戦後の闇市を支配するやくざと貧しい醉いどれ中年医師との衝突を描く舞台「醉いどれ天使」。映画監督・黒澤明が三船敏郎と初タッグを組んだ名作映画を原作に、演出は深作健太、脚本を蓬莱竜太が手掛ける。そして、北山宏光演じる若きやくざ・松永の幼馴染、ぎん役をWキャストで演じるのは、横山由依と岡田結実。戦後風俗を鮮やかに描く本作への出演を、2人はどのように感じているのか。話を聞いた。
――ご出演が決まった時の第一印象はどのようなものでしたか?
岡田 今回の脚本を手掛けていらっしゃる蓬莱竜太さんの舞台を個人的に観に行ったことがあり、私が舞台をやりたいと思ったきっかけが蓬莱さんなので、初めての舞台出演ですが、ものすごく嬉しいです。台本をいただいた時も、こんなに面白い仕掛けがあるんだ!と胸が高鳴りました。だからこそ、難しいとも思っていて、これはどういう感情で言っているんだろう、モノローグはどうやって語り掛ければいいんだろう…と、頭を悩ませています。映像のお芝居ともまったく違うんですよね。ただ、読み終わった時に感じた登場人物たちの力強さは、本当に衝撃が大きすぎて、絶対にここに立ちたい!と改めて思いました。
横山 戦後の話ではあるんですけど、今にもつながる部分があると感じました。それぞれに”自由がない”時代で、それぞれに悩みがあって、抱えているものがあって…。そういう中で、何かに、誰かに依存していかないと生きていけない。昔の話だから、私たちに受け取れるものがあるのかな、と当初は思っていたんですけど、そんな心配は必要ありませんでした。まったく色あせない物語です。それに、黒澤明さんの映画版と今回の舞台版の脚本とでは、全く一緒の部分もあれば、全然違う部分もあるんですね。映画をリスペクトしつつ、今の時代にこのメンバーで舞台を作れることは、とても意味があることなんじゃないかと思っています。
―― 役づくりにあたって、戦後の時代背景などを調べられましたか?
岡田 今は、戦争映画を片っ端から観ています。リアルに近づきたくて、闇市が映っている作品も探しましたが、意外と少ないんですよね。演出の深作健太さんも「戦争を偽物にしたくない」とおっしゃっていて、その思いを受けてニュースや海外の戦争にも目を向けるようになりました。そうやってリアルさを入れないと、自分の芝居が嘘っぽく感じてしまうので。戦争の中で生きた人たちの“心の強さ”は、今を生きる私たちにも通じると思います。
横山 私は東京の街が好きで、街の歴史を調べていると「このあたりに闇市があった」とか出てくるんですよ。今の街並みと重ねると、不思議な気持ちになります。私たちが暮らしているような場所にも、かつては闇市が日常としてあって…そこに暮らす人たちが、いろいろなことに向き合いながら生きてきたおかげで、今の私たちの暮らしがあるんだと思うと、そんなにかけ離れていないような感覚になるんです。そういうところから、戦後の時代と自分を結び付けています。
岡田 昔の戦争を描いてはいるんですけど、”今の戦争”とも重なる部分があると私は考えています。登場人物たちはみんな、生きる場所を探していて、叫び続けている。その叫びは、現代の私たちにも通じると思うし、観る人も含めて当事者であってほしい。そういう気持ちで、お芝居をしていますね。
横山 昔のことだし関係ない、と思われがちですが、今も海外では戦争があるんですよね。目を背けずに向き合うことが大事だと感じています。舞台はエンターテインメントではありますが、「楽しかった」で終わる作品ではありません。それぞれに何かを感じ取っていただけるような舞台になればいいなと思います。

―― お2人が演じるぎんという女性をどのように捉えていますか?
