
役者の数だけ道がある。僕には僕の道がある。
冬の明治座を、赤穂浪士が盛り上げる。12月より開幕の『忠臣蔵』で大石内蔵助を演じるのは上川隆也。04年に『燃えよ剣』で初めて明治座の舞台に立って以来、『魔界転生』『隠し砦の三悪人』とケレン味溢れる時代劇の数々を歴史ある明治座で演じてきた。
「僕が明治座さんでやらせていただいていることを何より強く感じるのは、客席の近さです。3階席に至るまで舞台との距離が近く、他の劇場にはない一体感がある。その臨場感は、演じる身としても大きな醍醐味の一つです」
これまで『忠臣蔵〜決断の時』『最後の忠臣蔵』と二度にわたって忠臣蔵作品に出演した。しかし、前者では討ち入りの発端をつくる浅野内匠頭役、後者では四十七士唯一の生き残りである寺坂吉右衛門役だったため、主君の仇を討ち、本懐を遂げる立場を演じるのは、三度目にして今回が初めてとなる。
「また一から忠臣蔵という物語と向き合おうと思いを新たにしている次第です。まだ手元に台本がありませんので、今回の大石がどういう人物として描かれるかは掴みかねるところがあるのですが、僕の中で大石は正しく武士であろうとした男の一人。主君に仕え、その思いを全うした人物だと捉えています」
演出は、堤幸彦。映画監督の印象が強いが、『魔界転生』でもタッグを組んだ上川は、堤幸彦の舞台演出家としての魅力をどのように感じているのだろうか。
「これまで映像で培われたセンスを舞台の演出に持ち込むことで、堤さんの作品の特色が生まれるのだと感じています。『忠臣蔵』という作品に、堤さんの感性がどう閉じ込められていくのか、僕自身が楽しみにしております」
気づけば俳優としてのキャリアは36年。上川自身、今年で還暦を迎えた。だが、年齢というものは、「特に舞台というフィールドにおいては、判断の外に置いていただいていいものだと思っています」と語る。
「僕は、舞台はお客様に委ねられるメディアだと考えています。かつて『ウーマン・イン・ブラック』という二人芝居を斎藤晴彦さんとやらせていただきましたが、舞台装置がない中、イギリス郊外の風景をお客様一人ひとりがその想像の中に思い描いてくださった。舞台は、目の前にあることがすべてではありません。ですから、今もそうですし、50代の頃もずっと自分の年齢を特に気にしたことがないのです」
上川は自らのことを「生来飽きっぽい性格なんです」と明かす。「そんな性分の自分が一時たりとも飽きることなく続けてこられたのが、お芝居という世界なんです」とも。
「ある意味、お芝居というものを遊び道具のように捉えてきました。そしてきっといくつになってもこの遊び道具に飽きることはないのだろうという確信めいたものが僕の中にあります」
若き日に演じた忠臣蔵作品では、二代目中村吉右衛門、北大路欣也がそれぞれ大石内蔵助を演じた。当時の二人の年齢に、上川も近づきつつある。だが、偉大な先輩に敬意を払った上で、あくまで上川は自らの道を追い求める。
「これは僕の個人的な思いですが、役者の数だけ道があるのだと思っています。先輩方の道を辿りたいと憧れても、決して辿ることはできません。それは、たとえ同じ年齢になったとしても同じです。僕には僕の道がある。どうにかこうにか歩いてきた道すがら、今回こうして大石内蔵助という道標と出会えた。憧れるように拝見した先輩方の背中とはまったく違う場所だとは思いますが、僕は僕の立っている場所から、今回の大石内蔵助をお届けするのみです」
インタビュー・文/横川良明
※構成/月刊ローチケ編集部 10月15日号より転載
掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
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【プロフィール】
上川隆也
■かみかわたかや
′25年はドラマ『問題物件』『能面検事』に主演。映画『ラストマン -FIRST LOVE-』が公開予定。