけどね。
――それできっと、モヤモヤした気持ちをスカッとさせてくれる演目だったから人気だったんですね
中島 でも『仮名手本忠臣蔵』の物語って、実は恋と金の話でもあって。お軽勘平のところなどメインのドラマは討ち入りする義士ではない人々に関するものが多かったりする。
――四十七士に関わる人たちのエピソードではあるけれど…
中島 その人たちの恋愛や、お金にまつわる話だった。江戸の庶民たちは『忠臣蔵』という器の中でも、そういう物語のほうが好きだったんでしょう。自分も『忠臣蔵』を書くとするなら自分が興味を持てる形、芝居を作る者たちの気持ちを描きながら『忠臣蔵』の構造と最後の部分とをオーバーラップさせる、みたいなことができたらいいなと思ったんです。
――とはいえ『忠臣蔵』の名場面も少しは出て来るんですよね?
いのうえ そう、散りばめてあります。なので、そこで何をしているかがなんとなくわかるくらいには『忠臣蔵』のあらすじを把握しておいてもらえると「あ、ここはあのシーンなんだ」と気づけるので。
中島 ま、そんなに多いわけじゃないんだけどね。
いのうえ もちろん、最低限の説明はちゃんとしますから『忠臣蔵』に詳しくなくても、全然大丈夫です。
――実際に、稽古が始まってみて手応えはいかがですか。お久しぶりの方々もいますけど…
いのうえ いや、安心しています。年を重ねている分、身体が昔ほどは即座には反応できていないかもしれないけど(笑)。でも、問題ないですよ。
中島 小池栄子ちゃんのお父さんを(橋本)じゅんさんにすることを思いついた時点で、自分としては「いける!」と思いました(笑)。
いのうえ 栄ちゃんがすごくパワフルだから、この親にしてこの娘ありみたいな説得力があるよね。
中島 彼女がオファーを受けてくれたから、この台本が書けたみたいなところもあるので。もちろん、ゲストの早乙女太一くんも向井理くんも。
いのうえ まったく問題ないです。
中島 彼らの得意なスキルを存分に使ってもらえれば、と思っています。
いのうえ ただ、(橋本)さとしに説明ゼリフをしゃべらせるというのが、今回一番のチャレンジかもしれない(笑)。
中島 そう、そこだけが計算違いだったんだよ。配置上、さとし演じる遠山金四郎が言わざるを得ないセリフなんです。もう長いこと外の舞台でやってきたから、きっと大丈夫だろうと思って書いたのに。初めての本読みで、あそこまで漢字が読めないとは予想外でした(笑)。さとしは、昔のさとしのまんまだったなあ。
いのうえ ま、本番では大丈夫でしょう。その点はご心配なく(笑)。