岡田 深作さんが言うには、ぎんはこの物語で一番、怒りを抱えている役。でも、怒りや憎しみだけじゃなくて、純粋に”ぎんちゃんってかわいいな”と思う面がたくさんあるんです。松永に対しての愛情や夢への想い、自分の状況に対する力強さ…その全部がいとおしいんです。女性らしい可愛さと力強さをどちらも表現したいですね。
横山 ぎんは挫折を経験しているからこそ強くなっているし、悔しさを知っているからこそ人に優しくできる人物。ぎんのそんな生き方が、すごく好きです。ストレートで熱い気持ちを持っている一方で、ちょっと抜けた可愛らしさもあるので、そういうお茶目なところも丁寧に演じていきたいです。
岡田 松永とのお酒のシーンがあるんですけど、稽古で横山さんのお芝居を観ていたら、もうめちゃくちゃかわいいんですよ! そのお酒、私にもくれないかな、って思っちゃうくらい。あのかわいさを吸収したい!って思いました。自分の役を客観的に観ることができるのは、Wキャストのいいところだな、って思っています。
横山 私もWキャストで演じるのは初めてなんですけど、面白いですよね。松永とぎんは幼なじみなんですけど、岡田さんが演じるぎんは、その”幼なじみ感”がすごく出ていて。観ていると、こういう幼なじみがいたら最高!って思うんですよ。
――主演の北山宏光さんとの共演はいかがですか?
岡田 北山さんは座長としての責任感がすごくて、でもいつも爽やかでいらっしゃるんですよ。アーティストとしてのかっこよさと、役者としての熱量の両方を持っている方です。それはもう、ずっちーな、って思うくらい魅力的(笑)。カッケー!親友になりたい!と思えるような…それこそ、幼なじみだったら最高ですよね。
横山 まさに“涼しい顔で全部こなす人”という印象です。差し入れも一番早くて、お菓子や飲み物をたくさん用意してくださるんですよ。現場を明るくしてくれる存在です。一方で、おそらくご自分のグッズTシャツを着ていたり、多分ピックもご自分のグッズだったりして、そのお茶目さもかわいいなと思います。
岡田 空腹が一番しんどいから、って言っていましたよね。
横山 そうそう! それが全部、名言に聞こえちゃうというか…テロップならキラキラしてそうな言葉になる。
岡田 北山さんは、いつもラーメン風味のお菓子をポリポリ食べていますよね。本読みの時に食べて「めちゃくちゃ美味しい!」ってなっていて…。
横山 なんとなく、あのお菓子は北山さん専用になっている感じがします(笑)
――なんだか稽古場の楽し気な雰囲気が伝わってきますね(笑)。お2人は稽古場での過ごし方などで意識していることはありますか?
横山 特に無いんですけど、朝ジムでアップをして体を動かすようにしています。身体を動かすことが好きなんですけど、夜はジムに行けなくなっちゃうので、稽古前に整えていますね。あとは、お菓子の食べすぎには注意しています。…実は、私はラーメン風味のお菓子を断っているんですよ。おいしいのは知っているんですけど…。
岡田 確かに、横山さんがお菓子を食べているところをあまり見ないかも。
横山 でもアイスは食べるので。最近、某アイスクリーム屋さんのアイスにハマっていて、この間、北山さんと渡辺大さんに大プレゼンしました(笑)
岡田 そんなことがあったんだ(笑)。私は初舞台なので、とにかく皆さんの動きを見て勉強中です。私は感情が顔に出やすいタイプなんですけど、今回はそうじゃなくて、感情を抑えることが大事。ぎんのように、感情が滲み出るようなお芝居を目指しています。だから、今は日常から意識して抑えるようにしています。

――最後に、舞台を楽しみにしている皆様へのメッセージをお願いします!
岡田 蓬莱さんの脚本と深作さんの演出が本当に衝撃的で、舞台上でしかできない表現がたくさんあります。観る人全員が“当事者”になれる舞台です。絶対に後悔しないと思いますので、ぜひ劇場で感じてほしいです。
横山 今回は生演奏もあり、キャスト全員の気持ちをひとつにして作っています。明治座では、ならではのお弁当もありますし(笑)、特別な一日になると思います。Wキャストなので、日によって少し違う空気を楽しんでもらえたら嬉しいです。
取材・文:宮崎新之