――演出的には今回どんなことを考えているのか、少しヒントをいただけますか
いのうえ 場面がとにかく多いので、そこをダレずに見せられたらという工夫は考えています。ここ最近のパターンではやっていなかった場面転換とか、見せ方とか。それと新橋演舞場なので花道は基本的に使おうと思っていて。となると、松本公演と大阪公演では、本来は花道でやることを想像しながら客席通路を使ってやることになります。
――その点、お客さんは大喜びかもしれないですね、役者さんとの距離が近くなるので
中島 そうですよね。ただ、高齢化が進む劇団員たちが万一転びそうになった時は、お客さんに助けていただければと思います(笑)。
いのうえ 通路を走るのは役者たちにとってはキツイだろうけど。
――でもお客さんのすぐ横を登場人物が通ることで、物語の中により深く入り込める感覚になるかもしれません
中島 客席を巻き込んでいけますからね。
いのうえ 僕としては、縦の奥行きの芝居が基本的に好きだからなんだと思うんですよ。
――舞台上の横の動きだけでなく、縦の動線も使いたい
いのうえ 横の動きだけだとベタっとしちゃう気がして。やっぱり奥行きがある舞台がどうも好きなんです。
――今回の脚本を書くにあたって、特に意識したことや苦労した点などは?
中島 苦労は、そんなになかったですよ。でも書き始めた途中でこれは猛烈に長くなるなと思ったんだけど、書いている途中でカットすることはせずに。
いのうえ とりあえず最後まで書いてしまったほうがいい、と。
中島 スピードを落としたくなかったしね。それで最後まで書き切ってから、20分くらいをカットしたんです。だから本当は自分ではやりたかったシーンがあったんだけど、泣く泣くカットしました。ちょっと寂しかったです。
いのうえ ハハハ!だって、あのままだったら上演時間4時間半くらいになっちゃうから。
中島 それでもまだ長いんだけどね。
いのうえ 単に、いつもの新感線より3人か4人くらい、喋る人が多いんですよ。
中島 要するに、全員がメインなんですよね。劇団員フルメンバーが、基本的にみんなよく喋る役だし。
いのうえ そうそう、しかもそれぞれが絡むしね。
中島 そこに、実はドラマを背負っていたりするゲストの3人も絡んでくるわけで。
いのうえ 大体、いつもはメインの1人が喋っていたら周りはそこにいるだけだったりするんだけど。
――今回はそれぞれ、みんなが互いに絡んでいって喋るから長くなる、と(笑)
中島 特に後半はせっかくこれだけのメンバーが揃うんで、メインキャストができるだけ揃う場面を多く書いたんです。だから、ほぼ全員舞台に出ているというシーンがわりと多い。
いのうえ 劇中劇を上演する場面だと、舞台上の客席にも大勢人が必要だし。ほぼ全員が舞台上にいると、さすがにお祭り感が出てくると思う。
中島 ぎゅうぎゅうです(笑)。
いのうえ もう満杯です(笑)。
中島 意外と新感線では、ここまで人が大勢いるシーンってそんなにないんだよね。戦うシーンでも、入れ代わり立ち代わり、という感じですし。そういう意味でも、貴重な舞台になるかもしれないですね。
――改めて、45周年ということでどうしてここまで長く続いたのかという点についての想いもお聞きしてみたいです
いのうえ たぶん、そこまでの展望はなかったと思いますよ。目の前の一本一本を、ただただやってきただけで。ここまで頑張るぞ、みたいなことも考えたことない。そんな無理の仕方はしない。
中島 そうそう、2年先の劇場を押さえて、キャストのスケジュールを押さえて、そこで何をやろうかと考える。それをずっと連続でやってきただけ。馬の鼻先にニンジンをぶら下げられて、ひたすら走っているようなもんですね。
いのうえ 終われば、また次の新たなニンジンが現れて。
中島 それが毎回、美味しそうなニンジンだからこそ頑張れた、ということなのかも。
――それが、もし美味しそうに見えなくなったら…
いのうえ まあ、その時は。
中島 いのうえくんが美味しそうと思えなくなったら、終わるんだろうな。
いのうえ そういう環境じゃなくなったらね。
――でもちゃんと美味しそうなものが次々、出て来ている…?
いのうえ・中島 今のところは(笑)。
――素晴らしい、ピッタリ揃いました(笑)
中島 もう、出会って50年ですからね。
いのうえ まさか、こんなに長い付き合いになるとは。
中島 恐ろしいことですよ、だって50年前も今も、ほとんど同じような話をしていますから。「あの映画見た?」とか。
いのうえ そうそう(笑)。
中島 たまたま、美味しそうだなと思うものが一緒だったんです。どちらかが「ニンジンじゃなくて俺はブロッコリーのほうがいいや」とか言い出してたら、そこで別れてたんじゃないかな。
――でも長く続けられた理由としては、やはりこの新感線という集団の面白さがあったからでは?
いのうえ ここ最近で自覚したんだけど、結果的にこういう劇団って他にあまりないんですよ。
中島 小劇場あがりで、個人の趣味みたいなところから始めてここまで続けられているのは、確かになかなかないだろうなと思う。
いのうえ ある意味、ひとつのジャンルとまで言っていただけることもあるので。それならば、もうちょっと頑張りたいなとは思いますけど。
中島 いのうえくんがこのままずっと芝居を作るのが好きだったら、まだまだイケるでしょ。他に趣味もないしね。もしも他に趣味が見つかったら、ピンチかな(笑)。
いのうえ 今更、ないよ(笑)。
中島 急に釣りにハマった!なんてことになったらどうしよう(笑)。でも、たぶん今後もずーっとお芝居が好きなんだろうな。
いのうえ 気になるものがあれば、劇場に観に行くし。今日も、ちょっと面白いという噂の舞台の話を聞いて行きたい!と思ったのに、公演が今日までだったんですよ。見逃した~と思うと今はもうね、それが悔しくて仕方がない。
中島 その気持ち、大事だね。いのうえくんがこうやって今まで通り、芝居好きでいてくれる限りは新感線は健在ですよ!(笑)

インタビュー&文/田中里津子
Photo/村上宗一郎
※構成/月刊ローチケ編集部 9月15日号掲載分【ロングバージョン】
※写真は誌面と異なります

掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
ローソン・ミニストップ・HMVにて配布
【プロフィール】
中島かずき
■ナカシマ カズキ
1985年より座付き作家として劇団☆新感線に参加。「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞を受賞。
いのうえひでのり
■イノウエ ヒデノリ
演出家、劇団主宰。1980年に劇団☆新感線を旗揚げ。代表作に『髑髏城の七人』『阿修羅城の瞳』など。